第727話 俺は変わったか?
(魔導師の姿、素性はわかりますか?
魂を繋ぎ止める為に使われた品の形状と利用法。
貴方が支払った対価を教えてください。)
(ニルダヌスの話を肯定するとして、変異体との違いを推察できますか?
獣人や他人種に感染が広がる可能性は、全く無いのでしょうか?)
先の紙片はニルダヌス、次はモルダレオに渡した。
「エンリケに語らせたほうがいい質問ですな。
ですが一応、自分なりに答えましょう。」
先にモルダレオが口を開いた。
「変異体は、体内の寄生虫を改変した結果と述べましたが、失敗作の可能性があります。
目的が軍事利用だとすれば、過剰変異により軍事運用不適格となります。
肉体の強度をあげるなどの運用を目的とするならば、擬態管理をできる我々が理想となります。
知能低下もそうですが、戦闘以外に利用法の無い使い捨ての兵士など逆に費用がかかり過ぎる。資源の無駄でしょう。
この特性、失敗作であろう変異体が為に、一見すると感染拡大が疑われます。
ですが、特殊な濾過臓器を持つ東マレイラ人という限定条件がある限り、感染は制御下にある。
蝿にならぬように、蛆になる場所の掃除をすればよいのです。
問題は、ニルダヌスが言う寄生物の方でしょう。
感染条件に、人種の区別は無い。
彼の妻女は人族種で長命種族よりでした。
ロッドベインは生粋の獣人、それも大型重量です。
どう考えてもこちらのほうが厄介でしょう。
ただし、こちらは過剰変異が見られなかった。
事実、彼の娘の様子は何ら普通の人と変わりないものでした。
もちろん有用とも思えませんし、真偽のほどは不明な話ですが。
まぁ仮定としての話、無意味ですが考えますと。
死者の一時的回復をし制御する代物。
当然になりますが、体内の寄生虫を改変したのではありません。
似ているのは寄生し種を増やす性質ですね。
肉体強度の変化は知りませんが、体内寄生する上に人格へも影響があるとします。
男女間で寄生を広げ、妊婦の場合は最悪の状況となる。
ニルダヌスの話が虚偽であろうとも、アッシュガルトの掃除は的確に為さなければなりませんな。
蝿よりも蚊がわいて、疫病が出ては遅いのです。
水場の掃除をしなければなりません。
と、これが自分の見解ですな。
検証前の不確定な話ですので、単なる世間話以下の事だと理解しなさい。」
と、最後は私に向けてモルダレオは言った。
手段は非常識であるが、争いの形は出来上がっている。
原因は人間同士の諍いが元だ。
そこに呪術や魔導が入り込もうとも、異形が人を喰らおうとも、根本は人同士の争いだ。
手段が非常識であるだけで、千年続くオルタスの業病である。
ならば戦争屋の彼らの話、領分として私はどうするんだ?
無関係をきめる?
いつもどおりの逃げをうつ?
私にはたくさんの言い訳が与えられている。
けれど..
本音は、いつも同じ。
怖いし誰にも傷ついてほしくない。
名と顔を知る人達、私の景色に映り込む人達の暮らしが変わってほしくない。
私は怖がりで弱虫だが、誰かの不幸に安堵するような惨めな心根を育てたくない。
独り善がりな私に何ができる?
グリモアを得た私ができる事。
グリモアの主が使命とは、理の秤を正す事だ。
失われたなら、同じだけ捧げさせる事だ。
ならば、罪を見定め、死者の声を聞かねばならない。
姫の墓を探しにでたように、死者の声を聞かねばならない。
では、どこへ向かうのが良いか?
死者の声。
アッシュガルトか?
そう考えた時、強い否定が返るのを感じた。
いつもよりも強い警告の意思。
そして、こそりと呟く。
『木の葉は流れるのさ。
審判がくだされるには、まだ機が熟してはいない。
君は君の流れを進む。
大丈夫、愚かしい事は向こうからやってくるよ。
ほら、もっと聞かなきゃならない事があるだろう?』
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