第49話 のんびりゆったり

「エメちゃんが元に戻って、気が楽になったな」

「そうですね、あっしもホッとしてますよ」

「それじゃあ、迷惑料としてここの屋敷の物品を回収するか。エメちゃんとグベルは当然のこととして、ゼスもここ数日仕事が出来ていないだろう?」

「確かに……それにもう所有者はいねぇでしょうし……」

「よし、グベルたちはもう少し2人にしてやるとして、俺たちで手分けして探そう……あと、犠牲になった少女たちの遺品らしきものがあったら一緒に集めておいてくれ。ああ、それから、魔力を帯びたヤバそうなやつは触らずに後で俺に教えてくれ」

「わかりやした」


 そうして、屋敷内を捜索した。

 昨日はグベルたちのことを考えたら、そういう気分になれなかったからね。

 だが、今は犠牲者たちのことを思えば完璧とは言い難いものの、エメちゃんは助けることが出来たぶん、多少は気分が上向いている。

 そんな感じであちらこちらの物品を次々にマジックバッグに放り込んでいく。

 あんなクソ野郎どもの使ってたものなどいらないが、全て売り払えばいくらかの金額にはなるだろう。

 それがあれば、ゼスはまあいいとして、グベルは長期間家を空けるような依頼を無理して受けなくても済むようになるだろうから、安心だろう。

 そして、屋敷内の金銭的価値のあるものはだいたい回収し終わった。

 探索している途中、当たり前のように吸命の首飾りも発見したが、あれを見た瞬間、腹内アレス君が猛烈に怒りを露わにした……まだ腹を立てたままなのね……

 これは当然消滅させた。

 ソレバ村に行商をしていたマヌケ野郎から押収したやつで十分だろうから、もう王国に提出する必要もないだろうし。


「こっちはだいたい回収したが、そっちはどうだ?」

「へい、あっしも終わりやした」

「少女たちの遺品らしきものはあったか?」

「いえ、ありやせんでした」

「そうか……俺も見つけられなかった」

「残酷な奴等のことだ、なにも感じずにあっさりと処分しちまったんでしょうね」

「そうだな……」


 念のため、魔力探知も使ってみたが、少女たちの残留魔力らしきものも感じられなかった。

 おそらくなにも残っていないのだろうな。

 なにも見つけてやれず、すまない……

 あとはもう、彼女たちの安らかな眠りを祈ることしか出来ないな……


「アレスさん、ゼスさん、気を使わせてすいません、もう大丈夫です」

「おう、気にすんな」

「そうだぞ。ああ、それでゼス、集めたものだが処分を任せてもいいか? 売り先に心当たりとかがないもんでな」

「へい、いろいろ知り合いもいるんで、任せてくだせぇ」

「頼んだ」


 そうして、俺が回収した物品もゼスに預けた。

 ゼスも仕事で荷物を運んだりしている関係上結構大きめのマジックバッグを持ってるみたいでね、全部スッポリ行った、やるね。


「それから、今回のことなんだが……個人的な人攫いからエメちゃんを奪還したということにしておきたいのだがどうだろう?」

「……魔族ですね?」

「ああ」

「わかりやした、あっしら平民にはわからない難しいことがあるんでしょう……この件は旦那にお任せします。グベルとエメちゃんもそれでいいよな?」

「はい、俺はエメを取り戻せたんだ、それ以上を望みません」

「私も」

「いろいろ思うところもあるだろうが、理解してくれてありがとう」


 これで、この屋敷でやることが終了したので外に出た。

 最後、光属性と火属性の混合魔法で屋敷を跡形もなく焼き払った。

 浄化の炎が怒りも悲しみも全てを燃やし尽くしてくれるように……


「さて、帰るか」

「へい」

「はい!」

「うんっ!」


 まずは最寄りの村まで森歩きを数時間。

 森を歩き慣れておらず、体力的にも厳しかろうとのことで、グベルがエメちゃんをおんぶして森を歩いていた。

 ふと、前世では俺も妹をおんぶして歩いたことがあったなぁとか思い出し、懐かしい気分に浸っていた。

 この兄妹の幸せはなんとか壊さずに済んでよかったなと改めて思うとともに、前世の妹には俺の死を突然ぶつけてしまったことを申し訳なく感じた。

 ……妹よ、お前を悲しませた愚かな兄を許してくれ……兄は遠く離れた異世界からお前の幸せを願っているよ。


「村に着きやしたね、休憩がてら昼飯でも食べてから次の村へ移動しやしょう」

「そうだな」

「エメはなにか食べたいものあるか?」

「ん~と、スパゲッティ!」

「よっしゃ、あっしが美味い店に連れてってやるよ!」

「やったぁ!」


 ほう、ゼス一押しの店か、楽しみだな……と腹内アレス君がおっしゃっています。

 いや、俺も楽しみなんだけどね。

 行きのときは、のんびり観光とかしている余裕がなかったからね、帰りはそれらも楽しみながら行こう。

 ああそうだ、エリナ先生へのお土産にいい茶葉があったらまた買って帰ろう。


「美味しかったぁ~」

「よかったな、エメ」

「うんっ!」


 この兄妹のほんわかした会話に、店を紹介したゼスも満足気。

 いやぁ、今回も美味かった。

 俺は梅しそスパゲッティを選んだが、絶品だったね。

 程よく効いた梅の酸味が食欲をこの上なく刺激してくれた。

 これには腹内アレス君もニッコリだったから、何度もお代わりしちゃったね。

 俺の食べる量にまだあまり慣れていないエメちゃんは若干言葉を失っていたが……まあそれはそれ。


「それじゃあ、あっしは馬車の準備をして来るんで、みんなはそれまで市場かなんかを見て回っててくだせぇ」

「わかった、それじゃあしばらくしたら馬車乗り場に集合しよう」

「飴でも買おうか、エメ?」

「ありがとう、お兄ちゃん!」


 そうして各自、自由行動を楽しんだ。

 俺はもちろん茶葉だ、当然だな。

 そんなわけで、香りのいい紅茶をお姉さんに選んでもらって購入。

 そして、今回もクッキーをおまけしてもらった。

 とってもステキなお姉さんだったなぁ、よし、また来よう。

 それでクッキーだけど、紅茶の茶葉を練り込んだクッキーで美味しそう。

 あとでみんなで分けて食べよう、特にエメちゃんは喜んでくれそうだよね。

 そんな感じで時間を過ごし、集合場所へ。


「みんな揃いやしたね、それじゃあ出発しやしょう」


 ここからは長い馬車の旅。

 もちろん魔力操作の時間でもある。

 エメちゃんも興味を示したので、教えてみることに。

 地味にエメちゃん、魔力量がまあまあ多い。

 もとからなのか、前世の漫画脳的には肉体を失ってからの復活で魔臓が大幅に強化されたみたいなことを想像してしまいたくなるが、果たして……

 そして、魔力操作の基本を教えた後は、今回みたいなことがまたあるといけないので、魔纏を重点的に教えた。

 まぁ、実力上位者には破られるかもしれないが、少しでも身の安全に役立ってくれればと思う。

 それに、地道に努力を重ねれば、魔纏ももっと強化されることだろうし。

 そうだ! そのうち、リッド君を紹介してあげようかな?

 高めあう仲間でありライバルがいると伸びも違うだろうし。

 いい感じに成長したら、3年後学園に推薦してあげてもいいよね。

 こうして、学園都市までの馬車の旅をのんびりゆったりと楽しんだ。

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