第11話 日頃から積み重ねた信頼関係
「足を中心に体中が痛い……」
筋肉痛ってやつだね、もしくは関節に負荷がかかり過ぎましたかね?
魔力さえぶち込めばだいたいなんとでもなると思っていたけれど、そこまで簡単ではなかったみたい。
この力押しスタイルなところに俺とアレス君の波長が合って、こういう転生の形に落ち着いたんだろうなぁっていうのは察するものがあるよね。
まぁそれはともかく、回復魔法とかもゲームではあったから大きくは間違っていないハズ!
ただ、今の俺ではその辺の技術が足りないだけだと思うから、継続して魔力操作と魔力を用いてのイメージ力を鍛えなきゃといったところだね。
そんなことを思いながら、最下級回復ポーションを1本いっといた。
別に大した怪我でもないのでこんなもんでよかろうとの判断だったが、十分だったみたいで体の痛みが消えた。
もしや、昨日の夕飯の量が足りなくて回復に回すエネルギーがなかったか……それに魔力操作ウォーキングに気を良くして休憩もかなり減らしたし。
でもま、回復ポーションがあればそれほどの問題でもないね。
そう考えれば今後、前世のスポーツドリンクとか筋トレ後のプロテイン感覚で回復ポーションを運動後にぐびっといっちゃおう。
さて朝食です。
正直、プロテインに置き換えダイエットみたいにさ、回復ポーションに置き換えたってことで今回は食べなくても良くない?
そんなことを思ったのだけれど、それには腹内アレス君は黙っていなかった。
最近ちょっとおとなしかったから、だいぶダイエットに理解を示してくれてたのかなとか思っていたけど、さすがに甘かったみたい。
というわけで、やっぱり野菜を中心に食べましたとも。
今回は昨晩より少し増えて6割でした。
やっぱ腹内アレス君とはタフな交渉が続くね。
こっちが少し優勢になったかなと気を抜けばすぐ巻き返される、ホント大したもんだよ。
朝食に満足したところで、今日もエリナ先生の授業が楽しみです。
「みんなおはよう、今日は魔力操作の第三段階の練習を行うわ。その前に、昨日の復習をしましょう。私が止めるまで魔素を集めて変換、魔力を体内で循環をやってちょうだい。それでは始め」
ふふっ、エリナ先生、貴女の教えによって一段と技術力の向上した魔力操作、今お見せしますよ!
うむ、昨日より少しスムーズに魔力を体内で循環させることが出来るぞ。
「そこまで。まだまだ粗削りではあるけれど、良い調子ね。さて、では次の段階に入ってみましょう。と言っても、既にあなたたちは魔法発動で魔力を体外に放出することは出来ているので、今回はそのバリエーションといった感じになるわね」
確かに、魔力測定の時点でみんな威力はともかくとして、普通に魔法を使えてたからね。
仮にもAクラスの人間なんだ、魔法の発動程度で躓いていたらつまみ出されても文句を言えまい。
「そこで何もイメージせずに魔力を掌に集めれば無属性魔力の塊が出来るわ。それをイメージと連動させていろんな形に動かしてみたり、膜状にして体の表面を覆ってみたりするのも良いわね」
ほぉ、体の表面に覆うとな、前世の漫画とかでも完全防御とか言ってそんな感じの技を持ってるキャラとかいたし、見た目カッコ良さそうだ。
……うん、アリだな。
「これは密度次第でなかなかの防御力があったりするし、それを維持しながら動けるようになると、魔力操作の技術としてはかなり進歩したと言えるわ。じゃあ、早速やってみましょう」
この前の魔法練習場で課題となった尖らせて回転、まずはこれからやってみよう。
……練習の成果か、前よりは尖らせやすく、回転も滑らかだったように感じるね。
これならドリルとギリギリ言えるかなってぐらいだ。
よし、ドリルは一旦これぐらいにしておいて、エリナ先生の言っていた魔力で覆うっていうのをやってみようじゃないの。
……体のおうとつに合わせるのって地味に難しいね。
でも、これが使いこなせたら、移動砲台としての活躍も見えてきそうだ。
特に今みたいにまだ、体力と運動能力に心配のあるうちは猶更。
「はい、終了。もしかしたら体の外で魔力を扱った今回の方が魔力操作をやり易く感じた生徒もいたかもしれないわね。そして、この三日間行った魔力操作が魔法の基礎となってくるとともに、一生をかけて磨いていく技術になります。だから、折に触れて練習を重ねていってもらいたいところね。じゃあ、今日はここまで。では、明日明後日は休みだから、しっかり休むなり、自主練習に励むなり有意義に使ってちょうだい」
こうして今日の授業は終了した。
ああ、これから二日間もエリナ先生と会えないのか、寂しいもんだね。
「私ちょっと魔力の回復追いつかないから、魔力ポーション飲むわ」
「ね~今日は結構魔力使ったもんね」
「でもさ、これ1本で結構お腹いっぱいになっちゃうよね」
「確かに~今日はダイエットってことでこれで終わらせちゃおっか!」
「そうだね」
……おい聞いたか腹内アレス君よ?
この世界でもポーション置き換えダイエットやってるみたいだぞ?
俺たちも、今日の昼はポーション1本で良いんじゃないか?
……はい、駄目だよね、わかってた、聞いてみたかっただけなんだ、そう怒らないでくれ。
まぁね、正直そこまで魔力減ってないし、自然呼吸でほぼ回復出来てるからあんま飲む必要なかったから良いんだけどね。
そんなこんなで、今日も誰得シャワーシーンをお送りしてお昼をいただいた。
よし、今日は何をするかな。
先ほどの移動砲台化構想をもう少し現実的なものとするために、今日は魔法練習場で魔力を纏う……カッコ付けて魔纏――MATEN――って呼ぼうかな、これをしながら攻撃魔法を撃つ練習をやってみよう。
実用化出来れば体力に多少の心配があってもザコモンスター程度は余裕で蹴散らせるだろう。
まぁ、調子に乗ってやられたらホントの意味でゲームオーバーになっちゃうからもう少し体力を付けてからになるとは思うけどね。
というわけで、やって来ました魔法練習場。
前回と同じように手続きを終わらせ、今回も小練習場を使います。
では早速魔纏から行ってみよう。
……まだまだ体の表面を滑らかに覆うことは出来ていないし、厚かったり薄かったりする部分があって歪ではあるけれど、一応防御力のある魔力を纏うこと自体は出来たかな?
よし、このまましばらく練習だ。
「う~む、このまま動くのはまだ無理そうだね。仕方ないから今日は固定砲台でいきますか」
ある程度時間が経ったので、その場で魔纏を展開しながら的に向かって無属性の魔力塊を飛ばす練習に切り替えた。
ふむ、2種類の魔法の同時行使っていうのはやっぱり難易度上がるみたいだね。
まぁ、ゲームでもコマンド入力だったこともあって、1ターンに1種類だったことを考えれば、難しいのは仕方ないかな。
でもま、出来ないわけじゃないから練習練習。
さて、腹内アレス君も「そろそろお時間の方が……」と言い出してきたから、今日はここまでとしようかな。
……それにしても、アレス君の魔力量には改めて驚かされるね。
ここまでかなり魔法を使ってきたけども、そこまで魔力を使い切った感がない。
というか、こちらが意図してなくても自然回復量が結構多いから、かなり余裕あるし。
なんだろう、魔法の練習をこなしていくうちに少しずつアレス君の隠された実力が見えてきて楽しくなってきたぞ。
やべぇ、今俺、すっごく充実してる!
異世界最高!
異世界転生を果たした先輩諸兄が元の世界にさほど帰りたがらないように見えたのも納得だね!!
そうした充足感を味わいながら夕食へ。
「なんか今日のアレ、妙にゴキゲンだな」
「もしかして、お目当ての令嬢に色よい返事でももらったかな?」
「まっさか、あの嫌われ者が!?」
「そうは言っても、侯爵家だからさ」
「ああ、まぁ、それはそうだな」
「ま、それは良いとしてさ、僕らも明日のお茶会で頑張らなきゃだよね」
「おう、ここらでビシッと男らしく決めるしかねぇよな!」
夕食の量は俺が転生してくる前の5割5分!
おいおい、どうしちゃったんだよ腹内アレス君!!
今回はやけに優しいじゃないのさ?
もしかして、腹内アレス君も食事よりも楽しいこと見つけちゃった?
……あ、ごめん、調子に乗り過ぎたね、悪かった、ステーキ1枚で許してくれる? うん、ありがと。
遂にツンデレ腹内アレス君のデレ期が来たかと茶化したら怒られてしまったが、ステーキ1枚という寛大な心で許してもらった。
たぶん、ちょっと前なら少なくとも3枚から交渉がスタートしてたと思うね。
食事を終えて夜の部です。
やっぱりね、この時間は魔力操作のお時間なんですよ。
第一段階から順に始めて第三段階まで丁寧に魔力を操作していく。
この時間は力ずくな操作じゃない、繊細な扱いが重要。
魔力ちゃんもさ、人とおんなじなんだよ、優しく接してあげれば、こちらの想いに応えてくれる。
反対に、高圧的な態度に出たらね、魔力ちゃんも態度が硬化しちゃうの。
やっぱ、その辺の気持ちの触れ合いっていうのかな、そういうの大事にしたいよね。
……ま、戦闘中はそんな呑気なこと言ってられないだろうけどさ。
でも、そこは魔力ちゃんもわかってくれると思うんだ、日頃から積み重ねた信頼関係ってやつだよね。
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