第786話 全体の底上げに意欲的な者

「……ここッ!!」


 イメージのレミリネ師匠の隙を見計らって一振りするも、難なく防がれてしまう。


「クッ! まだまだァッ!!」


 それでも、めげずに何度も何度も打ち込んでいく。

 そんな濃密な時間は夕食前まで続く。


「……ハァ……フゥ……今日も、ご指導頂き……誠にありがとうございます……レミリネ師匠!」


 そうして、イメージのレミリネ師匠に挨拶をして稽古を終えた。


「フゥ~ッ……武闘大会でたくさんの学びを得たし、俺も日々強くなってきているつもりだが……レミリネ師匠のいる高みは、まだまだ遠いみたいだねぇ……」


 そんな俺の呟きを傍らで聞くのは……キズナ君だけ。

 まあ、キズナ君には少々弱気なところを見せてしまっても構わないだろうが……ほかの子たちには見せないようにしたほうがいいだろうね。

 特に、これから夕食後の練習会に参加してくるって子たちには「自信に満ち満ちたアレスさん」でいるべきだろう。

 なぜなら、教える側に自信がないと、「コイツに教わっていて大丈夫かな?」って余計な心配の気持ちを起こさせてしまうかもしれないからね。

 とはいえ、それが過ぎるあまり、自分の考えが絶対だと思い込むようになるのもマズいだろうから、その辺のバランスも大事にしていきたいところだ。


「そう! バランスだよ、キズナ君!! ……ふむ、俺は園芸関係についてあまり詳しくないけど……そこんところ、キズナ君の枝ぶりは実にバランスが良くて見事だねぇ」


 そういえば……前世のうっすらとした園芸知識の中に確か、日当たりとか風通しをよくするために剪定っていう作業があった気がする。

 しかしながら、見た感じキズナ君の姿はちょうどいい感じがするので、おそらく今のところその作業はいらないだろう。

 というか、そもそも論として、この夏休み中にエリナ先生に見てもらったばっかりだもんね!

 そんなことを思いつつ、食堂に向かう前に浄化の魔法を自身に施して清潔にする。


「男の身嗜み……これでよし!」


 まあ、視聴者サービスにシャワーを浴びてもよかったかもしれないけど……勉強と稽古によって、まあまあタイトなスケジュールを過ごしているからさ……

 というわけで! 練習会後の大浴場までサービスは待っててくれよな!!


「それじゃあ、またね! キズナ君!!」


 そう挨拶をして、男子寮の食堂へ向かう。

 フゥ……朝・昼・夕の中で、やっぱりロイターたちと過ごす夕食の時間が一番くつろげる。

 それもそのはずと言うべきか……前世ではバッチリ陰キャだったし、今でも女子との会話が上手だとはとてもじゃないが言えないもんねぇ……

 そうして食堂に着き、ロイターたちのいる席に向かう。

 さぁて、今日も美味しくご飯をいただくとしますかねぇ!


「想定済みのことだったが……練習会への参加者が増えそうだ」

「ええ、僕も食事をご一緒した方たちみんなに『参加したい』と言われましたよ」

「ほう、みんなで今よりどんどんレベルアップしていけると思えば……とても素晴らしいことだな!」

「お前ほど全体の底上げに意欲的な者は、なかなかいないだろうな……」

「まあ、全体のレベルが低ければ、自分も無理をして鍛錬を積む必要がないと思えますからね……もしくは、自分だけコッソリ鍛錬を積めば、周りを出し抜けるといったところでしょうか……」

「そうしてみんな、徐々に文系貴族化していく……って感じかな?」

「また、最近は大きな戦がほとんどなく、あっても小競り合いぐらいだからな……モンスターによる脅威が少ないところほど、どうしても文系化してしまうのだろうな……」

「中央寄りに領地がある中で、僕らの実家は未だに武系を保てていると言えるでしょうが……そのうち文系化の流れを無視できなくなっていくかもしれませんね……」

「我がソエラルタウト家もこの夏、新規に領地開発に着手したばかりだからなぁ……」


 といいつつ、それはギドとの戦闘中に俺がたまたま雪や氷を大量に生成したのがきっかけなんだけどね。

 そんな話をしているうちに、ヴィーンたちも到着。


「その辺、俺らのところはバリバリの武系を維持できるだろうな!」

「ええ、僕らの実家は辺境寄りですからねぇ」

「国境は比較的近いですし、モンスターの脅威もしっかりとあります」

「……今のところ戦がないとはいえ、備えは必要」


 やっぱり、領地の位置関係は大きいんだねぇ。

 まあ、他国やモンスターの領域に接しているファティマの実家なんて、「いつでもやれるぞ!」って感じでバッチバチに戦闘態勢を整えているみたいだしなぁ。


「まっ! 文系化の流れの中で腑抜け始めた奴らに活を入れてやるのも、この練習会の意義かもしれんな!!」

「まあ、そうだな」

「加えて、学園の成績のこともありますし、鍛錬がまるっきり無駄になることはないでしょうからね」

「何より! 男として生まれて来て、ザコのまま終わりたくはねぇもんな!!」

「というか、この調子でいくと、男子より女子のほうが強くなっていきそうですからねぇ……」

「うん、練習会に参加したいって僕たちに言ってくるのは、女の子たちのほうが多いもんね……」

「……男子もいないわけではないが……女子と比べれば、多くはない」


 ふむ、ヴィーンたちのところにも参加希望者が集まっていたようだ。

 そうして、なんだか前世の部活とかサークル感が出てきたような気がするね。

 といいつつ、そういうのに入ってなかったので、あくまでもイメージでしかないけどさ。

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