第46話 やるせない

「そんな……」

「エメちゃん……」


 膝から崩れ落ち、涙を流すグベル……

 顔を顰め、ただ名前を呟くのみのゼス……

 俺も覚悟だけはしていたつもりだが……頭が上手く働かない、ただ目の前の光景をぼんやりと眺めているだけ……


「ほほう、僕の人形の素晴らしさを目の当たりにして、言葉を失っているんだねぇ! そうだろう、そうだろう。そこの君なんかは感動のあまり流れ出す涙が止まらないのだろう!? よくわかっているじゃないかぁ!! よし、そんな芸術を解する君たちには特別だ、僕が直々に作品解説をしてあげよう! ああ、でもそうだな、せっかくここまで来てくれたんだ、もっとサービスしてあげてもいいなぁ……よし、このステキな少女人形たちの制作秘話なんかを語っちゃおうかな!? どうだい? 聞きたいだろう? でもちょっと恥ずかしいなぁ……君たちにもわかるだろう? この純粋で無垢な気持ちをさらけ出すときの気恥ずかしさってやつをさぁ! おっと、心配しなくていいよぉ、君たちには特別に話してあげちゃう! ふふふ、焦らされただろう? 僕にだって一流のエンターテイナーとしての自負があるからねぇ、聴衆を飽きさせない工夫っていうのは心得ているつもりさ! よぉし、場が温まってきたところで話してあげよう……おっと自己紹介がまだだったねぇ、僕の名前はローネストン、人形師さ。まぁ、名前なんかどうでもよかったねぇ……それでね、人形! 僕はさ、最高の人形を作りたいって夢を持ってたんだ。そうして来る日も来る日も人形制作に打ち込んでねぇ……ああ、懐かしいなぁ、夢に向かって努力の日々……まぁ、僕は天才だったからねぇ、人形制作の技術はグングン伸びてった……だけどねぇ、何かが足りなかったんだ……出来上がった瞬間だけ最高の人形が出来たって思えたんだけどねぇ……何かを掴みかけている感覚はあったんだけど、その何かがどうしても掴めなかった。そんなあるとき気付いたんだ! 中身がないんだって、生命の輝きがないんだって! そこからまた試行錯誤の日々さ。ときには魔法士が扱うゴーレムや錬金術師が生み出すホムンクルスなんかも参考にしたんだけどねぇ、なんかフィーリングが合わない……ゴーレムはただ命令通り動くだけの無骨さ、ホムンクルスはなんか生々し過ぎる……そうじゃないんだぁ、僕はねぇ、生命の煌めきを持った人形を作りたかったんだ! いやぁ、あの葛藤の日々は辛かったぁ……目指すところは見えているのに、どうやって辿り着けばいいのかぁ……わからない、君たちにその苦悩がわかるかいぃ? わっかんないだろうなぁ……半端じゃないよぉ? ホントに辛かったんだからぁ!! そんな悩める日々を過ごしていたあるとき! 1人の男との出会いによって! 道は開けた!! きっと僕の本気が神様に通じたんだって思ったね! そんな導きだったのさ!! おっと、あまりに劇的な出会いだったからねぇ、ついつい興奮してしまったよ。それでねぇ、その彼が僕に凄い技術を授けてくれたんだ! えぇっと確か『魔臓の封珠』とかって言ったかなぁ、いや、名前は別にどうでもよかったねぇ。それでこれが凄いんだぁ! なんとこの珠! 人間の魔臓を取り込むことが出来るんだよ! どぉうだい、驚いただろう? 僕もねぇ、初めて聞いたときはビックリしたもんさぁ! そうしてこの珠を人形の胴体に埋め込むとねぇ、植物が根を張るように全身に魔力経が伸びてぇ、空気中の魔素を取り込んでぇ、動力源とすることでぇ、ひとりでに動き出すんだ! 凄ぉいと思わないかい? しかもなんとぉ! しゃべりだすんだ!! 君たちもさっき、おしゃべりを楽しんだだろう? 人形としゃべれるなんてステキな経験が出来たねぇ、よかったね!! そぉうして僕は、その辺にいた浮浪児たちを人形に生まれ変わらせてあげてたんだよぉ。いやぁ、いいことしたなぁ。ただねぇ、もう少し、あと少しが足りない……でも理想の極致までもうすぐそこっていう手応えはあった! そんなことを思いながらねぇ、そのあと少しを探しながら街を歩いていたら見つけたんだよ、この子を! この子を一目見たとき確信したね! 究極の少女の誕生を!! そしてやっと……アハハ! 長かった! 本当に長かった!! それで今はねぇ、珠が人形に定着するのを待っているところなんだけどぉ……目を覚ますまでは! もう少しかかるかなぁ? 楽しみだよねぇ? 君たちも一緒に祝福してあげようじゃないか! これは一生の思い出になるよぉ!」


 しばし呆然としていた……

 その間、わけのわからんことをご機嫌でひたすらぺちゃくちゃとしゃべり続ける男。

 おそらくこいつが言っていることを脳が理解することを拒否しているのだろう、全然頭に入ってこない。

 聞くに堪えない。

 そう思ったときには体が自然と動いていた。


「おや、君も究極の少女が目覚める瞬間を間近で見たくなっちゃったんだねぇ?」

「もう黙れ」


 そう言って、光属性の魔力をふんだんに注ぎ込んだトレントの木刀を男に一閃。

 このような存在はこの世に残しておくべきではないだろう。

 木刀から溢れ出る極大の浄化の光でいっさいの痕跡を残すことなく消滅させた。

 こんなことをしたところで、犠牲となった子供たちが帰ってくるわけではないが……

 やるせない。


「侵入者の反応を感知して戻ってきてみれば……貴様、我が屋敷で何をしている? その人形師は劣等種族にしては見所があったから特別に目をかけていたというのに……返答次第では許さんぞ?」

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