第649話 挿話 兵(つわもの)よ、剣を掲げよ盾を押せ 上 ⑤

「楽勝..」

「ここで嫌味を言われても。

 言い返せない自分が悲しいですね」


 コルテスの関を2つ、問題なく抜けた。

 正確には問題はあった。

 人間がいなかったのだ。

 戦闘の痕跡。

 そして死体が無い。

 城塞にいる仲間に報告を飛ばし、シェルバンの森林地帯に侵入。

 森に入りシェルバンの最初の関、街道側の小さな砦が目視できる場所に到着。

 コルテスの関で何があったのか。

 ある程度の答えがそこに見えた。

 砦の周辺には激しい争いの跡と、死体。

 異形がいた。

 醜い姿に変異した、多分、元人間様の姿が見える。

 コルテスに死体が無かったのは、喰われたからだ。

 醜い姿は、亡骸を喰っている。

 砦の入口は破壊され、中からは煙りが立ち昇っていた。

 どういう状況か想像するまでもない。


「迂回するか焼くか。

 焼くにしても、シェルバンの土地では善意にとられないでしょうねぇ。」


 しかし、傍らの男は、既に火薬を打ち出す筒を構えている。

 連発はできないが、小さな一軒家なら吹き飛ぶ代物だ。


「まぁそうですよね〜、やきますよねぇ。あ〜ぁ」


 ***


「モルダレオ達の方は、どうなんだ?」


 一人頭部を叩き潰し、柄の部分を引き回して二人目を抉る。

 イグナシオの長槍の軌道には、ひき肉の山が出来ていた。


「原因は一応推測できたんですけどねぇ。確証は無いんですよぅ」


 サーレルは部下達の後ろで、時々取りこぼしを斬り伏せている。

 斬った後の始末は、焼き専任の者が端から油薬を浴びせかけていた。


「この虫のお陰で、炎に巻かれないようにするのが面倒ですねぇ」


「で?」


「宿主が機能を止めると出てくる虫が原因です」


「まぁ誰でもそう考えるな」


「問題は、何故、なんでしょうねぇ」


「どういう意味だ?」


「東マレイラでの大きな出来事は、過去3つあります。

 中央に影響が出かねない、出来事だけですが。

 鉱毒、公主死亡、腐土出現による鉱物加工の停止です。

 中央の政治に影響が出る事件です。

 東マレイラで紛争がおきる、異常がおきるなら、この3つの節目が良い機会だったと思うのですよ。

 私が考えるに、この時代、我々が子供の頃か、傭兵仕事をしていた頃でしょうね。

 ならばです。

 事を起こす時だと、判断する何があるのでしょうか?

 今、何が起きているのでしょうか、とても気になりませんか?」


「人為的なものなのか?」


「目的がいまひとつ掴めません。

 そこを確かめる為にも、感染源、もしくは発生源を特定する。

 をあきらかにする必要もあります。」


 その言葉に、イグナシオは火薬を投擲してから後ろに下がった。

 轟音の後、炎の壁ができる。

 その間に、部下が前を固めた。


「感染、病なのか?

 人が引き起こした事じゃないのか、おい」


「長い話になりますよ。

 先ずは、ここを手早く焼き上げて、先に進みましょう。

 だいぶ時間を浪費していますからね。」


 それに同意すると、イグナシオは補給物資の乗る荷駄から火槍を取り出した。

 部下にも数本与える。

 火槍とは、名称どうりの火薬を縛り付けた小型の槍である。

 獣人の膂力ならば、飛距離も望める。

 砦の表門を吹き飛ばした火薬筒に引き続いての飛び道具だ。


「あぁ〜一応、無事な者もいるかもしれ..」


 轟音と共に、砦から火柱が上がる。

 自壊するのか内側に外壁がボロボロと落ちていくのも見えた。


「あ〜、うん」


 カーンがいれば、スヴェンかオービスに見張らせるのだが、今回はサーレル以外に抑止力は無い。

 イグナシオ爆殺魔の本領発揮、火薬の大盤振る舞いだ。


「はぁ、まぁいいか。

 どうせ生き残っていたとしてもシェルバン人の兵士でしょうし。あははは、はぁ〜」


 態とらしい笑いで誤魔化すと、サーレルは変異者の残りを確認するように指示を出した。

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