第269話 特技

 すべてを悪し様に言わないでくれ。


(まぁあの女が極端な例外だってのは、僕も認めるよ。

 地下に巣をつくってさ、街の住人を少しづつ殺していったんだからね。)


 殺した?


(あぁごめんよ。先に答えを言っちゃ駄目だよね。

 僕が漏らす分には、君から奪ったりしないから安心してよ。

 えっとね、君たちが見た街の住人は、半分も残っていなかったんだよ。

 子供や年寄りの姿が見えなかっただろ?

 嫡子が死ぬ、ずっと前から始まっていたんだよ。

 子供を産んで、捨てたあたりからかなぁ。

 それまでも、色々、罪を重ねてきたけれどね。

 あぁ、本当に、面白いよね。

 きっと良い材料になりそうだ)


「大丈夫ですか?ぼんやりしているようですが」


 サーレルの言葉に頷くと、私達は侯爵の後を追った。


 ***


 侯爵は階下に降り、控えていた者を呼んだ。


「イエレミアスも共にあらねばな。

 もう、器だけだとしても、我ともども喰わせねばならぬ。」


 そう言って侍従を二人呼ぶと、書庫から遺骸を運び出した。


「何、墓所は城の中にある。

 もっと奥まった場所故、化け物が喰いに来るまで、そこにいるのも良い」


 そのまま城館の広間へ向かう。


「墓所は、城の広間から見える中庭にある。」

「城ごと燃やすと言いますが、どのように?」

「何もかもを開け放ち、化け物が中に入り次第、再び門を閉じる。

 広間にて、我ら親子が餌となり、奥深く入り込んだところを、内側から順次破壊するのだ。」

「簡単にいいますが、この城館が戦向きではない平城だとしても、それ相応の倒壊させる力が必要でしょうに」

「元々、トゥーラアモンは城館、戦のおりは放棄する。」

「放棄とは、また豪気ですね。貧乏人には考えられない話です」


 呆れたサーレルの様子に、侯爵は朗らかに返す。


「豪気ではないのだ。この城館に金をかけるは、相手が躊躇うように仕向ける為だ。

 己が物にしたいと思わせ、略奪を誘う。

 そうして城深く入り込ませた後、内側から崩壊崩落するように造られている。

 今回は、よく燃えるように、堀の水も抜いて油と火薬をふんだんに使う。」

「なるほど、美しい工芸品、美術品、それに建物もすべて餌なのですね。参考になります。ただやはり、とても贅沢な撒き餌ですね。

 今回は、その価値もわからないような化け物の所為で、燃やされるのですか。」


 広間にたどりつくと、遺骸は領主の椅子に置かれた。

 その姿を丁寧になおすと、侯爵は侍従を下がらせた。


「準備が整い次第、鐘を鳴らす手はずだ。

 鐘が止まれば、城が崩れ初める。

 ライナルトには、鐘が鳴り始めると共に、兵士の撤退を指揮するように伝えてある。

 もし、ここで化け物が死ぬ様子が無いなら、フリュデンまで撤退しながら交戦継続。

 まぁ、それでもおさまらぬようなら、氏族の者をたらふく喰わせろともな」

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