第442話 絵札
差し出された心に対して、私は何が返せるのだろうか?
胸の奥に響く思いに、私はことさら何事も無かったように取り繕う。
私は間違っていなかった。
脈絡もなく浮かぶ。
私の選んだ道は、間違っていなかった。
この人は、まだまだ生きるべき人だ。
例え、人を殺す生業の者だとしても。
必要とされる人であり、人の優しさを失っていない。
そんな一瞬の感傷と思いに蓋をする。
ならば余計に、私は供物としての努めに向き合わねばならない。
約束は果たされなければならない。
そうして集会場まで引き返す途中、可愛らしい貝殻の装飾が施された店に通りかかる。
白く塗られた壁に、貝殻が埋められている。
薄桃色やほんのりとした緋色、鮮やかな色も混じっており、その形は不可思議で謎めいていた。
その店先には様々な貝殻細工の装飾品が置かれている。
土産物屋だろうか?
海辺らしい何とも楽しげな店である。
「何の店でしょうか?」
私は、冷静で落ち着いた人間だと思っていた。
けれど、最近は動揺しやすく涙もろい。
寄り道や雑談でもしていなければ、嘘がつけそうもない。
見たこともない海辺の店は、気をそらすのに良さそうだった。
薄桃色の小さな首飾り、小さな貝殻の腕輪。
値段は宝飾品とは思えない安いもので、きっと話の種にする程度の土産物だ。
それでも見ているだけで、心が落ち着いてくる。
首飾りの置かれた台から奥は、硝子細工が並ぶ。
金銀の装身具や、きらきらとした宝飾品。
値段の高い物は奥にあるようだ。
更に奥には、臙脂の布がかかった、大きな水晶の塊がある。
その脇には小卓と椅子があり、料金と占いと示された木札が置かれていた。
よく見ると、椅子の下には、大きな茶色の猫が寝ている。
歳をとった大猫らしく、むくむくと太り鷹揚そうだ。
奥の店番の長椅子には、若い女、否、子供が座っている。
少し痩せて顔色が悪い。
柔らかい色合いの赤みがかった金髪をお下げにしている。
店を覗き込む私達を見ると、不機嫌そうに睨んできた。
「冷やかしは帰っておくれ」
物言いは刺々しいが、声は可愛らしい。
どうやら人族の少女、見た目通り幼い子供だ。
怒らせるのも気分が良いものではない。
立ち去ろうとカーンを促す。
「何か占ってもらえばいい」
と、まるで私がそう望んでいるかのように店へと入り込んだ。
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