第408話 ちょっくら見届けとこう

「それでは皆さん、本当にお世話になりました。きっと大丈夫だとは思いますが、お気を付けて」

「お父さん、無理をしないで早く帰ってきてね!」


 というわけで朝食後、そのままの流れでスライムダンジョンへ向かうこととなった。

 それで、ハナさんとヒナちゃんはここで別れて自宅へ帰るというわけだ。


「そういえばみんな、スリングショットを持ってるか? まあ、弓とかクロスボウでも基本的なことは教えられると思うが……やはり俺の専門はスリングショットだからな、なるべくならそっちのほうがいいだろう」

「いや、これから買おうと思ってた」

「僕はさっき話を聞いたばっかりだからね……」

「それは俺もだよ、実際のところ勢い任せみたいなところもあったしさ」

「オイラは子供の頃に遊びで作ったやつならあるけど……さすがにそれじゃ駄目だよね?」


 などなど、話が急だったこともあり、ほとんどの若きスライムハンターたちは遠距離用の武器を持っていなかった。

 そのため、スライムダンジョンに向かう前に武器屋に寄って調達することになったのだ。

 といいつつ、俺たちソエラルタウト班は別にゲイントの弟子というわけではないんだけど、なんとなくその場のノリでね、ついていくことになったのさ。

 ま、それはそれとして、武器屋っていうのはオトコノコ憧れの場所だからね!

 そうして武器屋に向かったわけだが……


「スライムダンジョンには遠距離武器! となれば、品質バツグンのウチので決まりッ!! さぁ、買った買った!!」

「俺のところはスリングショットを買ったら、オマケで鉄球を30個付けちゃうぞッ!!」

「それならこっちは! 値段変わらず、もうひとつスリングショットを付けるぞォ!!」


 スライムダンジョン、それも大繁殖中のヤバいときにスリングショットひとつで生還したというゲイントのウワサが既に広まっているのだろう、立ち並ぶ武器屋がここぞとばかりに店先で呼び込み合戦をしている。

 それにしても、「お値段変わらず、もうひとつお付けします」って……なんだか前世のテレビショッピングを思い出してしまうね。

 でもまあ、武器が壊れる可能性っていうのもじゅうぶんあり得るだろうからな、予備があるのは悪くないだろう。

 こうして若きスライムハンターたちは、ゲイントのアドバイスを受けつつスリングショットをひとつひとつ手に取ってフィーリングを確かめながら自分の相棒を決めていく。

 ちなみに、俺の場合はギドに用意してもらったスリングショットをそのまま使うことにした。

 まあ、基本的には自分で選びたい人なんだが、昨日使ってみて思いのほかしっくりきたからね。

 そして、何気に3人娘もスリングショットを購入していた。

 ま、そんなにかさばる物でもないし、持っておくと何かと役に立つ場面もあるかもしれないからね、いいと思う。

 そんなこんなで各自装備を整え、冒険者登録をしていなかった奴はそれもして、スライムダンジョンへ移動する。


「ここでもか……」


 正直、誰が発した言葉かは分からんが、たぶんみんな共通の感想だろう。

 というのが、スライムダンジョン前にも武器を扱う商人たちがいて、スリングショットを中心とした遠距離武器を並べて呼び込みをしていたからである。

 まあ、これはこれで便利でいいかもしれん、特に鉄球なんかは消耗品だしさ。

 そして食べ物を扱う屋台とかも、まだ少数ではあるがチラホラ見受けられる。

 活気という点においては、俺が見てきたほかのダンジョンに比べるとまだまだだが、この調子で少しずつ賑やかになっていくといいよなって思う。

 そしてギルドの出張所で手続きを済ませ、いざスライムダンジョンへ。


「おや? アンタもスライムダンジョンに入るのか?」


 なんと、始まりのオッサンもついてきたのである。

 実はベテラン冒険者だったとか?


「ま、俺が言い出しっぺみたいなところがあるからな! アイツらがゲイントの弟子として上手くやっていけそうか、ちょっくら見届けとこうかと思ってな!!」

「なるほど、アンタもなかなか面倒見がいいな。だが……」

「おっと、俺の心配は無用だぜ? 俺にはこの斧と、長年の木こり生活で鍛え抜かれた腕力があるからな! スライムの1体や2体ぐらいなら、どうにかしてみせるさ!!」

「ほう、それは頼もしいものだな」

「なんて偉そうにいっておいてなんだが……スライムの酸で斧が傷むのもいやだから、できれば戦いたくはないけどな!」

「フッ、実に正直なオッサンだ」


 そんな俺とオッサンの会話が聞こえたのか、ケイラさんも話に加わってきた。


「ま、アタシだってアニキには負けるかもしんないけど、なかなかの腕前なんだ! スライムがオッチャンのトコに来る前に倒してやるよ!!」

「おう! ケイラちゃんの実力も知ってるし、信頼してるぞ!!」

「オイオイ、その『ケイラちゃん』っていうのはやめてくれよなっ! いつもいってるだろ?」

「ハハッ、悪いな! でも俺にとっちゃケイラちゃんはケイラちゃんだからな……ま、諦めてくれや!」

「ったくよぉ……」

「フフッ、仲がよろしいみたいですね?」

「ま、オッチャンはアタシが子供の頃からオッチャンだったかんね!」

「おいおい、そこまでトシってわけでもないのに、そりゃひでぇよぉ~」

「なら、アタシを『ケイラちゃん』って呼ぶのはヤメにするんだねっ!」

「むむっ……それは難しい相談だ!」

「なんでだよっ!」

「ハハハハハ、息ピッタリですね!」

「さぁ~て、ここからはダンジョンだ! とりあえず今日は様子見程度のつもりだが、しっかり気合を入れていくぞ!」


 ゲイントの一声により、それまでの和やかな雰囲気からパリッとしたものに変わる。

 さて、俺も気持ちを切り替えるとしますかね。

 こうして、本日のダンジョンアタックが始まったのである。

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