第185話 死にあらず ④
「でも、安心してください。
際限なく殺し合うような事を防ぎ、中央王国が一つである事。
それを確かにする決まり事があるのですよ。」
サーレルはエリと私に向けて言う。
それにラースは何も言わない。
わかっているし、発言は嫌味みたいなものだ。
「
誰が領主になっても良いと先に言いましたが、なれるものならという事です。
その一つに、
殺し合いを防ぐとは一言も無い仕組みですが、これが一番の抑止力でしょうか」
国璽とは王の印の事だろうか?
私の疑問がわかったのか、サーレルは説明を続けた。
「この技術の一つに、公王から与えられる
領地で使える一番偉い人の印ですね。
領主の権威と正当性を証明する物です。
この印璽を使用しない限り、己が領内の公文書が正当な物ではなくなります。
どんな命令や決まり事を偉い人達が決めても、この印が無いと嘘になるのです。
とても大変な事でしょう?」
それにエリはゆっくりと頷いた。
サーレルは唇の端を引き上げて、窓の外を見ながら続けた。
「ですが、この印璽は、その辺で作られるような代物ではありません。
偽造ができない上に、本人以外が使用できないようになっています。
この印璽がどのような物であるかは、ここでは述べません。
ここに入る時に使った真偽の箱も同じ技術だと言えばわかるでしょう。
故に、何処ぞの誰かが、署名印を奪い、侯爵の氏族の方を滅ぼした所で、中央がどういう判断をするかはわかりません。
あえて言うなら、どれほどの利益を示せるか、能力を示せるかが問題なのです。
善悪では判断もしませんし、簒奪があったとしても罪に問うかはわかりません。
神殿などが介入し、正当性を示す者がいたならば、そちらに話が流れるかもしれません。
また、継ぐべき人物が誰一人として示されていなかった場合でも、その何処ぞの誰かの手に入るとは限らないのです。
そしてこの国璽技術体系の一番重要な決まりは、もし、この署名印が紛失または破壊された場合は、領地そのものの権利が失われる事。
所有者が死亡した場合、印璽をもって中央での審議が行われ、正当な
正当な継嗣とは、印璽に残る侯爵の意志ですね。
つまり、全てを殺して椅子に座っても、そこに座っていられるかは、中央の考え方次第と不確かなのですよ。」
そこまで一気に喋った男は、窓の外へと笑いを溢した。
「そしてね、中央の、いいえ、公王陛下は、殊の外そうした嘘つきや卑怯な輩がお好きでしてね。
そういった輩の困った姿を見たがるのです。
猫が鼠を
ですから、家中での争いは極力避けるのが普通です。
いえ、普通ではなく賢いですか。
だから、貴方方アイヒベルガーの方は、方針を既に決めていらっしゃる。
後は、我々を餌にして何が釣れるかを待っている。
侯爵殿が生きていらっしゃる内にですね。」
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