閑話2 エリナの報告
「久しぶりだね、エリナ君。君が学園の教師を始めてからだから、もう3年になるのか……」
「ご無沙汰しております、ドミストラ隊長」
「君が宮廷魔法士団にいた頃を思い出して懐かしくなるな……まぁ、それはさておき、この3年間学園都市に籠って一度も王都に顔を出さなかった君がわざわざ来たんだ、余程のことがあったのだろう?」
「はい、まずはこれを見てください……」
「おいおいエリナ君……それは30年前の第5王妃暗殺未遂事件以来、王国では資料用を残して徹底的に破却されたはずだぞ? 見た目は上手く誤魔化してあるとはいえ、なぜそんな物がここに?」
「学園の生徒が発見しました。話によると行商人になりすました魔族が効果を偽って村人に持たせていたようです」
「なんだってそんなことを……」
「どうやら危険思想を持つ魔族が、吸命の首飾りやそれに類する物を使い、力を集めて何かを企てようとしているとのことでした」
「力を集めて……大規模魔法か……巨大魔獣の召喚あたりか?」
「その規模で収まればまだ良いのですが……どうやらもっと大きな企てのようです」
「なぜそんなことを……王国に戦争でも仕掛けるつもりか?」
「その可能性があります」
「……200年前の人魔大戦以来、少しずつお互いに歩み寄り、ようやくその努力が実ろうというところで……その危険思想を持った魔族はそれを破壊しようというのだな?」
「はい、そして既にそのような魔族は王国に散らばり、暗躍を開始しています」
「なんたることだ……いや、それに気付かなかった我々の失態か……わかった、このことは私から陛下に報告しよう。それと、今回の功労者の名前を聞いておこう」
「アレス・ソエラルタウトです」
「あの侯爵家のか!?」
「はい、間違いありません」
「まさかあの悪童が……魔族のことよりも、今日一番驚いたかもしれん……いや、君が彼を更生させたのだと考えれば不思議でもないか……だが、それにしてもまだ1カ月程度だというのに……フッ、やはり君の指導力は大したものだな!」
「恐れながら、私は何もしておりません。学園に入学し、初めて会った日から彼は礼儀正しく真面目な生徒でした。入学前の彼の悪評は何かの間違いではないかと思うほどです」
「いや、間違いではない。現に私はこの目で癇癪を起こす姿を何度も見たことがあるからな」
「そうですか……そうであるなら、入学前のどこかのタイミングで心を入れ替える機会があったということなのでしょう」
「ふむ、そういうこともある……か」
「信じられませんか?」
「いや、君が言うのだから、そうなのだろうとは思う……ただ、それを信じる者がどれだけいるかはわからんな……それぐらい彼の評判は悪いからな」
「……とても残念でなりません」
「彼のことをよっぽど気に入っているようだな」
「そうですね、彼の成長を見守るのはとてもワクワクします。将来はきっと王国を代表……いえ、それよりもっと偉大な魔法士になるだろうと今からとても期待しています」
「そうか、それは楽しみだな」
「はい!」
「思わぬ名前が出たことで脱線してしまったが……功労者の名前もしっかりと陛下に報告しておく」
「そうしてあげてください」
「うむ。あとは何かあるかな?」
「いえ、それだけです」
「そうか……そしてエリナ君、今は充実した教師生活を送っているみたいだが、我々宮廷魔法士団はいつでも君が復帰するのを待っているからな!」
「隊長、それは……」
「いや、わかっている。だが君ほどの逸材だ、どうしても言わずにはいられないさ」
「過分な評価、ありがとうございます」
「いやいや、君の実力は本物だ、自信を持ちなさい」
「はい」
「よし。それじゃあ、私は早速陛下に報告に行くことにするよ」
「宜しくお願い致します」
「ああそれと、君にしつこく言い寄っていたあの王族だが、いろいろあって辺境に追放されたよ。だからと言うわけでもないが、たまにはこうして王都にも遊びに来てくれ、団のみんなも喜ぶ」
「そうでしたか……そうですね、今回はこれで学園都市に戻りますが、いずれ機会を見つけてまた王都にも来ます。団のみんなにもよろしくお伝えください」
「ああ、任せてくれ。ではまたな」
こうして私の古巣である宮廷魔法士団の元上司、ドミストラ隊長との面会は終わった。
これで隊長から直接国王陛下に報告が行き、魔族への対策に王国が動くはず。
どこまで王国が動いてくれるかしら……
「このまま魔族による暗躍を止められそうになければ……私も戦う準備をしておかなければね」
それにしても、普段の隊長なら「あのワルガキか、成長したな!」と言うところだろうに、妙に歯切れが悪かったわ……それだけ王宮内での悪評に影響を受けていたということなのでしょうね。
今回の報告で多少でも改善されればと思っていたけれど、望み薄かもしれないわね……
まぁでも、隊長も今日でアレス君の評価を改めてくれるでしょうし、本当の彼を理解してくれる人も増えて行くはず。
それまでは、陰ながらアレス君を支えよう……いえ、アレス君なら私の力など必要とせず、どこまでも一人で突き進んでしまうかしら……それはそれで寂しいものね。
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