第369話 暑さももう少しで終わりです

 夕食が終わり、訓練に移行。

 護衛のお姉さんたちが同僚たちに声をかけたこともあって、領兵の参加者が日に日に増えている。

 また、アレス付きの使用人だけでなく、義母上や兄上夫婦付きの使用人たちも参加していたりする。

 まあ、義母上や兄上夫婦も時間があるときは参加しているからね、その使用人たちがお供しないわけもないよね。

 そして訓練の内容は当然というべきか、氷系統の魔法を中心としたものとなっている。

 加えて、習熟度に応じて魔纏も同時展開しながら模擬戦なんかもしている。

 こうして日々、みんなの実力が上昇していくのを見るのはなかなか楽しいものだね。

 それに、文系貴族出身の使用人たちなんかは伸びしろの塊みたいな感じだからね、まさに伸び盛りって感じ。

 といいつつそんな使用人たちも、ある程度のレベルに達してしまって伸びが鈍化したときこそが勝負といったところだろうか。

 その場合も飽きずに鍛錬を積んでいってもらいたいところだね。

 とまあ、そんな感じで夕食後の訓練が終わりに近づき、最後は魔力交流のお時間です。

 そこで今回は、義母上も参加しており……


「アレス、今日は私と魔力交流しましょうね?」

「はいぃ、喜んでぇ!」


 おっと、締まりのない顔をするわけにはいかんな、気を付けねば!

 というわけで、互いの手を合わせて義母上と魔力交流……ああっ、しあわせぇ。

 そして義母上と合わせた手から、あたたかく穏やかな魔力が伝わってくる。

 それを受けて俺も、努めて柔らかな親愛の情を込めた魔力を義母上へ伝える。


「ふふっ、とても優しい魔力ね」

「義母上の魔力も、とても心地いいです」


 普段の俺の魔力はもっと荒っぽいのだが、義母上との魔力交流でそんなやんちゃな魔力を伝えるわけにはいかんからね。

 まあ、義母上ならそんな俺の魔力も慈愛いっぱいに受け入れてくれるかもしれんが……そうはいっても甘えたくはないしな。


「もっと元気いっぱいな魔力でも大丈夫よ?」

「いえいえ、これは練習ですから……」

「真面目で偉いわねぇ」


 そういいながら義母上から伝わってくる魔力は、よりあたたかみを増した。

 こんな時間なら、何時間でもウェルカムだね!

 だが、ずっとそうしているわけにもいかない……ある程度の時間が過ぎたところで魔力交流を終わらせて、夕食後の訓練も終了とした。

 その後は大浴場でゆったりとし、自室に戻る。

 そして風呂上りにも飲んだが、改めてギドが用意してくれたアイスミルクコーヒーをいただく。


「……そういえば、もう少しで学園都市に出発することになるんだなぁ」

「そうですね、あと1週間程度といったところでしょうか」

「ふぅむ……まあ、この調子で訓練を重ねていけば、雪の街の運営も問題なくできることだろうし、そこまで心配する必要もないだろうなぁ」

「はい、それにこれから秋を迎え、冬へと向かっていくわけですからね……暑さももう少しで終わりです」

「ああ、徐々に解ける雪も減っていくのだろうな」


 こうして、この夏に俺が施す訓練も終わりに近づいているのだなぁ。

 一応、兄上の希望にも応えられたことだろう。

 あとはお姉さんパラダイスというイベントを残すのみといったところか……


「……ん? ふと思ったのだが、俺が出発する少し前ぐらいにお茶会を開く予定なんだよな?」

「はい、そのとおりです」

「その場合、ソエラルタウト家から護衛を兼ねた見送りも出すんだよな?」

「ええ、そうなりますね」

「……すると、メルヴァさんたちもそっちに行っちゃうんだよな?」

「そうですねぇ……割り当て次第ではあるのでしょうが、彼女たちはソエラルタウト軍の中でも実力上位ですし、アレス様の護衛にだけ集中させるわけにはいかないでしょう」

「やはりか……まあ、正直なところこっちに来るときも過剰戦力だと思わずにはいられなかったし……そもそも俺に護衛など必要なかっただろうしな」

「油断は禁物ですが、アレス様の防御を突破できる者などそうはいないということも事実ですからね……それはそれとして、希望だけは出しておきましょうか?」

「うぅむ、魅力的な提案ではあるが……やめておこう。予定外で開発された雪の街を警備する兵も必要だろうし、人員は少しでもソエラルタウト領に残しておくべきだろうからな、むしろ俺に護衛は無用と伝えておいてくれ」

「なんというお心遣いなのでしょうか……大人になられましたね」


 そういいながら、ギドはハンカチで目元を拭う……フリをする。

 ギドめ、こういう小ボケをたまにやってくるんだよな……そこが俺の気に入るところでもあるのだがね。

 というわけで、シラーっとした目を向けてやると、にこやかな顔でハンカチをしまうギドだった。


「ああ、それから、馬車の用意もしなくていいと伝えてくれ……ウインドボードで移動しようと思うからな」

「そうですか、ウインドボードならば私もお供できますね」

「ほう、お前も来るつもりか?」

「領兵たちの代わりに私が学園都市までお送りさせていただきます……そのほうがリューネ様たちも安心なさるでしょうからね」

「確かに、それはあるな」

「ただ、私だけということに黙っていられない者もいるでしょうから、アレス様付きの使用人の中から何人か選抜することになりそうですね」

「……あまり人数が多くなり過ぎないようにな」

「心得ております」


 こうして、アレス付きの使用人内で学園都市までのお供権を賭けた戦いが繰り広げられることになったのだった。

 ギドよ、任せた。

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