第787話 思いがけず同志を得た気分だよ!!

「さて、そろそろ運動場に向かうとしようか」


 ロイターの号令の下、夕食を終えてのんびりくつろいでいた俺たちは移動を開始しようとしたところ……


「あっ、すんません! 俺らも一緒に行っていいっすか?」


 そのとき声をかけてきた、男子の一団。


「おっ! もしかして練習会に参加希望か? よし、いいぞ! どんどん来い!!」

「あざっす!!」

「「「ありがとうございます!!」」」


 女子の参加希望者の多さが目立つものの、こんなふうに男子の中にもアツい志を持った者たちがいる……うんうん、実に嬉しいもんだね。

 そうして気分がアガるのを感じていたところ……おやっ?

 参加希望を表明してきた男子の一団の中に、俺の意識がこの世界で目覚めて割とすぐぐらいの時期に見つけた我が心の同志がいた。

 ああ……「同志って、なんの同志?」って思われたかもしれないが、それは片想いの美学の実践者たる同志のことさ。

 ほら、父親の領内視察に同行した際に見初めた村娘がいたものの、住む世界が違うため身を引いて忍ぶ恋を選択することにしたっていうナイスガイがいたでしょ?

 そうか、我が心の同志よ……君もレミリネ流剣術を学んでくれるのか、より一層嬉しさが込み上げてくるね!


「……? アレス殿……私の顔に何か付いておりますか?」


 おっと、嬉しさのあまり、ついつい我が心の同志のことを凝視してしまっていたようだ……


「うむ……なかなか見事な面構えをした男だと思ってな」

「そうでしたか……アレス殿からそのように言っていただけて、この上ない光栄です……また同時に、今までとは比較にならぬほどの努力をしていかねばと身が引き締まる思いがします」

「ハハッ! やる気が漲るのは結構なことだが、かといってそれが過ぎるあまり硬くならんようにな?」

「ええ、肝に銘じておきます」


 そういえば、我が心の同志と実際に言葉を交わしたのは、これが初めてのことかもしれんね。


「魔力操作狂いの奴……ワイズのどこが気に入ったんだろうな?」

「見事な面構えって、別にブサイクだって言うつもりはないけど……特にイケメンってわけでもないよね?」

「というか、そもそも顔面自体のレベルで言えば、魔力操作狂いのほうが圧倒的に上だからなぁ……ワイズの顔面を褒める意味が分からんよ」

「しかしながら、その見た目も学園に入学当初の魔力操作狂いからは信じられないレベルの変貌だよな……?」

「そういや、いつの間にかスリムになってたよなぁ?」

「いや、皆さんお忘れかもしれませんが……幼少期の彼は、それはそれは絶世の美男子でしたよ?」

「……オレさ、今だから言うけど……生まれて初めて参加したお茶会でアイツを見たとき、ほかに参加していたどの令嬢よりもキレイだって思っちまったんだよなぁ……」

「うぇぇっ? そ、それって……冗談……だよな?」

「それがなぁ……冗談じゃないんだよなぁ……」

「それさ……ぶっちゃけ、俺も分かるんだよね……あのときは服装でなんとか男だって認識できてたけど、もしドレスを着てたらどうなってたことか……」

「ゲェェ! 初恋が魔力操作狂いとか、最悪中の最悪じゃねぇか……マジで危なかったな!?」

「うん、危なかった……ただね……それが影響してるのか、いつの間にかボーイッシュな女の子にトキメクようになっちゃったんだよね……」

「分かる! ボーイッシュ女子、いいよな!? いやぁ、思いがけず同志を得た気分だよ!!」

「おおっ! 分かってくれるかい!?」

「ああ、もちろんだ! 同志よ!!」

「同志ッ!!」


 そう言いながら、熱い抱擁を交わす2人……

 うんうん、同志を得た瞬間っていうのは、嬉しくなるものだよねぇ。


「うわぁ……コイツら、完全に魔力操作狂いの面影を追ってますやん……」

「そうですねぇ……今でこそ、いくらか男らしい顔つきになってきているようですが……あの頃の彼を一度でも目にしていれば、少なくとも理解はできる感情だと思いますよ?」

「僕の叔母さんが言ってたことだけど……あの人って、その当時王国一の美女と謳われていたお母さんにソックリなんだってさ……その話からすると、納得って感じもしちゃうよねぇ?」

「そういや、この夏実家に帰ったとき、お袋もそんなようなことを言ってたっけな……?」

「そ、そうか……たまたま幼少期の魔力操作狂いを見ていなかったから、自分には理解できないのか……」

「まあ、あの人がお茶会とかに参加してた回数って、そう多くなかったみたいだしさ……目にする機会がなかったのも、仕方ないんじゃない?」

「まあ、オレもアイツの姿を目にしたのは、その一回限りだったからなぁ……」

「そうそう、俺もだよ! そしてそれ以来、『今日はいるかな?』って探すようになったけど見つからず……っていうのを繰り返しているうちに、いつしかボーイッシュな女の子を目で追うようになってたんだった……思い出したよ……」

「さすが同志……オレも始まりはそうだった……」

「そこまで同じだったとは……フフッ、失われていた半身を取り戻したような思いだよ」

「ああ! オレも同じ思いだ!!」

「……や、やっぱり……自分には付いて行けそうにないな……うん」


 なんて会話も耳に入ってきつつ……男子寮の食堂を後にしたのだった。

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