第410話 今日は初日

 お昼となったので、スライムダンジョン3階へと続く階段の近くで周囲を監視しながら昼食として携帯食をいただく。

 まあ、もうちょっと派手なものを食べてもよかったんだが、若きスライムハンターたちが変に勘違いをしてもいけないからね、一般的な冒険者スタイルの食事にしているのだ。

 ああ、スライムダンジョン特製のグミもデザート的に食べているけどね。


「このグミってお菓子……最初は女子供の食べる物だろうって思ってたんだけど……意外と悪くないかも」

「ま、俺っちはもともとグミの味自体に文句はなかったけどな!」

「携帯食を先に食べたからっていうのもあるだろうが、それでも1粒だけで思ったより『食べた』って感じがする……これなら携帯食はいらないかもしれん」

「それどころか、オイラなんか疲れが吹っ飛んじまったよ!」

「ああ、俺も先ほどまで感じていた腕のだるさがなくなった」

「フゥ……風味豊かなグミに乾杯」


 ほほう、若者たちの中でグミの再評価が始まっているようだね。


「ふむ、お前たちもドロップ品による回復効果を実感したようだな!」

「へぇ……これがそうなのか」

「まあ、僕たちはもともとそんなに疲れるようなことをしてこなかったから、外で食べてもあんまり分かんなかっただろうね」

「このグミさえあれば、オイラはいつまでも戦えるってことだな!」

「ちなみに、3階からは味にバリエーションも出てくるし、もっと上の階に進めばグミ以外にもいろんなお菓子が登場するから、乞うご期待だ!」

「おぉっ!」

「それでもやっぱり、お菓子ばっかりなんだね……」

「この1週間、スライムダンジョンのドロップ品を食べて過ごしていた日々を思い出すなぁ……まあ、命が助かったからこそ、いい思い出にできるんだけどな……」

「1週間をお菓子だけで過ごす……やはり、ゲイント師匠はメンタルも一流ということか……」

「まあ、アニキの場合は、アネキがお菓子作りが趣味でよく食べてたからっていうのもあるかもしんねぇけどなっ!」

「ああ、ハナさんのお菓子は俺も何度か食べさせてもらったが、あれは実に美味かった」

「ほほう、お菓子作りが趣味とは、とても素晴らしい! ああ、そういえばさっき、ハナさんにアップルパイをもらったんだったな、ここでいただくとしようか」


 というわけで、みんなで食べた。

 まあ、何気に結構大きかったからね、みんなにも行き渡ったのさ。

 それはともかく、酸味の利いたリンゴとカスタードのふんわりとした甘さが絶妙なハーモニーを奏でる、まさに絶品!

 え? これでプロじゃないって、マジですか!? って感じである。


「ゲイント! こんなに美味しいなら、お菓子屋さんを開けるんじゃないか!?」

「おお、アレスさんもそう思うか? やっぱ、ハナのお菓子は最高だよなぁ~」


 とまあ、そんな感じでハナさんのお菓子をみんなで味わったのである。

 ……スライムダンジョンとハナさんのお菓子によって、ゲイントの弟子となった若者たちがスィーツ男子に育ちそうな気がしてくるね。


「さて、昼も食べ終わったことだし、そろそろ先に進もうと思うが……予めいっておくと、今日は4階までにしておこうと思う……正直、初日ということもあって3階まででもいいかと思っていたが、みんなもやる気があるみたいだし、アレスさんたちもいてくれるから4階までにしたんだ……まあ、さっきみんなに付け替えてもらったスライムダンジョン特製のゴムがドロップするのが4階からっていうのもあるけどな。ただ、ポーションが出るのは5階からだから、物足りなく感じるかもしれないが、今日のところは我慢してくれ」


 まあ、ムチャはよくないもんね。

 そしてダンジョンのドロップ品という特別なゴムとはいえ、やっぱり消耗品だからね、替えは必要だろう。

 そうして3階は2階とほぼ同じような展開で、階段付近にいたスライムをゲイントとケイラさん、そして俺たちソエラルタウト班が蹴散らして距離を開け、それから若きスライムハンターたちが戦闘に参加してスライムを狩っていくという流れだった。


「クッソ! また外したッ!!」

「う~ん、上手いこと核のある位置に飛ばすことができれば一発なんだけどねぇ~」

「とはいえ、それもこのゴムのおかげだからな……普通のゴムからスタートじゃないだけ、俺たちは恵まれているのさ」

「やった、当たったど! オイラやったど!!」

「うむ、ナイスヒットだ!」


 とまあ、こんな感じで何度も外して、たまにまぐれ当たりを繰り返しながら、少しずつスライムハンターとして成長を遂げていくのであろう。

 そんなことを思いながら、俺はオッサンと並んで後方でうんうん頷いていたのだった。

 そして3階のスライムをひととおり討伐し終え、4階へ進む。

 ここでも流れとしては同じだが、若者たちの命中具合を見ていると、階が上がるにつれてやはりスライムも強くなっているのだなという感じがした。

 というのが、微妙に回避を成功させるスライムがいたからである。

 まあ、俺が初めてスリングショットで対戦したスライムは8階にいた奴だったので、そいつに比べれば回避能力もまだまだだけどな!


「よぉ~し、4階もひととおり回ったことだし、そろそろ戻るとしよう!」

「一発で仕留められたスライムはなんぼもいないが……ま、最初はこんなもんか」

「でも、今日は鉄球を用意してもらえたからガンガン撃てたみたいなところがあるけど、これからはその費用のことも考えなきゃだね」

「そう考えると……さっき師匠が見せてくれたみたいに、その辺の小石を弾にできるようにもなっておきたいところだな」

「んだな!」

「フゥ……ならば僕は風の弾丸を撃つだけさ!」


 それはつまり、ウインドバレットということか……まあ、目指す方向としてそれも悪くはあるまい。


「今日は初日ということもあるし、帰ったら親睦会を兼ねて宴会をしよう!」


 そのゲイントの言葉で、腹内アレス君がアップを始めたのはいうまでもない。

 というわけで、11階以降の攻略は明日から本格的にやるとしますかね。

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