第10話 軌道に乗り始めてきた

 授業が終わり、恒例のシャワータイム。

 なんかね、魔力操作を行うと魔力の流れに付随して血行が良くなるのか、汗が凄いの。

 そのうち「瀑布のアレス」とか「激流のアレス」みたいな感じの二つ名が知らないうちに付いてたりして。

 で、先輩冒険者とかに「おい瀑布の、この足跡を見てみろ……どうやらこの方向で間違いないみたいだぞ」とか渋い顔と声で言われちゃうんだろうね。

 ああ、そんな言葉使いで不敬罪とか言わないのかって?

 うん、ゲームの強制力的に追放されるかもだし、侯爵家の後継者争いとかもする気ないからさ。

 まぁ、ある程度戦える目途がついた段階でただのアレスとして冒険者ギルドに登録しようと思ってるんだよね。

 ちょっと話がズレたから二つ名の話に戻すけど、この世界に来てから安全面を考慮して水魔法を使うようにしてるのもあってさ、地味に条件が揃いつつあると思わない?

 自惚れていると思われるかもしれないけど、アレス君の魔力量で本気の水魔法使ったら、余裕で目立つ自信あるし。

 まぁ、ここまで言っといてなんだけどさ、魔力操作に慣れて暴発しない自信が付いたら他の属性も使うつもりだから、あんまり意味のない話なんだけどね。

 ごめんよ、シャワー浴びてる間の暇つぶしだったんだ。

 さっぱりしたところで、お昼をちゃちゃっと野菜たっぷりで食べちゃおう。 


 よぅし、今日は夕方までどうするかな。

 さっきの授業でエリナ先生が「体内で魔力を循環させる練習は身体強化魔法の基礎になる」と言ってたでしょ?

 ということはだよ、魔力を循環させることで肉体にパワーが宿ると仮定できる。

 そう考えれば、魔力で体力を代替させることも可能なんじゃないだろうか?

 もしこの考えが正しければ、魔力を循環させながらウォーキングをすればあんまり休憩しなくて良いかも!?

 仮に休憩が必要だったとしても、その間に魔素を魔臓に集めれば体力回復に役立ち、休憩時間を短縮出来るかもしれないぞ。

 いや、疲れを感じ始めたら魔素を集めりゃいいじゃん!

 上手くいけばダイエットが捗るぞ!!

 よっしゃ、これだ、今日のやることが決まった。

 魔力操作ウォーキングだ!!


「アレ、今日は本を読んでないぞ」

「飽きたのではないか? もともと勉強嫌いともっぱらの噂だったしな」

「それもそうか、でもなんで歩くだけなのにあんな鬼気迫る顔してんだ?」

「わからん……が、あの汗の量は尋常ではないな」

「なんつーか、ドロドロしてて泥水みてぇだな」

「……さしずめ泥水令息といったところか」

「ふはっ、そいつはひでぇや」


 ふむ、俺の読みは正しかった。

 魔力操作ウォーキングの感覚に慣れるに従って、明らかに休憩の回数が少なくなった。

 そして、魔素の取り込みと魔力の循環のやり方についても工夫した、というかむしろシンプルにした。

 呼吸に連動させて、息を吸うときに全身で魔素を魔臓に取り込み、息を吐くときに、魔臓から体の末端まで魔力をぐいっと押し出す、イメージとしては風船が膨らんだり縮んだりするみたいな感じ、これだけ。

 普通、魔力操作の練習としてならもっと丁寧に魔力を流すべきなんだろうけれど、今はどっちかと言うと運動のためだし、これで十分目的が果たせている。

 こうしてるとだんだんね、ウォーカーズハイって言うのかな、今ならどこまでも歩いて行けるっていう気がしてくるよ。

 そうして、日が暮れるまでひたすら魔力操作ウォーキングを続けた。


 瀑布のアレス君はもう一度シャワーを浴びて夕食です。

 今回も野菜中心でヘルシーに行きたいと思います。

 もしかしてだけど、腹内アレス君の攻略法がわかっちゃったかもしれない。

 大量に野菜を食べるとさ、あんまりごちゃごちゃ言ってこないんだよね。

 どっちかと言うと、俺の方がつべこべ言ってる気がするぐらいだし。

 そのお陰でね、食事量が普段のアレス君の量の6割を切った。

 これはかなりの快挙だよ!

 この前なんて0割1分の差でごねられたんだからさ、それから考えたら途轍もない進歩だよ。

 ようやくアレスイケメン化計画が軌道に載り始めてきたって感じ。


 気分よく食事を終え、自室に戻ってきた。

 恒例の魔力操作(精密版)のお時間です。

 魔力操作ウォーキングのときは、こまけぇことはいいんだよってな感じで無理矢理だったからね。

 今回は魔力を体内で自由自在に動かせるようにじっくりと丹念に取り組んでいこう。

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