第409話 命中率
ダンジョンに入ると、1階部分は昨日と同じように転移陣があるのみで、スライムは降りてきていなかった。
まあ、大繁殖中とはいっても、昨日俺たちがいくらか討伐しているので2階から溢れてくることはないのだろう。
とはいえ、2階に上がってみないと実際のところは分かんないけどね。
とりあえず、昨日ギルドのオッサンが領軍の出動をストップさせるべきかどうかと思案していたので、本当に中止となった場合のことを考えて、改めて討ち漏らし具合を確認してから先に進むことにした。
ま、それも踏まえて今日のところは、ゲイントの師匠ぶりを眺めつつ一緒に行くつもりである。
「いきなり実戦ってわけにもいかないから、スライムのいない1階でしばらく練習してから先に行こう」
というわけで、ゲイント師匠のスリングショット指導が始まる。
そして口頭による説明が終われば、実際に試し撃ちへと移行。
この際、練習用の的としてスライムに模したウォーターボールを人数分魔法で生成してあげた。
また、サービスとして鉄球も生成したので、思う存分撃ちまくってくれという感じである。
「おいおい、なんて量の鉄球なんだよ……」
「こ、こんなにポンポン魔法が使えるだなんて……本当に凄い魔法士なんだなぁ……」
「ゲイントの説明にもあったと思うが、魔力操作を丹念にやり込めばお前たちにだって魔法の道は開ける! 頑張れ!!」
「まあ、俺も昨日アレスさんに勧められて魔力操作を本格的に始めたって感じなんだけどな!」
「とはいうものの、ゲイントの場合は無意識のうちに眼に魔力を集中させることができていたみたいだから、まったくの初心者というわけでもないだろう」
「へぇ、アニキの命中率がすこぶるよかったのは、そのおかげでもあったんだなぁ~」
「ああ、そうらしい」
「……ということは、オレたちも魔力操作を頑張れば?」
「スライム……狩り放題!?」
「やったぁ!」
「へへっ、やっと俺っちの時代が到来したということだな!!」
若きスライムハンターたちのテンションがみるみる上がっていく。
「おい、オメェら! あんまり浮かれ過ぎるんじゃねぇぞ!? あくまでも魔力操作っつぅもんを頑張ればだからな!!」
「そんなもん、分かってるって!」
「オジサンは心配性だなぁ~」
「本気になった俺を、もう誰も止められない……」
「フゥ……風の声が聞こえる……ああ、分かったよ、そこを狙えばいいんだね?」
「……ハァ、コイツら本当に大丈夫なのか心配になってきやがった……」
「フッ、若者のノリというものは、いつだってこんなものだろうさ」
「……アレスさんよ、おそらくこの中だとお前さんが一番若いと思うぞ?」
「アハハハ、確かにそうみたいだねっ!」
といいながら、またケイラさんに頭をワシャワシャされる。
ケイラさんはワシャワシャするのがお気に入りなのだろうか?
まあね、アレス君の髪は艶やかで触り心地もいいからね!
こんなに基本スペックはいいのに、原作ゲームではそれらを台無しにされていた原作アレス君のことを想うと、なんだか切なくなってきちゃうな。
それはそれとして、若者たちはせっせとウォーターボール目掛けてスリングショットで鉄球を撃ち込んでいる。
……が、なかなか外しまくっている。
いや、俺も昨日まあまあ外していたから、人のことはいえないけどね。
そういえば、原作ゲームにもスリングショットが武器として登場していたけど……あんまり命中率がよくなかったんだよなぁ。
一応クリティカルが出やすいっていう設定にはなってたみたいだけど……剣とかと比べて安定的にダメージを与えられなかったのが嫌で、1周目のプレイ時にちょっと使ってみただけで、それ以降は一度も装備しなかったなぁ。
それを思い出すと、今こうやってスリングショットに興味を持ち始めていることに不思議な感慨があるね。
「さっきもいったけど、的に意識を向けるときギンギンに力むんじゃなくて、的のほうからこっちに向かってくるようなイメージで狙うんだ」
「的のほうから……」
「こっちに向かってくる……」
「そう、俺は今までそんなふうにして狙いを定めて猟をしてきたんだ、その感覚に習熟すればきっと、狙うべき的がハッキリと視えるようになってくるだろう!」
こんな感じで、しばらく練習が続く。
「ナイスヒッツ!!」
「え? おっ!? いよっしゃ、ヒットしたぁっ!!」
ほう、撃った本人より早く、ヒットする瞬間をゲイントは観ていたんだな……さすがだ。
「それじゃあ、ここらでちょっと実戦経験を積みに、2階に行ってみようか」
「よし、そのときを待ってた!」
「……上手く当てられるかなぁ?」
「俺の研ぎ澄まされた感性は、スライムを貫く……」
「待っててくれ母ちゃん、オラいっぱいスライムを狩ってくるど!」
「フゥ……風は僕の栄光への道を祝福してくれているんだね? フフフ、ありがとう」
ゲイントの号令の下、若きスライムハンターたちが初陣へ向かう。
さて、お手並み拝見といきますかね。
そうして2階へ移動してみると……スライムの数自体は昨日より減っていたが、それでもやはり多めという感じではある。
というわけで、距離が近過ぎるスライムはゲイントとケイラさん、そして俺たちソエラルタウト班で先に始末した。
「これぐらいの距離があれば、ある程度安全に狙えるはずだ……さあ、撃ってみてくれ!」
その言葉を合図に、若者たちは鉄球を放つ! 外すことを恐れず、次から次へと放ちまくる!!
「クッソ! スライムの野郎、微妙に避けやがってぇ!!」
「ハァ……ハァ……動く的っていうのは、こうも当てることが難しいんだね……」
「フン、スライムめ……どうやら俺の放つ鉄球が余程恐ろしいと見える」
「う~ん、なんとかスライムの身体に当てることはできたけど……核を撃ち抜くにはもうちょっとだね……」
こんな感じで午前中いっぱいまで、若者が中心となって2階のスライム討伐に精を出していた。
そして、そんな若者たちの姿をオッサンが満足げな顔をしながら後方から眺めていたのである。
そんなオッサンを見ると、なんというか……前世の部活動中の顧問の先生って感じがしたね。
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