第49話 グリモアの主

 中央大陸から海を挟んで南下した所に、ジグという島がある。

 海流の関係から、戦線維持の為の重要な補給拠点だ。

 この地域は、重要な軍事物資である飛空石の原料が出る。

 だから、海上とジグ周辺は激戦地だった。

 どこと戦っていたかって?

 その時々で敵対する勢力さ。

 欲と欲がぶつかり合うのが戦争で、敵も味方も日替わりだ。

 そんな酷い場所に、俺達は投げ込まれた。

 偶々さ。

 偶々、運が悪かった。

 中央に疎まれた男に配属されたからだ。

 何ら技能も無い、俺達を配属しただけでもわかるだろ?

 てっきり下働きや後方の仕事になるんだとばっかり思っていたのさ。

 ろくろく訓練もしていない寄せ集めを激戦地へ向かわせるなんてさ。

 けれど、文句を言う暇があるなら、生きなきゃならない。

 戦闘が激化して、ジグは無人になっていた。

 まわりを囲む海は、様々な勢力が海戦をしていたし、群島の殆どが、中央軍と敵対する勢力が占領していた。

 つまり敵勢力のど真ん中、ジグに中央の旗をたてていろって置き去りにされたんだ。

 指揮官の男に与えられたのは、俺達のような若造ばかりだ。それも碌々訓練もしていない亜人や人族だ。

 どう戦うか以前に、島で食料を確保するのも難しい状況だった。

 どんな島かって?

 小さな島だよ。

 船が停泊できる入江は東に一つ。

 島の中央は、茨と低木が茂る森になっている。

 食べられる植物も動物もいない。

 虫だけがおおかったな。

 真水は砦の井戸だけ。

 それも枯れかかっていた。

 砦は森の側、丘の上にあった。

 小さな石造りのものだった。

 戦うというより灯台の役目をしていたから、船の修理用の建材と少量の備蓄食料が保存されていた。

 砦は物見塔があって、そこから島全体が見渡せたんだ。

 すごい景色だった。

 灰色の空に、黒い雲がいつも流れていた。

 海も暗い緑色でさ、激しくうねって荒れている。

 この海域のあらゆる潮流が入り込むからさ、島が渦潮の中心みたいに見えた。

 だから、ジグに近づくには、入江の方向以外だと座礁する。

 この海域を航行するには、ジグの周りの海流に乗ることになるんだ。

 だから、このジグが誰のものかってのが重要だった。

 ジグを囲む群島は、このジグに中央の勢力がいるだけで邪魔だ。

 中央はここを占領し続けて、この海域全体を支配したい。

 まぁできたらね。

 できると思っているのは、ジグに来たことが無い人間だけさ。

 数日と持たずに、皆、死んだよ。

 波のように押し寄せる敵が、それぞれ違う勢力だったから、それで全滅しなかっただけさ。

 敵同士潰しあいに忙しかったわけだ。

 島に残る虫なんざ後回し。

 俺達なんて、虫と同じってことさ。



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