第8話 共感を求める生き物

 授業の魔力操作で汗だくになっていたので、とりあえず自室に戻って視聴者サービスのシャワー&お着替えシーンですよ……デブ専向けだけどね!

 そして、やっぱり侯爵家の財力って凄い、なんとクローゼットに同じ制服がズラッと20着以上も並んでるからね。

 ドラマとかアニメとかでもたまに見るじゃん? コイツいつも同じ服着てんなって思ったら、同じデザインの服を大量に持ってましたってやつ。

 あれさ、正直そんな憧れていたわけではないけれど、いざ自分で経験しちゃうと、不思議な優越感が湧いてくるね。

 たださ、ダイエットを志した俺としては整然と並んでいる制服たちに若干の申し訳ない気持ちが湧いてきちゃうよね。

 君たちの活躍の機会は、近い未来にはなくなってしまうんだよってね。

 ……と思ったけど、やっぱゲーム世界だね、魔法的な作用でサイズ変更できるみたい。

 その存在が無駄に終わる制服はここにはいない、そのことが俺に深い安堵をもたらした。

 まぁそれはそれとして、昼食を食べて、その後は何をしようかな。

 やっぱ、知識と体力に不安があるからな、食後の運動も兼ねて本読みウォーキングにしよっと。


 この国の歴史書を読んでるとさ、思ってしまうことがあるんだ。

 これってゲームの設定資料集みたいだよねって。

 なので、思ったより勉強してる感がないのが助かるね。

 前世ではそこまで歴史に興味がなかったけど、受験科目には入ってたから仕方なくって感じだったからさ。

 あぁ、前世での……電子の海の向こう側にいた同好の士の皆様に、カイラスエント王国の知られざる設定の数々! とか言ってややドヤ顔で披露したくなっちゃう。

 ……嘘乙とか妄想極まってんなとか言われちゃうかな?

 

「おいアレ、今日もやってんぞ?」

「なんかさ、神妙な顔したり、にやけた顔したり、シンプルに気持ち悪いよね?」

「見ろよ、向かい側から歩いてきた令嬢のひきつった顔……」

「待って、ここであの令嬢の恐怖感に寄り添いながら『アレ、怖かったよね』って優しく声をかけてあげたら……いけちゃうんじゃない!?」

「ねーよ、お前のその発想もまあまあ気持ち悪いわ」

「……いや、もしかしたら有効な手段かもしれませんぞ? 女性は共感を求める生き物であると兄上がおっしゃっておりましたゆえ」

「……お前の兄ちゃん、この前の見合いを兼ねた茶会で失敗したって言ってなかったか?」

「「あっ……」」


 ふむ、俺の八方目もわりと様になってきたな、前方から向かってくる存在にいち早く気づき距離をあけることに成功した。

 目に見える数字としては表示されていなくても、順調にレベルアップしてるってわけさ!

 俺の華麗な身のこなしに、春の妖精も頬を染めることだろうね……ゲームに出てきた妖精のほとんどはモンスター扱いだったけど。


 この日も、暗くなるまで設定資料集を読みながらウォーキングを続けた。

 前回よりも休憩の頻度が気持ち少なめだったので、多少は体力も付いたかなっていう気がしてくる。

 自室にて、本日二度目のシャワータイム。

 なんだろ、この世界に来てお風呂大好きっ子みたいになってるぞ。

 視聴者の皆様に喜んでいただけているのであれば、それに勝る喜びはないけれど……

 でもま、しょうがないのさ、水も滴るいい男とか言ってられないぐらい、汗が凄いんだから。

 君たちもさ、アレス君の体を経験したらわかることだからね!

 

 そんなこんなで夕食です。

 今日も7割9分を限度としながらも、めっちゃ喰うぞ!

 恐怖の飢えタイガーとは俺のこと!!

 

「危険を察知したと思ったら……アレでしたか」

「まぁ、小動物系のお主では仕方のないことであろう」

「ふぅ、冷や汗が止まりませんでしたよ」

「おいおい、ビビり過ぎじゃねぇか、そんなんじゃダンジョン探索できねぇぞ?」

「……いや、その恐怖感は大事にした方がいいな、お調子者から順番に命を落とす……ダンジョンとはそういうところだ」

「「……ゴクリ」」


 腹内アレス君はさ、量で判断してるんじゃないかっていう仮説を立ててみた。

 するとどうだ、野菜中心で食べたらダイエットに効果的なんじゃないかって気がしてきたね。

 なので今回、草食系男子になっちゃいます!

 時代は肉食系より草食系さ! 飢えタイガーとか馬鹿なこと言ってる頓珍漢にはご退場願おうか!!

 ってなわけで、俺のテーブルには野菜が山盛り……っていうかもう山だね、向こう側が見えないもん。

 そういえば前世の宣伝で野菜を生でたくさん食べるのは大変だから青汁で補いましょうとかいうのあったじゃん?

 でもさ、この体だと逆に満腹感を得られないから、もの凄い量を飲むことになりそうだよね。


 ……ふぅ、目の前にそびえ立つ野菜の山を制覇した。

 宣伝は正しかった、生でたくさん食べるのがこんなに大変だったとは……

 なんかね、途中でドレッシングの味を変えたりとかはしたんだよ、でもさすがに飽きる。

 それでも頑張った。

 ……アレス君の体ってさ、空腹感に対する耐性はクソザコだけど、意外なところでは根性を見せたりするんだよね、地味に驚かされるよ。

 そんで仮説の検証結果だけど……有効性が確認されたと見ていいと思う。

 だってもう食べたくないもん、腹内アレス君もダンマリだし。

 

「何なんだよアレ、草原のミノタウロスですらあんなに草食わねぇぞ?」

「同じ草食系でも……あれぐらいの規模感になると、他を圧倒出来てしまうのですね……」

「アレはダンジョン深層のユニークモンスター級……いや、もしかしたらそれ以上かもしれんな……」

「「……ゴクリ」」


 今後のダイエットに新たな方向性が示唆されたことを喜ばしく思いながら、俺は食堂を後にした。

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