第412話 鈍色

「さて、11階へ続く階段も出現したことだし、先に進むか」


 というわけで、移動を開始する。

 ちなみに、たったひとつだけとはいえ、フルーツゼリーの詰め合わせにサナがときめいていたのはいうまでもなかろう。

 いや、一昨日のユニオンスライム氏からの頂き物がまだまだ残ってるはずなんだけどね。

 まあ、サナにしてみればフルーツゼリーはなんぼあってもいいものなんだろう。

 あまりその辺にツッコむとめんどくさくなりそうなので、生暖かく見守っておいた。

 そんなこんなで気持ちを切り替えて、11階の攻略開始というわけだが……


「……うん、やっぱこんな感じだよね」

「進化個体が多いためか、天井まで埋め尽くすほどではありませんが……それでもやはりギッシリですね」


 ギドが進化個体と呼んだスライムであるが、ボディカラーが鈍色でなんとなくシブくてカッコいい。

 そしてこの鈍色のスライムであるが、原作ゲームにも登場する。

 名称は「スライムナイト」である。

 ノーマルなスライムは個体により多少の濃淡があっても基本的に無色透明だったので、核も狙いやすかった。

 しかしながら、ナイトレベルともなると一応うっすらとは核が見えるものの、ボディに色が付いているぶん狙うのが難しそうだ。

 まあ、魔力探知を使えば一発なんだけどね。

 それにおそらく、ゲイントの眼にもクッキリ浮かび上がって見えることだろう。

 ただ、そういう魔力的な能力が低いと、運と勘に頼って狙わざるを得なくなると思うね。


「わぁ~っ、スライムたちが突きみたいのを放ってきてるねぇ」

「魔纏で防御しているとはいえ、まあまあ衝撃は伝わってくる」

「これまでのノーマルスライムたちは近寄ると酸を飛ばしてくるばかりでしたのに……彼らも順調に戦いの手札を増やしているようですわね」


 まあ、酸を飛ばしたほうが威力自体はあるんだろうけど、あれは自らの体液を飛ばしているだけあって、体積が減るから自滅技ともいえるんだよね。

 そしてノムルが突きみたいと形容したスライムナイトの攻撃だが、ボディの一部をビヨーンと伸ばすことによって槍で突くみたいなイメージになっているといえば伝わるだろうか……その辺が彼らにとってナイトな部分なのかもしれない。

 そしてなんとなく、あの伸ばした部分をそのまま振り回せばムチになりそうだなって思ってみたり……

 そんなふうにのんびり観察したところで、そろそろ戦闘に入らせてもらいましょうかね。


「というわけでミキオ君、また暴れちゃう?」


 まあね、ダンジョンのモンスターはあとの素材のことを気にしなくていいからね、荒っぽい戦い方も思いのままなのさ!

 そうして、使用人たちもそれぞれ自由な戦い方でスライムたちと戦闘を始める。


「へぇ~っ、私の一撃にカウンターを合わせようだなんて、なかなか生意気だねっ!」

「ギュピッ!」


 ノムルの風歩による高速接近のちメイスの一撃、それに対し果敢に迎え撃つスライムナイトの雄姿といったところだろうか。

 まあ結局ノムルが上手く回避して、メイスの二撃目で核もろともスライムを潰しちゃったんだけどね。


「ピッ! ピッ!」

「まあっ! あなた、なかなか筋がよろしくてよ?」


 そして当然というべきか、スライムナイトの中でも個体によって技術に差があるようで、その上級者らしきスライムナイトとヨリがフェンシングを始めている。

 そしてヨリのいうとおり、スライムだけあって動きは多少鈍いものの俺の目から見てもタイミングや狙いはなかなか優れているように感じる。

 だが、そんな攻防も長くは続かず、ヨリの勝利で決着となった。


「ピ、ピギュ……」

「なかなかいい勝負でしたわ……あなたとは別な形で出会いたかったものですわね……」


 なんか、ヨリがカッコいい感じになってる……そのせいか、男装の麗人ってイメージが湧いてきちゃったよ……

 もしかするとヨリって、学生時代は同性の女の子たちにキャーキャーいわれてたんじゃないかな?


「まったく、ノムルもヨリも無駄口ばかり叩く……」


 そういうサナは魔法の弾丸を次々とスライムたちへ撃ち込んでいく。

 その様子を見てみると、何気にスライムナイトも弾丸に向けてスライムボディで厚みを作って盾のようにしたり、打ち払おうとしたりして対処をしているようで、さすがって感じがしてくる。


「そういう小細工をしてくるなら……ファイヤーボール」

「ギュゥ……ピィ……」


 無慈悲な炎はスライムボディを覆い尽くし、やがて蒸発させてしまった。

 サナさんって……地味に容赦ないよね……


「有無を言わさずスライムたちを一瞬で霧に変え続けるアレス様も大概ですけどね」

「ん? ギドよ、何かいったか?」

「いえいえ~」


 にこやかなスマイルを浮かべながら俺の心の中を読みやがるギドに、俺も難聴系で対応してやった。

 そしてそんなギドは、相変わらず回収作業がメインで、たまに隅っこのほうに隠れているスライムを狩ったりしている。

 とまあ、こんな感じで11階のスライムは狩り尽くしたので12階へ続く階段へ移動。

 そしてお楽しみのドロップ品の確認である。


「おおっ、11階のドロップ品はようかんじゃないか! それも抹茶味!!」

「ここにきて焔菓子の登場ですね」

「やったね、アレス君!」

「おめでとうございます」

「このスライムダンジョン……なかなかいい仕事をする」


 焔菓子……前世でいうところの和菓子だね。

 いつか出るかもって思ってたけど、このタイミングだったか……

 ダンジョンさん的には「焔菓子を食いたけりゃ、10階を越えてみな!」ってところだったのかね?

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