第12話 異国の武術
異世界六日目の今日は休日。
曜日が月火水木金土日の代わりに地水火風光闇無と割り振られている。
「月曜日」が「地の日」みたいな言い方で、今日は闇の日。
元のゲームがファンタジーRPGに恋愛シミュレーションを合体させた内容だったからさ、学園パートで主人公の育成とかヒロインをデートに誘うってとき、曜日感覚が現実と大きくずれない方がプレイヤーにとっつきやすいだろうっていう制作側の配慮でこうなったんだろうなって思うね。
それならそのままで良かったんじゃないのとも言えるだろうけれど、そこは魔法の世界感を出したかったんだと思うよ、知らんけど。
そんな設定上の話はこの辺にしとこう。
今日は朝食前にちょっと体を動かそうかなと思うわけ。
昨日一昨日と魔力操作にばかり構っていたせいか、設定資料集が寂しがってるんだよね。
だからさ、設定資料集を読みながら行う読書ウォーキングをやります。
「この朝の新鮮な空気を独り占めする感覚、いいよね」
誰もいない庭園、俺だけの空間、この雰囲気を味わえたことに小さな幸せを感じる。
さて、始めましょうかね。
疲れたかなっていうタイミングで一度本を閉じて魔力操作ウォーキングに切り替える。
そしてある程度落ち着いたら読書ウォーキングに戻る、これを繰り返す。
こうすると休憩を飛ばすことができた。
すげぇ大発見だと思わない?
もう少し魔力操作の熟練度が上がればさ、読書と魔力操作を両方やりながらウォーキングなんて離れ業も出来ちゃいそう。
そこまで出来たらかなり捗るよね。
……そしたら俺のこと、ミスター効率化って呼んでもいいよ?
あ、またひとつ俺の二つ名が増えちゃうかな。
まぁね、二つ名なんて何個あっても良いからね。
そしたらさ、後世で俺のいろんな二つ名の後継者を巡って争いが勃発なんてことがあるかもしれないな、やれやれだよ。
あら、図らずもやれやれ系になっちゃった、まいったな、ハハハ。
そんなことを考えていたら、腹内アレス君の朝食要求が始まった、はいはい、今行きますよ。
その前にシャワーを浴びて、回復ポーション1本飲んでおこうかな。
ウォーキング効果によって、食欲が刺激されてるね。
でも大丈夫、そう、野菜があればね。
というわけで、いつも通り野菜中心でいただく。
昨日の夕食同様に5割5分をキープ。
運動もしてるし、食事量も順調に抑えられてる、良い感じだよね。
まぁ、見た目的には気持ち痩せたかなってぐらいだけど、着々と成功への道を歩んでる感はあるから気分がアガるね。
そんな感じで朝食を終了し、午前は何をしましょうかって言うとね、もうちょっと本格的な運動をしてみようかなって。
魔力の循環で、ある程度の体力がサポート出来るとわかったからさ。
というわけでやって来ました運動場。
まずは、体を温める意味も込めて、ジョギング……とは言ってもこの体だと早歩きかなってレベルの速さでしかないが。
まぁ、それはともかくとして、ジョギングが終わり、本格的に運動を開始しよう。
基本アレス君てさ、魔法士の後衛キャラだったこともあって接近戦に不安があるんだよね。
というわけで、格闘技の練習を行う。
参考にするのは前世の格闘技系動画配信の記憶だ。
一応さ、俺も男の子なだけに、格闘技とかそういうのに憧れもあって、いろいろ見てたからね、知識だけなら多少はあるんだ。
てなわけで、まずは受けや払い、受け身の練習から。
動画内師匠の教えを頭の中で反芻し丹念に行っていく。
こうした防御が不意を突かれたときにさっと出せるように、体に染み込ませる。
さて、防御面はこれぐらいにしておいて、次は突きと蹴り。
動画視聴者から「一撃先生」と慕われていた動画内師匠は「あれこれと見せかけだけの技はいらない……『本物の一撃』これさえあれば十分だ」と基本の突きと蹴りを愚直に行うことを熱心に説いていた。
俺もその教えに従おう……決して、決していろんな技についての詳しい記憶があいまいだからではない。
一撃一撃、体のどこを使っているのか意識を向けながら大事に練習していく。
ある程度のところで、本日最後の格闘練習として前世のシャドーボクシングみたいに仮想の敵を相手に戦闘を行う。
左側から上段突きが来る。
左前腕で内受け、からのガラ空きの胴体に右拳を突き込む!
しかし、敵さんも実力者、すんでのところで躱された。
ここは深追いは禁物だ、態勢を整えて仕切り直そう。
今度はローキックを多用してきたな。
ここは素直に応じず、一旦距離を置いて……追ってきたところを上段、中段の二連撃でどうだ!
リズミカルな受けで俺の二連撃を防がれた、と思ったらカウンターの前蹴りが飛んでくる!
くっ、とっさに腰を引いたが、軽く被弾してしまった。
「なぁ、なんかアレ、突然くねくね踊りだしたんだが、クラーケンのモノマネでもしてるのか?」
「……あの動き」
「どうした、知っているのか?」
「ええ、これは僕の推測の域を出ませんが、それで良ければお話ししましょう」
「それで構わない、聞かせてくれ」
「我が家の領地が隣国と接しているのはご存じかと思いますが、その隣国にモンスターの動作や形態を模倣した動作で構成される武術があると聞きます」
「まさか、それがあの動きだと言いたいわけじゃないよな?」
「いえ、そのまさかです。僕も噂でしか聞いたことがありませんでしたが、あの動き……クラーケンの動作を参考に編み出された武術と見て間違いないでしょう」
「なんだと!」
「あっ、見てください! 今敵の攻撃をあの分厚い触腕で打ち払いましたよ、そして間髪入れずに触腕突き! あぁ、惜しいっ!! 今のは浅かった」
「すまん、俺にはお前の言ってることがわからん」
「いえ、あのレベルの攻防を素人が理解するのは少々無理があることは承知しています。気に病む必要はありません」
「そ、そうか」
「なるほど、そうきましたか! 今の気付きましたか? 粘液を模した汗を飛ばすことで相手に一瞬の膠着を強いてからの一撃! いやぁ、今の一撃は実にお見事!!」
「いや、単に汗が飛んだだけだろ?」
「これだから素人は……むぅ、マズいですよ、相手の攻撃が勢いを増しています、これをしのぎきれなければ……」
「なぁ、その素人って物言いちょいちょい出てくるけど、こちとら3歳から武術を始めた10年選手だぞ?」
「ちょっと黙って! 今がこの戦闘の重要な局面なのですから!」
ふぅ、敵さんの最後のラッシュはヤバかったな。
捌ききれずに何発かもらってしまった。
だが……おそらく彼の本気はまだまだこんなもんじゃなかったように思う。
なんていうのかな、こっちのレベルに合わせてくれてたって感じがするんだよね。
……まぁ、俺の想像できる攻防がこの程度ってだけなんだけどさ。
「彼の魔法士としての噂は聞き及んでいましたが……まさか異国の武術にも精通しているとは恐れ入りました」
「そ、そうなのかなぁ」
「現段階の動きを見た印象では、まだまだ粗削りですし、おそらく今までは魔法士としての研鑽を積んでいて、武術に力を入れ始めたのはつい最近のことでしょう」
「まぁ、武術の動きとして見たら初心者感は丸出しだったな」
「ええ、今はまだ武術家としては完全に無名の存在でしょう……ですが、将来はモンスターを模した武術の達人として名を成すかもしれません。そう思わせるものがあの攻防にはありました。もしかしたら僕たちは今、新たな武術史の始まりを目撃したのかもしれませんね」
「ふむ、お前がそこまで言うのなら……アレ、もとい彼の動向に注目していくとするかな」
「ええ、それが良いでしょう」
普段、その辺の小僧の会話とか聞こえていないわけではなかったけど、どうでも良いから無視してたんだよね。
でさ、俺がシャドーしてたときにごちゃごちゃ話してたのが多少耳に入ってきて、それがなんか微妙に評価がヤバめなのよね。
なんだよクラーケンを模した武術って、ノリ良く「クラー拳」とか名乗ってみるか?
……いや、さすがに無しでしょ。
つーか、チラッと顔を見た感じ、ゲームキャラにあんなんいなかったと思うんだけどな。
いや、そう言えばゲームのアレス君には取り巻きがいたんだった。
もしかして、あいつらか?
ゲームの表記では「アレスの取り巻きA~F」みたいな感じで個性なかったからな、わかんなくても仕方ないか。
でもアレス君の取り巻きって忠誠心も仲間意識もなかったからな~戦闘中でも2ターンを越えたあたりからアレス君を残して勝手にどんどん逃げ出すし。
あれなぁ、逃げられたら獲得経験値減るから、うざかったんだよな。
しかも、逃げたくせに以降のエピソードでもしれっとアレス君パーティーにいるし。
その辺ふまえると、アレス君ってバカなのか器がデカいのかよくわからんくなるね。
……ま、別にどうでも良いか。
俺に取り巻きとかいらんし、寄ってきても追い払うだけだ。
彼らがゲームの取り巻きだったのかどうかも正直わからんけど、別に注目でもなんでも勝手にさせとけば良いや……邪魔だったら蹴散らして終わり、うん、それが良い。
そんなことをつらつらと考えながら、疲れた体に回復ポーションを瞬間チャージ。
くぅ~っ、染み渡るねぇ~
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