第370話 苦労してもらいましょう!

「アンタたちも……既にギドから聞いて知っているわよね?」

「ええ、もちろんよ!」

「ざんね~ん、アレス様と一緒に行くのは私よ!」

「いいえ、勝つのはわたくしですわ!」

「弱き娘どもよ……はしゃぐのはそれぐらいにせよ。なぜなら……ははっ、この先はいわなくてもわかるであろう?」

「こん中でアンタが一番年下でしょうがっ!」

「……そういう年頃なんだから、ここはあたたかい目で見てあげましょうよ?」

「それもそうねぇ……」

「なッ! やめろ! そんな目を向けるでないッ!!」

「……女子たちの盛り上がりが凄いなぁ」

「まあ、一緒に旅でもすればワンチャンあるかもしれないし? そうでなくても、旅行気分っていうのがあるんだろうね」

「あとが怖そうだし……ここは譲っとくに限るかなぁ?」

「いや、女子たちの気合の入り具合を見てみなよ……特に譲ろうとしなくても、このためにありえないぐらいの底力を出してくるだろうさ」

「それもそうかぁ」

「ほらほらぁ、おしゃべりはそこまでにして、そろそろ障壁魔法の攻略に挑んだほうがいいわよぉ?」

「あっ! そうだった!!」


 学園都市までのお供権についての話題で盛り上がっていた使用人たちだが、ルネさんの言葉により障壁魔法の攻略に戻った。

 さすがルネさんだ! やはりお姉さんだ!!

 そんなことを思いながらしばらく寝たフリを続け、そろそろといったところで起床。

 ……この様子だと、学園都市に行くまで寝たフリを続けることになるのかな?

 いや、特に困難なことでもないから、構わないんだけどね。

 それはともかくとして訓練場に向かう。

 そこではいつもどおりに走る。


「アレス様を学園都市までお送りしたかったのに、とても残念だわぁ」

「私も、ルネさんをはじめとして、みなさんとご一緒できないのは寂しいです」

「そういってもらえて嬉しいわぁ」

「ただ、雪の街のこともありますし……そもそも私を迎えにきたときも、かなり戦力が過剰だったのでは?」

「そうねぇ、あれはリューネ様の指示があってのこと……通常なら、私たち6人のうち誰か1人がリーダーを務めて、あとは実力がそれなりの子や、経験の浅い子とかも交えて人員を組んでいたわ……それに、ルッカやシノリノだって並の腕前ではないものねぇ」

「やはり、そうでしたか」


 お姉さんということだけではなく、安全性の面でも実力上位者でそろえた、まさに極上の旅だったというわけだ。

 なんというか、こういうところからも義母上のリリアンガチ勢ぶりがうかがえるといえるかもしれない。

 まあ、俺の情報もこっちまできてはいたのだろうが、それでも実際に見るまでは心配だったというのもあるだろうな。

 そして、俺の実力をいくらか把握できたからこそ、今回のように学園都市行きはガッチガチに実力者で固めなくてもいいとなったのだろう。

 ……俺がワガママをいえば、ルネさんたちをこっちに付けてくれる気はするけどね!

 でも、それはしない……それぐらいの配慮はできるつもりだからね。

 だけども! お姉さんたちと一緒じゃないのは切ないから……今のうちに、たくさん接しておこう!!


「こうしてルネさんと一緒にいられる時間……かけがえのない思い出にしますね!」

「ふふっ、もちろん私も大事な思い出にするわねぇ」

「最大の……ふぅ……壁……」

「いつかは……あの人たちに……ハァ……勝たなきゃ!」

「……ふっうぅ……負けへん!」


 こうして、ルネさんとお話を楽しみながらの朝練となった。

 そして、俺たちのペースに必死に食らいつこうと頑張る使用人たちという構図も、恒例といったところだろうか。

 ……そうだ、学園都市への移動はウインドボードオンリーで考えていたが、途中で走るのもアリだな。

 ペース的にも、馬車より走ったほうが速いわけだから、後期開始に余裕で間に合うしな。

 なんてことを密かに考えつつシャワーと朝食を済ませ、雪の街へ。

 このときのウインドボードによる移動だが、使用人たちの必死さがさらにアップしていた。

 当たり前というべきか、ウインドボードをまともに乗りこなせなければ、連れていけないからね。

 まあ、魔力ポーションをがぶ飲みしたら……という手もないわけじゃないけど、それだとレベルが低いといわざるを得ないだろう。

 よって、使用人たちにはシッカリと魔力操作の技術を身に付けてもらいたいところだ。


「使用人の子たちですらこの調子だと、ソエラルタウト領はそのうち王国最強の領地になるかもしれないわねぇ」

「おお、それはぜひとも目指したいところですね!」

「そうねぇ……でも、中央のめんどくさい貴族が騒ぎ出すかもしれないわぁ……」

「もしかして『ソエラルタウトに謀反の気配あり』という感じですか?」

「そうそう、そんな感じ」

「う~ん、そうですね……その場合は親父殿に苦労してもらいましょう!」

「あらあら、ソレス様も大変ねぇ」


 せっかく王都にいるんだ、その辺の言い訳とか調整ぐらいは頑張ってくれたまえ!

 なぁに、原作ゲームでだって、ソエラルタウトに責任が及ぶのを鮮やかに回避していたんだ、できるできる。

 ……それに、場合によってはマヌケ族との戦争が待っているわけだからな、領地を強くしておくことに越したことはあるまい。

 こんな感じで先ほどに引き続き、ルネさんとの会話を楽しみながらの移動だった。

 そして雪の街に着けば、午前中は領兵たちに氷系統の魔法の指導だ。

 さぁてと、みんなガンガン強くなろうぜ!!

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