第371話 ようやく見つけたんだ!

「昨日はオレの仲間が迷惑をかけちゃったみたいで悪かったね」

「いや、たいしたことじゃないさ」


 領兵たちへの氷系統の魔法の指導と昼食を終え、今はスノーボードの合間にコーヒーブレイクという感じ。

 雪山のほうでも食べ物の屋台やオープンテラスな喫茶店が続々とオープンしていて、こんなふうに雪を眺めながらくつろぎのひとときを過ごしている。

 そこでトディが、昨日の酔っ払い君たちのことを詫びてきたのだ。

 まあ、別にこれといった被害もなかったし、酔っ払い君の発した言葉も俺の感覚としては暴言というレベルにすら達していなかったからね、なんの問題もない。


「そういえばあの男……トディのことを『本当はもっとクールな男なんだ!』とかいって、よっぽど今のトディが気に入らなかったみたいだな」

「……クールかぁ、う~ん」


 そうしてトディは、物思いにふけるような表情をして黙り込んだ。

 このとき、俺がゆるく展開している魔力探知に反応があった。

 昨日の酔っ払い君たちだね。

 俺がトディと一緒にいるためか、一定の距離まで近付いてきて身を潜めている。

 そんな彼らの存在にトディは気付いていないようだ。

 まあ、トディとしても、今は思考の海に深く潜っているみたいだからね、周囲の状況に意識が向いていないのだろう。

 そしてもちろん、ルネさんやギドたち使用人も彼らの存在には気付いているが、気を利かせてくれているのだろう黙っている。

 おそらく、実力的に脅威でもなんでもないと判断しているからなんじゃないかな?

 そんなわけで、トディの話の続き待ちという格好である。

 そして少しばかり時間が経過し、トディが再び口を開いた。


「ズクード……ああ、昨日アレスにつっかかっていったっていうオレの仲間のことなんだけど……アイツは勘違いをしているんだ」

「勘違い?」

「そう、俺はクールなんてカッコいいもんじゃない……なんにもない、単なる空っぽな男……それをアイツはクールと勘違いしたんだろうな」

「……ん? まだ会ってから日も浅いが、別に俺はお前が空っぽだなんて思わないぞ?」

「ああ、いや、それはアレスに会うまでの……もっといえば、スノーボードと出会うまでの俺のことさ」

「……ふむ」

「オレはもともと主体性のない男でさ、子供のときから今に至るまでず~っとなんにもない……そんな男だから、やりたいことやなりたいものなんかあるわけもなく、適当にフラフラしているうちに気付いたら冒険者になってた」

「まあ、冒険者は別名なんでも屋と呼ばれたりしているぐらい、いろいろな依頼があるもんな」


 俺の場合はモンスター狩りが基本で、気が向いたら採集とか薬草の納品もって感じでやってきた。

 でも、冒険者の仕事はそれだけじゃなく、今回みたいな街の開発における工事とか、街中でちょっとした雑用なんかの依頼もあるし、本当になんでもある。


「そっ、だからオレみたいに『これだっ!』っていうものがない奴にはちょうどよかったのさ……それに低ランクだと依頼の内容的にも責任が軽かったし」

「確かにな、失敗しても相応に違約金が低かったり、なかったりするし……それに、常設依頼に代表されるような事後受注可能な依頼なら、責任なんかないといえるだろう」


 俺もこの世界で冒険者を始めた頃は、ミスるのが怖くてゴブリン狩りばっかしてたみたいなところもあるしな。


「そうそう! それで適当にできそうな依頼をこなして、ちょっとした金と暇ができたら飲んで終わりって日々を続けていたんだ」

「……そうか」


 この生活スタイルだけど、トディに限らず意外と結構いるんじゃない?

 たぶん俺だって、学園を卒業したあとは似たような感じで、旅をしながら適当にその辺をブラブラしてそうだし。


「……でもさ、そんな生活を送りながら心の奥底では『何かが足りない』っていう焦燥感みたいなものもあったんだ」

「まあ、同じ冒険者だとしても『次はあのモンスターを狩りたい!』とか『高ランクになりたい!』みたいな夢に溢れている奴もいるわけだからな、気にならないつもりでも自然と意識の中に入り込んできただろうし……そういったものが焦燥感につながっていてもおかしくはないな」

「うん、そうかもね……それで『何かが足りない、でもオレは何を求めているのかが分からない』って思いながら生きていたところで、アレスに会った……あのときの心の底から楽しいって顔をしていたアレスを見てたら、自然とスノーボードに興味が湧いてきたんだ」

「……おかしい、俺は『無表情のアレス』と呼ばれているはずなんだが」

「いや、表情じゃないんだ……なんていうのかな、そういう輝きみたいなものが見えたんだ」

「トディさんのおっしゃるとおりでしょうね、アレックスさんが本当に楽しんでいるときは本当に輝いて見えますもの……まあ、これは程度の差こそあれ、誰にでもあることなのかもしれませんが……」

「そうねぇ……トディ君のように求める心を持った子には、導かれたようにより輝いて見えたのでしょうねぇ」


 ギドやルネさんが同意し、ほかの使用人たちもコクコクと頷いている。

 もしや、俺の光属性……強過ぎ?

 なんて心の中で軽くボケをかましてみた。

 というのも「導かれた」という言葉から、あのうさんくさい導き手がパチパチと手を叩いてはしゃいでいる姿が思い浮かんでしまったからさ……


「まあ、どうでもいい余計なことをしゃべり過ぎたかもしれないけどさ、そんな感じでオレはようやく見つけたんだ! スノーボードっていう、オレが本気で熱中できることを!!」

「そうか……それは本当によかったな!」

「ああ、オレは今、最高に充実しているよ!!」

「……よくねぇ! よくねぇよっ!!」


 隠れてコッソリ聞き耳を立てていた酔っ払い君ことズクードが……吠えた。

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