第45話 可憐な華
朝が来た。
順調に進めば、今日で妹と周りの子供の救出が出来るはず。
確認のため、もう一度魔力探知をかけてみるが、特に変化なし。
さて、準備を整えて、移動開始だ。
「おはようございやす、旦那」
「アレスさん、おはようございます」
「ああ、おはよう。馬車はもう出れるな?」
「へい! 目的地の最寄りの村には、おそらく昼過ぎには着くでしょう」
「よし」
こうして馬車に乗り込む。
少しずつ近づいているのだと思うと、自然と気持ちが昂ってくるが、それを瞑想的魔力操作で落ち着ける。
隣のグベルも同じ……いや、俺以上に気持ちを抑えるのに苦労していることだろう。
「旦那、グベル、村に着きましたぜ、馬車で行くのはここまでです」
「そうか、村の西側に広がる森の中を数時間歩けば、妹が囚われていると思われる建物がある」
「急がねぇと、夜になっちまいますね」
「こうしちゃいられない! 早く行きましょう!!」
「いや、ちょっと待ってくれ。今のところ、見張りらしき大人の人間が1人いるだけだが、どこかに行っていた仲間が戻ってくるかもしれん。そう考えると、俺としては護りながら戦うというのはあまり経験がないのでな、2人はこの村に残った方がいいような気もするのだが……」
「なに言ってるんですか、俺も一緒に行きます!」
「そうですぜ、ここまで来たんだ、あっしも行きやす!」
「……そうか、お前たちのことも護るつもりではあるが……十分気を付けろよ」
「へい!」
「もちろんです!」
そして、ゼスが馬車を預けている間、装備の最終点検を行い、いざ森へ。
「しっかし、森の中とは言え、誰も盗賊の存在に気付かなかったんですかねぇ?」
「確かに妙だな」
魔力探知の反応に従いながら、森の中を歩くこと数時間、ようやく目的地に着いた。
「旦那、急に立ち止まってどうしたんです? そっちは崖ですぜ?」
「ああ、なるほどな、認識阻害の魔法……まぁ結界みたいのが張られているな」
「へ? 認識阻害?」
「ああ、俺の魔力探知は誤魔化せなかったみたいだがな……しかし、こうなると奴等の仲間に魔法士がいるってことだな、今いる奴は単なるザコだが……」
「魔法士……」
「そんなの関係ありませんよ! ここまで来たからには引き返せません!!」
「いや、その心配は無用だ。別にこの程度の魔法が使えるぐらいじゃ大した脅威でもない……ただ、今いないとすると、あとで探すのが面倒だなと思っただけだ」
「そ、そうですか……」
「まぁいい、崖に見えても気にせずついてこい」
「旦那がそう言うなら……」
「わかりました……」
そうして、認識阻害の魔法を抜けた先には一軒の屋敷があった。
「これは、雰囲気ありますね……」
「昔、どっかの富豪が建てた別荘で、何らかの理由で持ち主がいなくなったところを、盗賊どもがアジトにしたってところですかね?」
「……まぁ、そんなところなんだろうな……とりあえず、入ってみるか」
「ゴーストなんかが出てこねぇといいけど……」
「や、やめてくだいよ、ゼスさん!」
「なんだお前ら、そう言うの苦手か?」
「ま、まぁ……」
「教会の方以外で、得意な方がいるんでしょうかね……」
「光属性魔法を使えば一発だろうから、帰ったら練習しとくといいぞ……とまぁ、おしゃべりはこの辺にして、そろそろ気合を入れて行くとするかね」
「はい!」
「よっしゃぁ!」
そして屋敷の中に入るが……外がもう夕暮れどきというのもあってか、暗い。
仕方ない……光属性の魔力を込めてっと。
「ミキオ君、聖剣モードだ」
「うぉっ、まぶしっ!」
「アレスさん……ひと声かけて欲しかったです」
「ああ、すまんすまん……だが、もうちょっと周囲を照らしたいな、ライトボール」
ミキオ君を向けた方向だけ明るいのも微妙だったため、ライトボールを天井近くに展開し、蛍光灯みたいな役割を担わせた。
「よし、行こうか」
「ランタン、いらなかったですね……」
「ま、まぁ、手がふさがらないからいいってことよ」
そうして魔力探知を発動しながら歩いていると、小さな魔力の持ち主が近づいてくるのを探知した。
あらかじめ知ってはいたことだが……かなり自由度が高いんだな。
「……オニィチャンタチ……アソビマショウ……」
「ヒッ!」
「な、なんなんですかい! この人形は……!!」
「これは……」
この人形、人間と同じ魔臓を持っているんだが……
やべぇ、意味がわかんねぇ……
「……ネェ……アソンデクレナイノ?」
「な、な……」
「ナイフなんか持って遊んでくれだなんて……穏やかじゃねぇな」
「……」
「……モウイイ……バイバイ」
そう言って、ナイフを握りしめながら突っ込んでくる人形……
「この!」
斧を構えて迎撃態勢をとるゼス。
「よせ! そいつは、人間だ!!」
「へっ!?」
ゼスにナイフを突き立てる人形。
しかし、屋敷に入る前から既に魔纏を纏わせておいたので、ダメージはない。
「旦那、人間って……」
「そいつに人間と同じ魔臓がある……」
「なっ!?」
「……ナンデ……ダメ……ダメナノォ!!」
人形の魔臓に急激に魔力が凝縮、そして爆発。
この程度の爆発では俺が展開する魔纏はびくともしないが……
「……旦那、今のは……」
「わからん……」
マジでわかんねぇ……ゲームにこんな奴いなかったぞ?
そもそもこの人形はモンスターと呼んでいいのか?
でも、明らかに人間の魔臓だったし……
っていうか、あの動き回っていた小さな魔力……全部この人形なのか?
やべぇ、戦いたくねぇ……かと言ってこっちがなにもしなくても自爆されて終わりだろうし……
どうしよう……まだあの反応結構あるぞ……
それに、妹の反応がある最奥につながる通路に全部いるし……
……ちょっと待て、妹は本当に大丈夫なのか?
このままグベルを連れて行かない方がいいんじゃないか……
そう思い、声をかけようとしたら……
「アレスさん……連れて行ってください」
「グベル……」
グベルの覚悟を決めた顔を見て、俺はなにも言えなくなった。
そのため、かろうじて頷きを返すのが精一杯だった。
「じゃあ、行こうか」
「はい」
「わかりやした」
そして、進む度に出くわす人形たち……
俺もなんとか戦わずに、自爆させずにどうにか出来ないものかと思ったが無理だった。
外部から物質的もしくは魔力的圧力が加わるとすぐ自爆してしまう。
いったい、どんな神経をしていたら、こんな人形を作れると言うんだ。
そうしてようやく、最奥の扉の前に着いた。
「この先に妹がいる」
「大丈夫です……」
「無理するんじゃねぇよ、グベル!」
「いえ、無理なんかしていませんよ……」
「グベル……」
正直、この扉を開けたくないが……俺も覚悟を決めよう。
「じゃあ、開けるぞ」
「はい」
「どうぞ」
大したことない扉が、妙に重たく感じた。
その先にいたのは、1人の男と1人の少女……人形。
「やぁ、君たち! 僕の作った人形たちのお出迎えはどうだったかい? 可憐な華がパッと咲いただろう!!」
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