第354話 群れとなる (中) ④
「この、罰当たりの愚か者め!
不遜にも婦女子の棟に無断で入り込むとは、誰が許そうとも、この私が許しませんよ!
私の目の黒いうちは、何者であろうとこの場に入り込む事は許しませんよ!
この罰当たりの愚か者!
神の怒りを受けて、朽ちるがいい!」
「いてぇっす、許して欲しいっす、俺、雇われてるだけっす。
朽ちるのヤデスぅ」
「このこの、放しなさい!
神殿の巫女の棟へと入り込むなど、万死に値しますよ。
直接、王へと直訴し、貴方方に罰を与えますからね!」
「わかってますぅお許しくださいよぉ。罰を与えるなら雇い主だけにしてください。
お慈悲を、お慈悲を俺だけにお願いしますぅ。
この後、いっぱい喜捨しますんで。
俺的に、巫女様がたの罵声だけで死にそうなんですから、あんまり怒らんくださいよぉ。
怪我もさせたくないんで、殴るのはいいですけど、手を痛めますからぁ」
「この、この、貴方が誰か知っておりますよ!
貴方の御母上には、莫大な喜捨をいただいております。
この事は、御母上に直接抗議させていただきますからね」
「あぁ、俺、マジで死ぬんだぁ。クソババァに斧でかち割られるんだぁ」
「わかっているなら、この手を放しなさい!
それから自分の母親に悪態をつくなど、言語道断。神と両親に謝罪をしなさいっ」
「あぁ、すんません、すんません、悪いのは皆、あの頭のおかしい雇い主なんです」
「やっぱり!
何処にいらっしゃるのですか、殿下っ!
殿下っ、聞こえておいでですね、後でゲルハルト侯爵にすべてをお伝えしますよ。
よくよく覚えておいてください、この婆直々にお伝えし、お坊ちゃまの愚行を余すこと無く伝えた上で、罰を下されるようお願いいたしますからね、よくよく覚えておきなさい!
この婆が、絶対に許しませんからね!」
「うわぁ、目潰しは止めてくださいよぅ。つーかもしかして神殿に入られた乳母様で?」
「気付くのが遅いわ、この愚か者めがっ!
この神殿の巫女総代である婆を知らぬとは、よほど神殿から足が遠のいているようだ、この不信心者がっ!」
「禿げますからぁ、毛をむしるのだけはご勘弁を〜」
「手をはなしなさいっ!」
貴婦人とは思えない怒声罵声の後、若い男の声が許しを懇願していた。
単なる賊では、なさそうである。
話の様子から、巫女頭様とは見知らぬ仲でもなさそうだ。
それに逃げるも何も、誰が来たとしても身動きできる状態でもない。
ならば神殿の方々に迷惑がかからぬようにしたいと思った。
「はいはい、この部屋にいてくださいねぇ、いててっ、お話するだけですから。何もしませんから、多分」
「この不届き者がっ怪我人に何をするつもりか」
「はい、連れてってねぇ、怪我しないように他の巫女さんと一緒にねぇ」
騒ぐ気配が遠ざかる。
暫くすると、一人分の足音だけが聞こえた。
たぶん、巫女頭様を遠ざけた男の足音だろう。
それはここへたどり着くまでの間の部屋部屋をひとつひとつ開けては確かめているようだった。
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