第48話 俺に出来るのは
「エメ……俺がわかるのか?」
「ワカルヨ?」
「!!」
「エメちゃん! あっしのことはわかるかい?」
「ゼスオジサンデショ? ……ミンナシテ、ヘンナノ!」
どうやら妹には、人間の体だったときの記憶が残っているようだ。
しかし……記憶って脳にあるもんじゃないの?
ああでも、臓器移植とかしたら、臓器提供者の記憶や性格、趣味とかが転移することがあるとかってテレビかなんかで見た気がするな、もしかしてそういう系?
そう考えれば、魔臓に記憶が宿っていた……ありうることなのかな。
「エメ! エメェ!!」
「チョット! オニイチャンッテバ、キョウハドウシタノ?」
人形に姿を変えはしても、記憶が残っていたことに感極まり、泣きながら妹を抱きしめるグベル。
それにしても、俺は人間のときの姿を知らないのだが、グベルやゼスの反応から察するに、見た目は人間の頃そっくりなんだろうな。
あの人形師……人形を作る技術自体は本物だったということか。
……であればこそ、外法なんかに手を出さず、正攻法で最高の人形を追及すればよかったものを……ザコマヌケの口車なんかに乗って……本当、大馬鹿野郎だよ。
「デモナンカ、オニイチャン……イツモヨリオオキイヨウナ?」
人形のサイズになってしまったからね……
たぶん、60センチぐらいなんじゃないかな……1メートルは確実に切ってる。
しかし困ったな、妹にはどう説明したらいいんだ……
とりあえず今は、涙ながらに妹を抱きしめているグベルが落ち着くのを待つか。
「モウ……ショウガナイオニイチャンネ!」
そう言いながら、グベルを抱きしめ返しながら頭を撫でる妹。
なんだろうこの妹の包容力は……お母さん感が漂ってるぞ?
「エメ……」
「ヨシヨシ」
その後、しばらくしてグベルが落ち着いた。
「エメ……お前に話さなければならないことがある……」
覚悟を決めたグベルは、妹の現状を説明した。
「ソッカ……モウワタシハニンゲンジャナインダネ……」
「そんなことあるもんか! お前は人間で俺の妹だ!!」
「そうだぜ、エメちゃんは人間だ! それはあっしが保証する!!」
「アリガトウ……」
そうして、この日はもうだいぶ夜が遅くなってしまったので、この屋敷に一泊することにした。
正直、こんなところに長居したくないという気持ちもあるが、夜の森歩きで不測の事態が起こるのを避けたかったからね。
そしてその間、エメちゃんに自己紹介なんかもしておいた。
少し話してみただけでいい子だということがよくわかった。
そんな子が……運悪くクズどもの目に留まってしまったせいで、こんなことになるなんて……
やるせない気持ちを抱えたまま、それでも何か方法がないかと考えながら一晩を過ごした。
「おはようございやす、旦那」
「ああ、おはよう」
「朝食の準備も出来てやすよ」
「おお、助かるよ」
そして食堂に移動し、朝食を済ませたあと、グベルがおもむろに口を開いた。
「アレスさん、ゼスさん、お2人に話があります」
「なんだ?」
「どうしたってんだグベル、急に改まってぇ」
「エメと一晩話し合って俺たち……このまま旅に出ようと思うんです……学園都市にはエメのことを知っている人が多すぎるから……」
「……ああ、そういうことになっちまうか……」
「それに……どこかでエメの体を元に戻す方法がみつかるかもしれないし……」
「……ちょっと待て、その前にこれを試してみたらどうだ?」
「そ、それは! 最上級ポーションじゃねぇですか!! それも、回復に魔力も!!」
「ああ、頭や心臓を破壊されても魔臓が残っていて、運がよければ助かるとかって聞いたのを思い出したからな。そして、回復は人形の体に効くかわからんから、一応魔力も出してみた」
「そんな高価なもの……受け取れません」
「いや、俺も出来ることはしてやりたいからな……まぁ、どうしても気が咎めると言うのなら、これは貸しってことにしてもいいぞ?」
「アレスさん……」
「ああ、めちゃくちゃな利子を要求するとか、そういうのはないから心配するな。いつか俺が困ったとき、少しばかりの手助けをしてくれればいい」
「グベル、お前もわかってると思うが、旦那は理不尽なことをするようなお人じゃねぇ、好意に甘えたらどうだ?」
「……わかりました、ありがたくいただきます……エメ、これを飲んでみるんだ」
「アレスオニイチャン、アリガトウ!」
「礼は元に戻ってからだよ。さ、飲んでみて」
「ウン!」
エメちゃんが最上級ポーションの回復と魔力の2本を飲み干すと、体が淡く発光する。
頼む、元に戻ってくれ!
あと俺に出来るのは、神頼みぐらいしか……そうだ!
転生神(俺の勝手な想像)のお姉さん! お願いです、力を貸してください!!
あと、ついでだからオッサンも!!
お願いします! 泣き虫グベルにこれ以上悲しみの涙を流させたくないんです!!
手を合わせ必死に祈りを捧げる。
祈りを捧げる時間が永遠にも一瞬にも感じられる不思議な感覚のなか、俺の思い浮かべる転生神のお姉さんが微笑んだような気がした。
そうして、祈りを捧げているとグベルの声が聞こえる。
「エメ!!」
「お兄ちゃん!!」
目を開けると、一般的な10歳の少女の大きさのエメちゃんとグベルが抱き合って喜びの涙を流していた。
どうやら戻れたみたいだ……よかった。
もしかしたら、想像の中の転生神のお姉さんと……ついでにオッサンが力を貸してくれたのかもしれない……もう一度感謝の祈りを捧げよう。
願いを聞き届けていただき、ありがとうございます!!
すると「特別だからな」というオッサンの声が聞こえたような気がした。
「エメちゃん、よかったなぁ」
兄妹の感動的な場面にゼスもつられて泣いている。
俺は泣くとかより、安堵感の方が強い。
エメちゃんを探すのを請け負ってから、見つけられなかったらどうしようとずっと思っていた。
そして、人形の姿にされたエメちゃんを見た瞬間、正直終わったと思ったし、もう無理なんじゃないかって思ってしまった。
だからこそ、人間の姿に戻れてよかった。
助けられなかった絶望感に浸らずに済んだから。
……ここら辺が俺の小心者なところかもしれない。
本当に、助けてくれてありがとうございます。
……ただ、助けられなかった少女たちのことを思うと、申し訳なさがある。
あのとき、なにか方法があったんじゃないか……そればかりが何度も頭をよぎる。
だが、なにも思い浮かばない。
そんな今の俺に出来るのは、少女たちの冥福を祈ることぐらい。
……転生神様、そちらに向かうであろう少女たちのこと、どうかよろしくお願いします。
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