第402話 屑入れ ③
己が賢くなったような錯覚を覚えるが、全てはグリモアの知である。
それでも儀式の手順を飲み込むだけで、クリシィの補助ができるのはありがたい。
知識は必要だと意識するとわかる仕組みのようだ。
必要になると書棚から本が取り出されるような感じだろうか。
血肉の書物。
確かに多くの魂と記憶、死者の血と肉がグリモアなのだろう。
グリモアとは魂の記録書だ。
その力は、きっとそれだけではない。
もっと違う力と使用方法があるのだろう。
でも、私には必要がない。
必要と思いたくない。
聖典や儀式の役にたつからと、積極的に自分に有利な事柄を引き出すのは、よくない。
きっと与えられる分だけ、何かを失ったのだ。
金銭の支払いではない。
私の魂が欠け、失ったのだ。
きっと気が付かないうちに、失っている。
それに膨大な知識を得ても、私が善き行いに役立てられる気がしない。
力を手にして、善きことを行う?
傲慢で欲深い話だ。
そもそも私は良い人間ではない。
誰かの幸せを羨んだり、言い訳したり嘘だってつく。
だから、大きな力はいらない。
私が努力して得た知識や力以外は、いらない。
きっと悪い事、悪いことをしなくとも、失敗するのがわかる。
普通に生きていたって、誰かを傷つけたり、失言をしたりするのだ。
これで影響力のある力を振るったらどうなる?
ぞっとする。
意識しなくとも、もう既に他者へと悪影響を与えてしまった。
賢くなったような錯覚?
不愉快だ。
手渡される知識で知恵が深くなる訳もない。
頭の中に虫がいるような気持ちになっただけだ。
これで喜ぶ?馬鹿にされたような気がするだけ。
世間知らずの愚か者に、身の丈以上の力を与える。
それは道化にして遊ぶということだ。
いや、こうして心を波たたせるのもいけないような気がする。
私がすべきは覚悟だ。
こんな力はいらない。
私はあがき生き、死ぬときはためらわないという覚悟だ。
怖いと泣いても、逃げない。
だから、人を愚弄するような力はいらない。
油断しないようにしようと思う。
きっと力を望む時が来るはずだから。
まぁそれはいい、心にそれは留めておくことだ。
それよりも、知識のおかげで助かる事もあったが、グリモアによって学ぶ機会を失ったのも事実だ。
だから、知っている事とは別に、教会にある書物や儀式書にあらためて目を通している。
杖をつき、風邪がなかなか抜けない身でできる仕事も少ないからだ。
それに朝晩の鐘を鳴らしているとはいえ、役に立っていないのだ。
食事や寝床を贖うほどにはまったく働いていない。
これは断言できる。
駄目な自信の断言である。
現実を見れば、己を錯覚しようもない。
どうだとグリモアに言いたいが、下手に意識を向けるととんでもない事をされそうなのでため息だけにしている。
お前の力など役に立たない等と言えば、役に立たせようと碌でもない事をするのが目に見えていた。
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