第9話 魔力を循環させる

 夜になりました。

 今後も習慣にしていきたい魔力操作のお時間がやってまいりました。

 うん、気分的に今日から瞑想じゃなくて魔力操作と言おうかな。

 そして、今日のエリナ先生の指導によって俺は気付いてしまったことがある。

 魔力操作を立ってやれば寝なくて済むんじゃね? ってことである。

 授業中の魔力操作で座らされたりしなかったことから、別に座ってやんなくてもいいんだなっていう発見に我ながら驚いている。

 いやなんかね、前世感覚で瞑想とか座禅ってさ、座ってやるものっていうイメージあるじゃない?

 少なくとも俺にはそういうイメージがあったからさ、知らず知らずのうちに視野が狭まってたかもしんない。

 ……思い返せば、バトル漫画とかで武術の構えのまま「ハァーッ」とか言いながら気を溜めるみたいな描写もあったし、気付こうと思えば気付けたことだったね。

 まぁそれはともかく、素晴らしい気付きを与えてくれたエリナ先生には惜しみない感謝を。

 さて、エリナ先生のありがたいアドバイスを意識しながら、早速始めよう。


 四日目の異世界におはよう、昨日の自分にありがとう、今日の目覚めにおめでとう。

 寝る前の魔力操作、あれはいいものだ。

 魔力っていうエネルギーを体に溜めているのだから当たり前と言えば当たり前なのだけれど、なんて言うのかな、その日に使った活力みたいなものが戻ってくる感じがするんだよ。

 そうして魔力操作をしっかり行って布団に入ると、もう一瞬で眠りの世界に旅立てるね。

 めっちゃおすすめ! 眠りの質がめっちゃ変わるよ!!

 何? こっちの世界に魔力なんかないから無理だって?

 そんなの知るか!

 ないなら創れよ!

 人間っていうのはさ、無理だと思われたことを創意工夫で今まで成し遂げてきたんじゃん?

 やる前から無理だって逃げんなよ!

 俺達には無限大の可能性があるんだからさ!

 頑張るのって全然恥ずかしいことじゃないんだよ。

 だからここらで一発キメてみようぜ!!


 ……朝のテンションっていうのは怖いね。

 なんていうのか、無責任な言葉がスラスラ出てくるんだ。

 だからね、人と話すときはなるべく、自分の頭の中で一回言ってみてから口に出そうと思う。

 ……思うだけで、できているかどうかは判断が難しいけれど。

 そうやって考えるとさ、ペラペラと無駄口を叩かないで黙っとくのがカシコイ選択ってやつかもしれないね。

 しかも漫画とかアニメだとさ、無口な奴ってクールでカッコいいから一定の人気あるじゃん?

 正直さ、中二病って言われちゃうかもしれないけれど、ああいうキャラに憧れあるんだよね。

 今はこんな体型だけど、痩せたらアレス君イケメンでしょ?

 だからさ、俺もイケてるクールガイになれるんじゃないかってね、期待してるんだ。

 これはみんなには内緒だぜ?


 着替えが済んだので、食堂へ。

 

「お前ら、昨日の話聞いたか?」

「なんだっけ?」

「アレが魔力操作で破裂しかけたって話」

「あぁ、聞いた聞いた、魔力の化け物って何やらかすかわからないから困っちゃうよね」

「その場面を実際に目にした令嬢の話だとさ、皮膚が溶け出してるのかって思うぐらい、なんかビタビタになってて気持ち悪かったんだって」

「うわぁ、そりゃトラウマものだね」

「オイ、ちょっと待て!」

「んぁ? どうした?」

「オレっちの聞き間違いかもかもしんないけど今、令嬢の話って言ったよな?」

「ああ、言ったぞ?」

「オイ、オイ、オイ~! それって抜け駆けってやつじゃないの?」

「いやいや、この学園に入学したその瞬間から婚約者争奪戦は始まってるんだぜ? 黙ってぼーっとしてたら、手の早い奴に先を越されちまうだろ」

「ぐぬぬ」

「あぁ、僕ものんびりしてられないや」

「だろ? わかったら、ちんたらしてねぇで、お前らも必死にアタックしてけ」

「誰か、誰かオレっちの魅力に気付いて~!」


 昨日の夕食を参考に、今朝は野菜を中心としつつも、肉や魚、穀物なんかも取り入れて7割9分で食事を行った。

 今回は、腹内アレス君がつべこべ言わなかったので、比較的楽に食事が出来たんじゃないかと思う。

 さて、食事も一段落したことで、今日も元気よく授業を受けに行きましょう。

 待っててね、エリナ先生~


「今日の授業も魔力操作の練習を行うわ。まずは昨日の復習を兼ねて、魔素を魔臓に集める練習から始めましょう。私が合図するまで、続けてちょうだい。それでは開始」


 ふむ、いっちょここで自主練習の成果をエリナ先生に見てもらおうじゃないの!

 でも、無茶はダメだぜ?

 スマートに決めるんだ、度肝を抜きたいとか、そんなちゃちなことを考えたら昨日の二の舞だ。

 熱くなるなよ、クールに行こうぜ、アレスボーイ!


「そこまで。みんなよく出来ていたわ。この調子でコツコツ続ければ魔臓の許容量も少しずつ増えていくから頑張るのよ。さて、今日は魔力操作の次の段階に進んでみましょう。昨日の説明では魔素を魔臓に集めて魔力に変換するところまでだったわね。今日は、その魔臓に溜め込まれた魔力を体の中で循環させます」


 ほほう、より魔力操作らしくなってきたね。

 こりゃ興味深いですよ。


「そして、体の中には魔臓を中心として血管のような魔力の通り道である魔力経が全身に張り巡らされているわ。そのため、魔力が魔臓から魔力経を通って頭の先に巡り、また戻ってくる。次は右手の指先へ巡り、また戻ってくる。次は右足のつま先、左足つま先、左手の指先と続けて、また同じように頭の先と繰り返す。このように魔力を全身に循環させる練習をします。また合図をするまで続けてちょうだい、それでは始め」


 なるほどね、それが魔力を循環させるってことか。

 よっしゃ、ガンガン循環させてくぜ!


 ……うぅ、魔力が重い、すんごい重たいの。

 魔力経自体は、昨日の体中があっつくなった感覚のお陰か、わりとすんなり感じ取ることが出来た。

 ただ、そこに魔力を巡らせるのが難しい。

 でもまぁ、ここ数日この体と行動を共にしてきたんだ、予想はついていたことさ。

 まだまだ頑張れるぜ!


「そこまで。みんな結構苦戦したみたいね。これも地道な努力あるのみよ。今回は同じ方向で続けたけれど、逆方向だったり、巡らせる場所の順番をバラバラにしたり、緩急をつけたりといろいろ練習すると良いわ」


 むむっ、このめちゃくちゃ重たい魔力を自由自在に循環させるのに慣れるのにはかなり苦労しそうだね。


「それから、この体内で魔力を循環させる練習は身体強化魔法の基礎にもなるわ。騎士として活躍を希望する場合、身体強化魔法は必須と言える魔法よ。だから魔法士を目指す生徒はもちろんのこと、騎士を目指す生徒はより一層気合を入れて取り組むこと、良いわね?」


 なるほど、ここで身体強化魔法がでてくるのか、これは良いことを聞いた。

 ゲームのアレス君はバリバリの魔法士だったわけだが、こっから頑張って身体強化魔法を習得すれば、みんな憧れの魔法騎士にだって成れちゃうんじゃないの!?

 これは頑張り甲斐がありそうだ、魔力が重たいとか言ってられねぇぜ!!

 こうして今日の授業が終わりを告げた。

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