第784話 孤独の岸辺(下)⑦
その、後は?
「まぁ金を借りたまま、奴は地獄行きだ。
残ったのは借金と金にならねぇ汚ねぇ死体だ。
しょうがねぇ、悪名高い金貸しに俺は交渉した。
俺が稼ぐから、屑の死体やら後始末は頼むってよ」
相手は、請け負った?
「あぁ。
俺が誰の子供か知った上での、屑への貸付だ。
どうしようもなくなったら、俺の血筋で金は取り返せるし、況んや貸しにもなる。
金貸し子飼いの傭兵団に入った。
もちろん、屑一匹殺した俺にお咎めはなかった。
お咎めどころか、褒められた。
皆、嘘つきだからな。
俺が殺すのを待ってたんだよ。
俺の踏ん切りがつくのを待っていた。
貧乏貴族の子供ってぇ逃げ道を塞ぎたかったんだろうさ。」
どういう事で、そんな。
「俺の血ってのは、政治闘争に利用できる。
だから、俺が誰の子供かっていう主張を俺自身がするように仕向けたかった。
始末したい奴らと利用したい奴らがいる。
ガキだった自分が割り切るのに、無駄に時間をかけた結果だな。」
でも、それは。
「そう、普通じゃねぇよな。
血は繋がっちゃいねぇが親を殺して褒められるなんざ、畜生だ。」
いいえ、災難にあっている人を助けた。
殺されそうになったから、抵抗しただけです。
「人殺しは人殺しだ。
この選択をしたんだから、当然、罰は受けるべきだ。
俺が後悔しているのは、もっともっと早く受けいれなかった事だ。
自由でいたかった。
義務も責任も負いたくなかった。
これが正直なところだ。
屑なんざどうでもよかった。
俺はけっこう楽しんで生きていたのさ。
あの男が幼馴染のおっかさんに暴力振るわなきゃぁ、何もしなかった。
ひでぇ奴だろ。
反論は無しだ。
で、金貸し子飼いの傭兵団に入って働くことになった。
俺の血筋の方へ借財をしたくなかったんでな。
利用はするが利用されたくねぇっていう、まぁ都合のいい理屈だ。
入った当初の二三年の記憶は無い。
そのくらい阿漕な商売だった。
まぁお陰で屑の借金はあっさり消えた。
二人で稼いだからな。」
二人?
「その未亡人の息子、幼馴染って奴だよ」
ちょうどその時、部屋の扉を叩く音がした。
入室を許可し扉が開く。
そこにはサーレルが書類を手にして立っていた。
彼は私達の様子を見ると、呆れたように片方の眉を上げる。
「捗ってないようですね。これ追加です」
「まだあるのかよ。
みみっちぃ嫌がらせしやがって。」
「可哀想ですよねぇ、飼い殺しで終わるのもわからないなんて」
「口を閉じてろ」
「はいはい、さぁ昼までに終わらせてください。
ご飯をもってきますから。」
「果物を追加してくれ。
これに手伝わせている分の手当だ」
金柑以外の果物希望。
「..金柑以外、何かあればくれ」
見えない会話に、サーレルが呆れたように口を挟んだ。
「念話、どういう仕組なんですかねぇ。
私にもお話が聞こえるようにできますか?」
まさかと首を振る。
これは念話ではなく、グリモアの悪影響だ。
「兎も角、それを出立前までに終わらせてください。
火に焚べたりしないでくださいよ。
もう一度、該当書式を集めさせられたら発狂しますから。
ところで、何を楽しそうに話していたんです?」
「あぁちょうど金貸しに身売りした頃の話をしていた。
あの男も、今だに現役だそうだぞ」
それにサーレルは嫌そうに口を歪めた。
「あの守銭奴の話は止してください。
稼いでも稼いでも利息が増える夢を今だに見るんですよ」
そういうと仕上げた方の書類を抱えて出ていった。
思わずカーンを見ると、頷きが返された。
「あれが未亡人の息子の成れの果てだ。
すっかり根性がひん曲がって真っ黒になったよなぁ」
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