第7話 自壊

 異世界三日目です、おはようございます。

 あれから何度も寝落ちを繰り返しながら瞑想を続けました。

 そしたらなんかね、瞑想中に俺、異世界テンプレでお馴染み、神との邂逅を果たしたかもしんない。

 めっちゃ美人なお姉さんが出てきたの!

 挿絵とかでよく見る、白くてひらひらした服着てたし、絶対そう!!

 優し気なお顔で微笑んでいらっしゃった。

 え? 何を話したかって? なんも。

 本質っていうのはね、そういうことじゃないんだよ。

 俺が思うに、あの微笑みこそが全てなんだよ。

 それを悟るとさ、この世界に転生した理由とか? 使命とか? そんなんどっか飛んでったね。

 っていうか、思い浮かびすらしなかったわ。

 ああそうそう、眠気がどうとか? そんなん関係ない、ただ続けるだけでいい、そしたら女神様が導いてくださる。

 それが俺のスタイルってこと。

 どうだ、キマってるだろ?


 最高の目覚めに気分を良くしながら、食堂へ向かう。


「なんか今日のアレ、にやにやして気持ちわりぃな」

「どうせスケベな夢でも見たんでしょ? 童貞感丸出しだね」

「それは、おめぇもだろ」

「いやいや、僕はあんな気味の悪い顔とかしないし」

「何言ってんだ、おめぇが昨日声かけてた令嬢、怯えた目ぇしてたぞ」

「え、そんな……ホント?」

「ホント」

「終わった……行ける気がしてたのに……」

「おめぇって、妙にギラついた目ぇしてるからな、気ぃ付けろよ?」

「いやだ、僕は飼い慣らされた家畜のような目になるぐらいなら、飢えたウルフでいたい!」

「おめぇの領地の主な産業……畜産だろ、親父殿に聞かれたら頭かち割られるぞ」


 昨日俺は一気に6割4分を目指して失敗した。

 なので、じりじり行くことにして、通常の7割8分を盛り付けた。

 さすがの腹内アレス君もこの微妙な差には気付くまい、俺って奴は策士だね!!

 ……気付かれた。

 目盛りでもついてるのか!? って言いたいぐらい正確に空腹感が襲ってくる。

 だから、フライドチキンを1本ずつおかわりして刻んでったら、だいたい7割9分かなってぐらいで空腹感が耐えられないほどじゃなくなった。

 腹内アレス君もさ、ちょっとは俺の顔を立ててくれる気があるみたいで、0割1分は妥協してくれた。

 それでも、フライドチキン10本食べたけどね。


「……あれを見ちまうとおめぇじゃ精々、飢えたオークに食い散らかされるウルフだな」

「……否定できないところがツライ」


 さて、三日目の今日はどんな授業が待っているのかな。

 ワクワクが止まりませんよ、やっぱ異世界はこうでなくっちゃ!

 ……やべぇ、エリナ先生の顔を見てたらなんかわかんないけど、後ろめたい気持ちになってくる。

 だから俺は心の中でそっとつぶやく「ごめん」ってね。

 別にこの気持ちが届いてくれなくても構わない。

 俺自身、なんで後ろめたい気持ちになっているのか、わからないから……


「入学前に魔力操作を十分練習してきたと思うけれど、昨日の魔力測定の結果から考えて、まだまだ磨けると判断したわ。なので今日からしばらくは、魔力操作に集中します」


 もしかして、エリナ先生は俺のために今日の授業を考えてくれたんじゃないかと思ってしまうぐらいにナイスタイミング。

 正直なことを言うとさ、アレス君が真面目に聞いてなかったからだろうけど、家庭教師の指導あんま頭に残ってなかったんだよね。

 だから、改めてエリナ先生に教えてもらえるのはありがたいね。


「もう聞き飽きた説明になると思うけれど、もう一度魔力操作の基礎から説明するわね。まず、あらゆる生命体には魔臓と呼ばれる、世界に漂う魔素を吸収し魔力に変換、貯蔵する臓器があるわ。これは、目には見えなくても体内に在るものなの。そして、生命体によって、もっと言えば私たち一人一人在る場所が異なるわ。もう一度、この魔臓の場所を感じることから始めましょう」


 魔力の素となるのが魔素ってことね、この辺は前世漫画で似たようなこと習った気がするね。

 でも、魔臓の場所が人によって違うとかマジかよ、俺が読んだ漫画内師匠の教えから丹田一択だと思ってたから、考えたこともなかった。


「世界中に漂う魔素が体の中に集まって来ることをイメージするの。イメージの仕方は各自自由よ。呼吸に合わせても構わないし、体に魔素が通る穴が在って、そこを通って集まって来るイメージでもいいでしょう。足の裏から大地に宿る魔素を吸い上げるイメージを行う魔法士もいるわね。それを続けると、体の中に日常では感じない魔力の感覚、温かかったり、冷たかったり、ピリピリしたり……それらが強く感じる場所に魔臓が在るわ」


 なんか、鼻呼吸が健康にいいとか聞いてからずっとそうしてたんだけど、それだと魔素の入り口が鼻だけになって勿体ない気がするな。

 よし、それなら全身の穴という穴、毛穴に至るまで利用して魔素を取り込んじゃおう。

 へへっ、周りの小僧どもに分けてやる必要もないし、この世界に独占禁止法だってまだあるまい。

 ここら一帯の魔素全部独り占めじゃい!

 

 おお、臍の下が温かくなってきた……なんだ、やっぱ漫画内師匠の教えは正しかったじゃないか。

 師匠! 確かに魔臓は丹田にありましたよ!

 そうして、気分よく魔素を体に取り込み続けていたが、なんか温かいレベルを通り越して熱くなってきた、体中もあっついし……もしかして熱中症をもう一度ですか?


「アレス君、そこまでよ、魔素を集めるのを止めて、魔力を体外に排出するのをイメージするの」


 ん、イメージ? あ、そういうことね。

 エリナ先生の言う通りにイメージを切り替えた。

 すると、全身の熱が収まってきた。

 ふぅ、全身汗だくですよ、俺一人サウナに入ったみたいになってる。

 もしかしてだけど、ととのっちゃったかもしれんね。


「アレス君……今のは……どんなイメージをしていたの?」

「はい。私は元々、呼吸に合わせて魔素を取り込むイメージを行っていました。ですが今回は、先ほどのエリナ先生の『体に魔素が通る穴』という説明を参考に体中至る所、まさに全身に魔素が通る穴があることをイメージし、少しでも多くの魔素を体に集めようと懸命に取り組みました」


 エリナ先生の雰囲気からこれは俺Sugeee案件だと察したので、先生の教えのお陰で成果を出せました感を出しつつ、表現をキレイめに整えて答えてみた。


「そう……魔素を体に集めるのはとてもよくできていたと思うわ……だけれど、今回は集め過ぎてしまったみたいね。魔臓に溜め込まれた魔力の負荷に全身が耐え切れなくなりかけていたわ。それは自分でも感じたわよね?」

「はい……全身がとてつもなく熱くなり、非常に驚きました……」

「そう、それよ。今回のことで魔力の感覚はよく掴めたと思うから、ある程度のところで魔素を集めるのを抑えるか、溜まり過ぎた魔力は体外に排出すればいいと思うわ」

「なるほど、今後はその点についても意識を向けていきたいと思います」

「ええ、それがいいわ。みんなも、魔素を体に集める際は注意して行うのよ…………もっとも、体が自壊してしまうほどの魔力を溜められる魔法士なんてほとんどいないでしょうけれど……」

 俺は難聴系ではない自負があるからね、エリナ先生が最後に小さくつぶやいた独り言、ばっちり聞こえちゃいました!

 ふふっ、まいったな、エリナ先生も俺の才能を目にして、乙女回路が刺激されちゃったかな!?

 こうして今日の授業が終了した。

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