第826話 挿話 陽がのぼるまで(下)⑧

「建国と共に行われた宗教統一は知っていますか?」

「はい、それまで信じていた神様や精霊様から、大神様へと信仰をひとつにしたと教えられました。」

「そうね。

 でも、今まで信じてきた神様や精霊様を信じているのは同じでしょう?」

「でも、あまり口にだしてはならないと教わりました。」

「残念だけど、そういう風潮になってしまっているのよね。

 でも本来、神聖教はそうした土着信仰を否定していないのよ。

 それが神聖教の特徴の一つですからね。

 今現在も解釈違いをしている方々が多くいますが、少なくとも本来の神聖教は一神教とはしていないのです。

 これが神殿の派閥の違いにもなっています。

 因みに公王派は、神は神であり、存在を否定する愚かしい轍を踏まない。と、しています。」

「でも、大神様は一柱だと教わりました。」

「そこも神聖教が国教という立場だからですね。

 多くの問答においては、こうしたお話はしません。

 つまり話題にすると面倒事になってしまうからですね。

 国教となると、それは信仰だけの話ではなくなるからです。

 良き治世と人の繁栄の一助に用いられる手段が、害悪となってはならないからですね」

「手段ですか」

「私は宗教政治学に重きを置いている為、物言いがよくありません。

 つまり巫女らしくない、とも言えますね。

 まぁ異端とならぬように、教えの外へと派手に踏み出さぬようには心がけているのですが。

 さて、宗教統一により、中央王国は神聖教を国教と定めました。

 多くの宗教は解釈をひとつとし、崇める神をも定めました。

 大変恐れ多い話で、これは国を作るため、人が必要としたからです。

 それぞれの種族の神を否定しようとした。と、解釈する人もいるでしょう。

 ですが実際は、それぞれの信仰を残す為でもあったのです。」


 でも、神聖教以外の信仰は残っていない、もしくは廃れている。

 その反論に、巫女様は肩をすくめた。


「宗教対立を最小限にする為に、それぞれの信仰を紐づけしたのです。

 貴女も幼い頃に聞かされたかもしれません。

 そこここに宿られる神とは、すべて大神様のお姿である、と。

 この拡大解釈を可能にしたのが、そもそもこの大陸の宗教には、共通点があった事。

 その共通点を取り込み、受け入れる事が可能だったのが、新興の宗教である神聖教だったからですね。

 つまり、神聖教はいちばん若い神を崇めている。

 古き神々が末の子という位置づけですね。

 これを良しとしない考えもあります。

 我が神こそがとどうしても考えてしまうのが人間ですからね。

 さて、話を戻しましょう。

 オルタスの多くの種族民族がそれぞれ頂いていた神々は、陽光と火を崇めていました。

 これが共通点ですね。

 陽光と火、拝火の教えが多かったのです。

 これは神聖教の神と清めの儀式も同じですね。

 国として宗教の名を統一し、それぞれの解釈を細かく編纂し紐づけるというのが、宗教改革の主眼であり、土着宗教を駆逐するのが目的ではありませんでした。

 残念ながら、そうした考えは年月を経るごとに忘れられ、硬直した教義へと堕落する事も多々ありました。

 つまり神聖教とは、陽光と火を崇める集団の事なのです。

 炎の使徒団という分派名も、この意味を受け継いでいるからです。

 多くの土着宗教とは兄弟になり最小限の摩擦で済む。

 済ませようとした訳ですね。

 故に、神聖教はそうした土着宗教を駆逐する考えを本来はもっていなかった。

 この事が国教とされた一因です。」


 

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