第668話 挿話 兵(つわもの)よ、剣を掲げよ盾を押せ (下)前④

 そんな宴は一夜で終わり、二日目。

 人となりはアレだが、如才ない公爵は、元老院の者であるサーレルとの密談に入った。

 政治調整などは、イグナシオの職務には無い。

 権謀術数は、それに見合った資質と能力にのある者がするべきである。

 と、彼も理解しているし、自分には無理だとも知っている。

 代わりと言っては何だが、彼らの密談の間、イグナシオは彼自身の資質と能力に見合った、爆発物や貴重な鉱物、そして武器や食料の調達に回った。

 それぞれに部下達を振り分けて、ボフダンの付き添い込みで城下、港等を回る。

 見て良い場所だけであるが、それなりに自由に買付や現地民との交流が為された。

 接待で取り繕った場所だけとも思えぬ、ごく普通の暮らしぶりであった。

 ごく普通。

 収穫も交易も王国でいう平年並みの、穏やかな暮らしぶりに見えた。

 コルテスが美しい湖沼と山々、鉱山開発と公主殿下による芸術を興隆させた土地柄だとする。

 人口は土地面積に比して考えると少ない。

 長命種と短命人族種が人口をしめ、その割合は他の地域とは違って、長命種六割、短命人族四割と公表されている。

 一般的な王国領では、長命種の割合が非常に高いとされる人口分布だ。

 そう、これでも高い割合なのだ。

 純人族主義であるコルテスだが、長命種人族と短命種人族を分けてはいない。

 尊い長命の血だと騒いだところで、いずれ、短命種人族の割合が殆どになる事は自明の理だからだ。

 シェルバンの考えはわからない。

 建前上、シェルバン人に長命種以外は存在しないとしているからだ。

 では王国の一領地であるボフダンは、海を抱える造船と工業技術に特化した土地柄だ。

 そして純人族主義としながらも、出会う民の殆どが、長命種族、人族種ではない。

 既に人口比率は逆転している。

 それは出生率から考えても当たり前の事である。

 支配者層を長命種族で揃え、純人族云々を掲げても労働人口を支えるには、先細りが激しい種族ではどうにもならない。

 と、難しい話や理屈は抜きにして、長命人族種に出会うほうが珍しいぐらいだ。

 誰も何も言わないが、混血化は進んでおり、人族短命種と亜人の住民が民草の殆どだ。

 そんなボフダンの街並みは、シェルバンの白壁とは違い、石と鉄の建材で作られており、一風変わった不思議なものである。

 人々の服装も港町風ではく、革細工にやはり変わった金属が使われている。

 南で言うところの、鍛冶の服装に似ていた。

 多分、火を扱う仕事が多いからだろうか。

 そんな人々は、イグナシオの武器(槍は置いてきている)、火薬仕込の鉈や短刀など身につけている物に興味を示した。

 他の地域では無い反応である。

 普段は遠巻きにされるところを、武器屋が並ぶ地域に入った途端、髭面の男たちに囲まれて騒がれる。

 騒がれると言っても、因縁をつけられる訳では無い。

 見たことも無い仕掛け武器に、悲鳴をあげて群がり質問をし始めるのだ。

 人気の娼妓が街に繰り出したかのようである。

 案内のボフダン人も苦笑いだ。

 普段なら即座に殴り飛ばしているイグナシオも、同好の士が相手では話が違ってくる。

 そのまま街一番と称する大店になだれ込むと、技術交流だとばかりに様々な火薬と武器の話で騒いた。

 まぁサーレルにしろイグナシオにしろ、ボフダンでの歓待に非常に満足したというわけである。

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