第411話 渋いな
つい先ほど朝練を終えて、ホテルの食堂で朝食を食べているところ。
そして頭の中では、楽しかった昨日の宴会のことなんかを思い出している。
まあ、いうまでもないことだろうが、みんなが酒を飲んでいるあいだ、俺はひたすら食べていた。
それから若者たちだが、昨日初めてスライムハンターとして活動してみて、いくらか手応えみたいなものを感じたようで、このままゲイントの弟子としてスライムハンターを続けることにしたようだ。
とりあえず、脱落者がいなかったことは喜ばしいことだね。
でもまあ、スリングショットによるスライムとの戦闘って接近さえされなければ的当てみたいで面白いから、あんまり嫌になることもなさそうな気がする。
特にスライムダンジョン特製のゴムなら、核に当たりさえすれば一撃だからね、爽快感が違うのさ。
そんなことを思いつつ食事をしていると、さっそくゲイントたち師弟のウワサが広まっているようで、その話題が近くのテーブルから聞こえてくる。
「おい、あの『奇跡のゲイント』が弟子を取ったって話、もう聞いたか?」
「ああ、その辺をフラフラしてたガキどものことだろ?」
えぇ……「奇跡のゲイント」ってなんだよ……
いやまあ、一般的な街の住人レベルからすれば、確かに奇跡的なことだったのかもしれないけどさ……それでも、大げさに感じてしまうな。
ちなみに、ゲイントたちのことをウワサしているオッサンたちからすれば、若きスライムハンターたちはガキに見えるかもしれないけど、一応成人済みである。
「そう、そのガキどもだ! アイツら、やることもなく日々ダラダラ生きてたみたいだけど……ついに動き出すときがきたって感じだな! そして、そういう暇そうにしている奴はまだまだいるし、ほかにも弟子入りする奴が出てくるかもな!?」
「どうかねぇ……あのガキどものことだから、どうせすぐ飽きるんじゃねぇのか?」
「そんなことないだろ、今回は本物に違いない! アイツらはきっとやるさ!!」
「へぇ……そこまで言い切るなら、ひとつ賭けをしようか?」
「賭けだと? 面白い、乗った!!」
「よし、決まりだ。そうだな……3カ月後、1人でも弟子として残ってたら俺の負けでいい」
「おいおい、そんなに強気で大丈夫か?」
「ああ、もちろんだ」
なんか、唐突に賭けが始まったぞ?
俺たちがゲイント救出にスライムダンジョンに入ったときも賭けをしていたし、この街の人って賭けるのが好きなのかな?
「3カ月後……美味い酒をゴチになるのを楽しみにしているぜ!」
「それはこちらのセリフだ」
「へへっ……」
「ふふっ……」
そして3カ月後を想像しているのか、ニヤニヤしているオッサンが2人……なんというか、平和だねぇ。
でもまあ、賭けを切り出したオッサンには悪いが……たぶん3カ月持つ気がするよ?
それに昨日の宴会で、始まりのオッサンも「まだ心配な部分もあるが、コイツらならなんとかやってけそうだ……」とかしみじみいってたし。
それはさておき、朝ご飯も食べ終わったことだし、そろそろダンジョンに行きますかね。
というわけで、ダンジョンへ向かう。
ちなみに、昨日様子を見た感じゲイントたちだけでじゅうぶんやってけそうなので、今日からは別行動だ。
そして、ダンジョン前に並んでいる武器屋でスリングショットを吟味している冒険者らしき奴がチラホラ見える。
その中には、俺が街に来た初日に煽ってきた奴も混じっていたりして、目が合うと気まずそうに会釈してくる。
とりあえず、そういう奴には「気にしなくてもいいよ」って感じで手を振ってやる。
すると苦笑いを浮かべながら、スリングショットの吟味に戻っていく。
うん、それでいいのさ。
ま、君たちも奇跡のゲイントに続けるよう、頑張ってくれたまえ!
そうしてギルドの出張所で手続きを済ませ、ダンジョンに入る。
「う~ん、見た感じ2階はもう、大繁殖の影響がなさそうだね?」
「昨日、一度狩り尽くしたのだから当然」
「そうですわね……この様子ですと、2階から4階までは通常時のダンジョンに戻ったといえそうですわ」
「では、5階に上がるまではスライムにほとんど手を付けず、そのまま素通りいたしましょうか?」
「うむ、それでいいだろう」
というわけで、風歩による高速移動で5階まで進む。
別に狩りながら行ってもよかったのだが、あまり狩り過ぎると再出現まで時間を要するだろうし、ゲイントたちやほかの冒険者たちが狩るぶんがなくなっても悪いからね。
それをいうと転移陣で一気に11階からスタートしてもよかったのかもしれないが、大繁殖前から生存しているスライムはそれなりに経験を積んで知恵が付いていたり、強くなったりしていて厄介かもしれないからね、念のため一掃しておこうと思ったのさ。
そして、昨日の続きとして5階以降は徹底的にスライムを狩る。
これより以降は、経験のリセットされたスライムに再出現していただこう。
そんな感じで10階のボス部屋前に到着するまで、各階の隅々までキレイにして回った。
「なんというか……大掃除って感じ?」
「まあ、似たようなものでしたね」
「アレス様のお部屋は、毎日わたくしたちが心を込めて掃除をしておりますので、ご安心くださいませ」
「うん、いつでもピカピカだよっ!」
「当然」
「お、おう、いつもありがとうな」
とまあ、そんな感じで一息つき、10階のボス部屋に入る。
そこに出てきたのは、1メートルそこそこのビッグスライム。
なんというか……30メートル級のユニオンスライムを経験しちゃうと、ちょみんって感じがしちゃうね。
でもまあ、これがこのスライムダンジョン10階の普段の姿なのだろう。
そこで今回は、3人娘に任せることにした。
すると3人娘はスリングショットを取り出し、鉄球を撃ち込み始める。
まあ、昨日武器屋で買っていたし、一応ゲイントの指導も聞いていたもんね。
そして何発か撃って狙いを確認したり、ビッグスライムのボディ強度を試したりしているうちに始末してしまった……なんかあっけなかったね。
「これぐらいだったら、ゲイントたちでも倒せそうだねっ!」
「ただ、ゲイント抜きの弟子たちだけなら、まだまだ先は長い」
「そうですわねぇ……根気強く修行なさっていただくのがよろしいかと思いますわ」
「ま、その辺のところはゲイントがシッカリ指導するだろうさ、それにケイラさんもいるんだし! あと、あの始まりのオッサンも何かと面倒を見るんだろうしな!!」
「アレス様のおっしゃるとおりですね」
なんて話しているうちに、大きめな魔石とフルーツゼリーの詰め合わせがそれぞれ「ひとつだけ」出現した。
……やっぱ、ユニオンスライムに比べると渋いな。
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