第78話 侵略
自室に戻って来た。
まずはシャワーを浴びる。
……浄化の魔法を使わないの? って言われるかもしれないけど、俺にも表現者としての意地があるからね、シャワーシーンはキッチリ視聴者の皆様にお届けするよ!
ふふっ、心配したかい? 安心しておくれよ、ベイベーたち!
……なんてことを考えながら先ほどの衝撃を有耶無耶にしようと必死な俺。
なんだったら、難聴系主人公になったつもりで聞き逃したことにしたかったんだけど、そうもいかない……だってガッチリ聞こえたんだもん! 忘れようとしても忘れられないんだもん!!
今も頭の中を「ねぇ、なんであなた……痩せてしまったの?」って台詞が何度もリフレインしている……
さっき、視聴者サービスのためにシャワーを浴びましたみたいなこと言ったじゃん?
あれね、本当は半分ウソなんだ……冷たいシャワーで頭を冷やしたかったんだ。
ごめん、幻滅したよね?
でも俺って、こういう男だからさ……わかってくれとは言えないけど……君だけにはわかっててもらえたらなって思うよ。
それと別にさ、きゅるんとした小娘にモテたくてダイエットを始めたわけじゃないんだけどさ……そんなのってないよ! 細マッチョのアレス君の方がイケてるでしょ!!
しかも、俺の返答を待たずに言い残して去るっていう無駄にカッコいいことしやがったから余計に腹立たしい!
なんだよあの背中越しの台詞!
なんかポカンとして取り残された俺がアホみたいだったじゃねぇか!!
……悔しいが今回の勝負、最後にサヨナラホームランを打たれた俺の負けと言ったところか。
くっそ、あの小娘マジで許せん! 今度の勝負では俺の恐ろしさを存分に思い知らせてやるからな!!
勝ち逃げしたままで終われると思うなよ、きゅるんとした小娘ぇ!!
こうして俺に強烈な敗北感を残し、この日は終わりを告げた。
『やっぱり、その体型の方が素敵ね』
『え? 俺、痩せたはずなんだけど……』
………………
…………
……
「なんでぇぇぇ!!」
……夢か。
恐るべしきゅるんとした小娘、まさか俺の夢の中にまで侵略してくるとは……
しかし、そこまで深層意識に影響を与えられていたということか?
「俺って……そんなに繊細な男だったの?」
一応、これが今日の目覚めの一言って感じかな?
まぁ、厳密には「なんでぇぇぇ!!」になっちゃうかもしれないけどね……
とりあえず、寝汗が凄いのでシャワーを浴びてリフレッシュしよう。
ああそうだ、ベッドに浄化の魔法をかけておこうかな、名案だね!
なんというか、普段洗えない寝具に除菌スプレーって感じになっちゃった。
それはともかくとして、さっそくシャワーを浴びて朝練に行こう。
うっ、おそらく今日もきゅるんとした小娘がいるよな……
くっそ、この昨日試合で負けた相手に会わなきゃいけない感じがつれぇ。
でも、このまま負けっぱなしっていうのも悔しいからな、全然気にしてませんよって雰囲気で朗らかな顔をして行ってやろうじゃないか!
そうしていつもの魔力操作音読ウォーキングコースに行き、朝練開始。
やっぱりいるねぇ、きゅるんとした小娘!
しかし向こうは向こうで不服そうな顔をしているね。
あれ、実は昨日の試合ドローだったのか?
いや、敗戦の歴史をなかったことにしようというのはフェアじゃないよな。
昨日俺は負けたんだ、その事実は真摯に受け止めて次に活かすのが真の男のすることだ。
そして一歩先に進めたそのときこそ、真の男への道が開けるはず。
そういう男に俺はなりたい。
「よう、お前も毎朝早起きだな」
「おはよう、そういうあなたもね……それにしても朝からそんなにたくさん汗をかいて……しっかり朝を食べなくては駄目よ?」
「ふっ、それは(腹内アレス君がいるから)当然のことだな」
「それならいいのだけれど……」
こうして簡単な挨拶的会話を交わし、きゅるんとした小娘とはお別れ。
なんていうのかな、俺たちの関係性はそんな感じがちょうどいいんだと思う。
……あんまり近づきすぎてエリナ先生に勘違いされるのは俺の本意ではないしな。
それに、きゅるんとした小娘が好感を持っていたのは、言ってしまえば過去の俺だ、今の俺じゃない。
悪いが俺はあの頃の俺に戻るつもりがないからな、太め男性なら他をあたってくれ。
そんな感じで今日も1時間程度の朝練をこなし、シャワーをまた浴びる。
シャワーばっか浴びすぎだけど、なんかもう癖になっちゃってるからね、今更変えられんよ。
それから、きゅるんとした小娘に言われたからではないが、朝食もきちんといただく。
腹内アレス君が「しっかりだよ!」と主張してくるので、なんかいつもより食べる量が多くなってしまったがまぁいい、その分しっかり動けばいいだけのこと。
今日も一日中モンスター狩りに行くつもりだし、自然と運動量も多くなるはず!
さて、オーガとは会えるかな?
昨日の感じだと、地味に難しそうなんだよな……
なんていうか、オークの領域が広すぎると言うべきか、オーガの領域が奥にありすぎると言うべきか……
ま、焦ることなんてない、俺たちはいつかどこかで出会う運命なのだから。
どこにいても、必ず見つけてあげるからね。
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