第47話 本当にしょうもないな

 人形師を永遠に黙らせた後、偉そうな物言いの男……魔族が現れた。


「ここで魔族……じゃなかったマヌケ族の登場か、そう言えばお前、人間に擬態してなくていいのか?」

「我が屋敷でなぜそんなことを……さては貴様、我らの仲間と接触したことがあるな?」

「ん? 接触どころか一匹始末したぞ?」

「貴様ぁ!」

「そう言えばあのマヌケもすぐ沸騰してたな、君らおマヌケ君たちは自制心ってものが足りないんじゃないかな?」 

「…………」

「まぁそれはいいや、お前があのクズ人形師をけしかけたな?」

「けしかけただと? それは心外だ。我は芸術を愛する者。そして奴は劣等種族ながらに素晴らしい人形師だった……奴の求める芸術に深く共感した我は、その手助けをしたに過ぎん。ああ、ようやく奴の芸術が完成するところだったというのに、それを……」

「あんなものが芸術だと? 本当にしょうもないな」

「ふっ、貴様のような劣等種族にはわからんだろうな、我らが求めた崇高な美と言うものを! その少女を見るがいい! 人間族の劣った肉体を捨て、新しく生まれ変わった姿を! 魔臓の封珠の働きによりボディは常に自己修復され最高の状態を保ってくれる! だから歳も取らない! たかだが100年程度しか生きられない劣等種族が、永遠とも言える究極の美を手に入れたのだぞ!?」

「永遠だと? じゃあ、あの少女たちの爆発はどう説明するつもりだ?」

「ああ、あの失敗作たちか……どうにもあと一歩が足りなくてな、そのまま廃棄にしてもよかったのだが……最期にひと華咲かせてやろうと一定の条件で自爆する刻印魔法を刻んでやったのだ。ふふふ、あの失敗作たちにも輝ける瞬間を用意してやったのだ、逆に感謝してもらいたいぐらいだな」

「……ダメだ、話が通じない……まぁ、最初から期待していなかったが……もういいな、お前も始末するよ」

「…………少し魔力が多い程度で調子に乗るとは……やはり劣等種族!」

「今頃俺の魔力を測って出た言葉がそれか……痩せ我慢は程々にしておいた方がいいな、お前の魔力は動揺を隠せていないぞ?」

「ほざけ!」


 そう言って両手から無数の糸を繰り出すマヌケ。

 俺を拘束するつもりかね? それともサイコロ状に切り刻むつもりかな?

 まぁ、変に規模のデカい魔法を撃ってくるよりはマシかな?

 後片付けが面倒だからね……

 そんなことを思いながら聖剣モードのミキオ君を一振り。

 それだけで糸が残骸も残さず消滅。

 ……聖剣モードと名付けてみたものの、この塵ひとつ残さず消し去る無慈悲さに若干引きそうになる。


「しっかし、糸を武器にするのって、俺もヴィジュアル的にカッコいいと思うけどさ……お前程度じゃ全然だわ、なってない……今のうちに他の糸使いのみなさんに謝っといた方がいいんじゃないか?」

「くっ!」

「本数を増やしたところでダメダメ」

「それなら!」


 標的をゼスとグベルに移したみたいだが……

 あの無駄なおしゃべりの間、人質にされたら困ると思って念入りに魔力を練り込んだ魔纏を2人に纏わせておいた。

 もちろん、妹にも纏わせてあるので、こちらも心配いらない。


「それぐらい予想するよ……っていうかお前、戦闘タイプじゃないな? 弱すぎるし……ああそうか、だから芸術がどうのこうのと言って弱いのを誤魔化してたのか……そして、こんな森の中にヘタクソな認識阻害の魔法を張って……やべぇ、哀れに思えてきたわ」

「ぐっ、うぅ」

「おいおい、ここで泣き出しちゃうってマジかよ……さっきまでの威勢はどうしたんだよ……あれも弱い自分を隠すための虚勢だったのか?」


 そう言いながら、一歩一歩近づいていく。

 まぁ、哀れに思いはしても始末することには変わらん。


「く、くるなぁ!」

「お前みたいなザコは森の中で大人しく土でも捏ねてりゃよかったんだよ、誰にも迷惑をかけずにな!」


 そうして周りをキョロキョロしだすザコマヌケ。


「ヤバけりゃ逃げるって判断もアリだと思うけどさ、そんな見え見えじゃあね……」


 ザコマヌケが逃走を図ろうとする方向に氷の壁を生成。


「逃げ道が塞がれちゃったね?」

「ひぃっ!」


 さて、あと一振りでザコマヌケはこの世界と永遠にお別れという距離まで近づいた。


「最期だ、少女たちへ一言ぐらい詫びてもいいんじゃないか?」

「あ……あぁ…………あ」


 そうして頭を下げるような仕草をしたかと思えば……


「油断したなぁ! このナイフは……」

「してないよ?」


 なにやら特殊効果のあるっぽいナイフを突き立てようとしてくるザコマヌケだが、腕ごとナイフを聖剣モードのミキオ君で消し飛ばしてあげた。

 うん、自慢の逸品だったんだろうけど、大したことなさそうだね。


「ひぎぃっ! 腕がぁ! ボクの腕がなくなっちゃったよぉ!! ひぃぃッ!!」

「あ、そっちは……」


 腕を失い、冷静さを失ったザコマヌケは急に走り出し……先ほど俺が生成した氷の壁に顔面から激突。

 うわぁ、痛そう。


「い、いだいぃ……なんで! なんでごんなごどにぃ!!」

「なんでって、お前がアレス・ソエラルタウトを敵に回したからだろうね」

「ア、アレズ・ゾエラルダウドォ! お、おまえがぁ!? やづはまりょぐだげだっでぎいだのにぃ! ぴぃっ! や、やめで! ごないで! ゆるじでぇ!!」

「そう言えば、お前ら俺のこと知ってるんだっけ? なら顔も覚えておくべきだったね?」

「だ、だいげいがぢがいずぎるうぅ~!!」

「へぇ、他人から見ても俺のダイエットってだいぶ成果が出てきてたんだねぇ」

「お、おねがいぃ! ゆるじで! もうじないがらぁ! ごろざないでぇ!!」

「俺は悪役だからさ、そういう慈悲は持たないことにしてるんだ……だからここでさよならだ」


 そう言って、浄化の光の塊と化したミキオ君を振り下ろす。

 あの人形師同様、肉片の一片たりともこの世界に残すつもりはない。


「ぞんなぁ……」


 その一言を残してザコマヌケはこの世界から完全に姿を消した。

 2度目の魔族との戦闘……負けるとは一切思わなかったが、多少てこずるかもしれないとは思っていた。

 ……だが拍子抜けだった。

 まぁ、アレス君の体という魔力チートがあったから余裕だっただけで、人間族でも上位層でなければマズかったかもしれない。

 ……ってなんでこんなクズの擁護してるんだ、そんな必要なかったわ。

 さて、一応魔力探知で屋敷の周辺を確認、他にもいたら始末しないといけないからね。

 ……うん、それらしいのはいないみたい。

 そして、まだ放心状態のグベルとそれを沈痛な面持ちで倒れ込まないように支えるゼス……

 戦闘が一段落したので、2人のもとに歩み寄る。


「旦那、終わったんですね?」

「ああ」

「……」


 しばしの沈黙が辺りを包む。

 そのとき、小さな衣擦れの音が響き渡る。

 そちらに目を向けると、人形と化した少女が目を覚ました。


「…………ココハ………………グベル……オニイチャン?」

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