第413話 平静
焔菓子の感動に水を差したくなかったのでスルーしていたのだが……
「……これって、ヘアバンドだよな?」
「まさしく」
「こちらは、ニット帽ですわねぇ……」
「あ、見て見て! ここに『平静』って刺しゅうが施されているよっ!?」
「うわぁ……マジだ……」
「おやっ? しかしながらこちら、魔法防具だけあって装備品としては地味に防御力が高めのようですね」
そういいながら、平静ヘアバンドを頭に装備しているギド……
「額の『平静』という文字が主張し過ぎですわね……」
「スライムたちって、いつもそういう気持ちで生きているのかな?」
「なるほど、それがスライムの生き方……」
一応、今は冒険者装備で身を固めているので多少はごまかせているかもしれないが、室内でいつも着ているような執事服にはもの凄く似合わないだろうなぁ……
なんて俺が内心思ったことを、ギドのことだから読んでいるはず。
「いいか……やるなよ?」
「はて、なんのことでしょう?」
ああ、このスマイルは理解しているな、確実に。
「まあいい、次は12階だ……気を取り直して行くぞ!」
そして階段を上った先には……ボディカラーが黄色のスライムと、おなじみ無色のノーマルスライムがビッシリといた。
「黄色ということは……地属性のマジシャンか?」
「どうやら、そのようですね」
ここにきて、魔法を使うスライムのご登場というわけか。
いや、既に10階で遭遇したユニオンスライムも魔法を使ってきていたが、あれはボスだからね、通常のザコとは違うのだよ。
もちろんコイツも、原作ゲームに「スライムマジシャン(地)」として登場している。
そんなスライムマジシャン(地)たちであるが、一生懸命にストーンバレットをこちらに飛ばしてきている。
「一発一発は大したことありませんが、これだけの数となると見応えがありますわね」
「これはなんていうか……小石のシャワーって感じ?」
「……本物のストーンバレットとはどんなものか、教えてやるべき」
「ああ、サナのいうとおりだな!」
「では、今回もドロップ品の回収は私にお任せいただきましょうか」
というわけで、戦闘開始である。
しっかし、ストーンバレットとは……ソイルを思い出すねぇ。
アイツも学園でいろいろあったし、この夏休みを楽しく過ごせていればいいのだが……
まあ、ヴィーンたちとも和解できていることだし、そんなに心配する必要はないよな!
そんなことを思いつつ、スライムマジシャン(地)たちに俺レベルのストーンバレットとはどういうものかとじゅうぶん披露もできただろう。
ここからは、ソイルリスペクトの阻害魔法で彼らの魔法を打ち消してやろう。
そしてゆっくり接近したのち、ミキオ君の一振りでジ・エンドといこうかね。
「ビュギュァァァ……」
「ほほう……さすがマジシャンへと進化した個体というべきかな?」
地属性らしいというべきか、低音で響き渡る断末魔の叫びがなかなか素晴らしかったね。
とまあ、こうして12階のスライムを狩り尽くしたところで、13階に続く階段へ向かう。
そして恒例のドロップ品チェックが始まる。
さて、今回はどんなドロップ品かな?
「……ふむ」
なんだっけ……たぶん、食べたことあるはずだよな?
「これも……ようかん?」
「でも、微妙に違うような気もするよね?」
「わたくしも残念ながら、これは分かりませんわね……」
「おやおや、ここでういろうを出してきますか……スライムダンジョンもなかなかやりますねぇ……そしてアレス様、連続の焔菓子おめでとうございます」
「……うむ」
なんて威厳たっぷりに返事をしておいたが……そうか! ういろうかッ!!
そういえば確か……前世で父さんが名古屋に出張に行ったとき、お土産として買ってきたことがあったんだっけ……うわぁ、懐かしい!
なるほどね、食べたとき一瞬で思い出せなかったのは、頻繁に食べてたわけじゃなかったからか……しかも、あれは小学生のときだったもんなぁ。
とりあえず、俺がういろうって一発で気付けなかったことは……使用人たちにバレてないよな?
いや、ごめん分かってる……ギドの言い方からして明らかにフォローしてたもんね……でも、3人娘のほうは?
「これがういろう……悪くない」
「じゃあ、ようかんと食べ比べしてみようかなっ!」
「またひとつ、焔菓子に詳しくなることができましたわね」
よし、3人娘はういろうに気が向いていて、俺のことには気付いていないっぽい。
これはセーフといったところかな?
それから、今回もスルーしたいところだったが……お菓子以外のドロップ品についても言及しないわけにはいかないだろう。
「これは見たまんま、中敷きだな……」
「ええ、どこからどう見ても中敷きですわね……」
「えっと、靴の中に入れて使うやつだよね……」
「……何気にゲル素材?」
「なるほど、つまりこれはフットワークを活かして魔法を回避するようにというスライムダンジョンからのメッセージなのでしょうね」
「そ、そうか……」
「あっ、これにも『平静』って文字があるよっ!」
「ええと……これはブランド名なのかしら?」
「……聞いたことない」
そして一同、無意識にギドを見る。
「そこで私に顔を向けられましても……さすがにそこまでは知りませんよ?」
「あら、ギドさんともあろう方が……」
「ホントホント、珍しいよねっ!」
「ドヤ顔先生……不発」
「おやおや、これはひどいいわれようですねぇ」
こうしてブランド名の謎を抱え、俺たちは先へ進むのだった……って、これはどうでもいいよな。
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