第44話 向こう側
すっきりとした目覚め、今日移動開始だ。
その前に、もう一度魔力探知で様子をうかがうことにした。
北北西というだいたいの位置は掴めたので、今回は妹の反応だけではなく、その周りの様子も探ってみたいと思う。
……妹に特に変わった様子はない。
だが、妹と同じぐらいの強さの魔力が点々としていることから察するに、どうやら似たように連れ去られた子供が結構いるみたいだ。
しかし不思議なのは、建物らしき空間内は自由に移動することが許されているのか、動き回る魔力がいくつもある。
そして、おそらく盗賊であろう一般的な平民の大人ぐらいの魔力が1つしかない。
たぶんコイツが見張りなんだろうけど、わりとゆるいのだろうか……それとも絶対に逃げられないという自信でもあるのか……
まぁ、魔力の反応だけではここまでかな。
あとは現地についてみないことにはよくわからん。
よし、じゃあ荷物の最終確認をしとこうかね。
……よく考えたら、あの子供たち全員を助け出すことを考えたら、当然のように食料がいるし、怪我をしていた場合のポーションとかいろいろいるな……そういったことにも余裕を持って対応できるように必要そうなものはたくさん持って行こう。
大丈夫、俺にはマジックバッグという強い味方がいる、こいつがすべてを解決してくれるさ。
そんな感じで準備を整え終わり、馬車乗り場へ向かう。
「おはよう、ゼスにグベル」
「おはようございます、アレスさん」
「旦那も早いですね、まだ予定の時刻にはなってませんぜ」
「まぁ、グベルのことを思えば、あんまりのんびりもしてられんからな」
「そうですね」
「ところでゼス、馬にもポーションって使えたよな?」
「使えますが……ポーションってまさか!?」
「ああ、少しでも早く到着した方がいいと思ってな、一応車体の方も俺が風属性魔法で浮かせるつもりだから、たぶん馬への負担もある程度減らせると思う。だから、2日分を今日1日で移動してしまうってことは出来ないか?」
「……そうですね……休憩のたんびにポーションがいりやすが、なんとかやってみやしょう」
「ポーションに関しては大量に持ってきているから心配いらん……お前にも無理をさせてしまうが、今回は許してくれ」
そう言って馬を撫でると「任せろ!」という頼もしい顔をしてくれたような気がする、あくまでも俺の主観ではあるが。
「アレスさん……ありがとうございます」
「また涙目になってお前は……これからは泣き虫グベルと呼ぶぞ?」
「そ、それは勘弁してください」
「じゃあもっと、キリっとした顔をしとけ。妹にアニキのステキなところを見せてやらんといかんのだからな!」
「はい!」
「おうグベル、男前な顔になったじゃねぇか!」
「うむ、今日からはその顔で行け。そうすれば『お兄ちゃんカッコイイ』って言ってもらえるぞ、たぶん」
「ハハッ、そうですね!」
「よっしゃ、いい感じで気合も入ったところで、2人とも準備はいいですね? そろそろ出発しやしょう!」
「そうだな」
「お2人とも、お願いします!」
こうして程よい緊張感を保ちつつも、肩に入っていた余計な力を抜くことが出来たところで、いざ出発。
「ゼスはまぁ、御者に集中しなくちゃならんだろうからいいとしてグベル、早速魔力操作をやるぞ! どうせ今日はほとんど1日中馬車の中で座ってるだけだ、その時間を有効活用しないとな!!」
「旦那の魔力操作は一味違うからな、覚悟しとけよ~グベル!」
「は、はい!」
「おいおい、変におどかすようなことを言うんじゃない」
出発後の馬車内では、アレス講師による「ゴブリンごときでもわかっちゃうかもしれない魔力操作講座」が開講された。
いやぁ、なんて言うかね、リッド君やゼスに教えた経験が役に立っているのか、結構なめらかに説明出来たんじゃないかと思う。
とは言え、魔力操作はいかに自分自身で努力を積むことが出来るかが勝負だ。
正直、どんだけ上手な説明を何百何千時間聞いたとしても、自分で実践しないことには大した意味がないだろう。
なので、俺なりに余計な言葉を極力削ぎ落としたエッセンスを凝縮して伝えたつもりだ。
あとはグベルの頑張り次第、さあレッツ魔力操作!!
こうして、最初の休憩ポイントまでひたすら魔力操作に打ち込んだ。
「旦那はいつものこととして……グベルも頑張ったみてぇだな!」
「は、はひぃ」
「うむ、グベルもなかなかガッツがあっていいね! さて、馬にポーションをあげるとしよう」
「馬車内で旦那と2人きりじゃあサボれねぇよな……」
「そ、そうですね……」
「ゼス、宿に着いたら、お前も一緒に頑張ろうな!!」
「ははは……ガンバリマス」
そして、休憩時間が短くて申し訳ないが、ポーションを飲んだことで体力を回復した馬に早速頑張ってもらった。
さて、本日2コマ目はアレス講師による「たのしいまりょくそうさ」です。
それでは、張り切って行きましょう!
1コマ目でグベルには一通りの説明を施したからね、ここからは自分と魔力、一対一の語り合いだ。
そこで他人がごちゃごちゃ言っても邪魔にしかならない。
だからこの時間俺は、背中で語るだけさ。
ちなみにだけど、今回はモンスターにちょろつかれても相手をしている暇がないので、魔力に威圧を込めて放っている。
まぁ、街道沿いに出てくるようなザコモンスターにそこまでする必要があるのかは若干微妙ではあるが、念のため。
あと、盗賊なんかもこの辺はまだ学園都市に近いため王国がきっちり潰しているのか、今のところ出てきていない。
そうして何度か休憩を挟みつつ、本来なら1日分の距離に相当する地点に着いた。
「旦那、方角はまだ北北西ですかい?」
「ふむ……いや、だいぶ北西寄りになってきたかな」
「じゃあ、次の休憩ポイントで少し西寄りの道を進みやす。その道を進んだ先に村があるんで、そこで今日は泊りやしょう」
「わかった」
「グベルもそれで……ってなんだぁ、その達成感に満ち溢れた顔は!?」
「ゼスさん! 俺、世界の向こう側を見てきちゃいましたっ!!」
「えぇ!? 旦那ぁ、こんなこと言ってますけど……大丈夫なんですかい?」
「ふふっ、魔力操作を真剣にやり始めた奴はな、最初のうちはたまにこうなるんだ。でもすぐ戻ってくるから安心しろ」
「安心していいのかなぁ……」
「それにしても思い出すなぁ、リッド君も最初はもうちょっとマイルドだった気はするけど、似たようなことを言ってたもんなぁ。たぶんだけど、魔力が体内を循環するとき、脳に魔力が通り慣れてないと、たまにどっかのスイッチを押しちゃうんじゃないかな」
「スイッチ……押したくないなぁ……」
「あれ? えっと、俺は……確か、なんか凄いものを見たと思うんだけどな……ナンダッケ……」
「お帰り」
「た、ただいま?」
「ほんとだ、戻ってきた……」
「さて、まだあと1日分の距離があるからな、まだまだ頑張れるな!!」
「……グベル、あまり変なところに行くんじゃねぇぞ」
「え? ええ」
その後、2日分を1日で進むという無茶をしたことで夜にはなってしまったが、なんとか村に到着できた。
今日1日よく頑張ってくれた馬に、惜しみないねぎらいの言葉をかけつつポーションを飲ませてあげた。
本当にありがとうな!
そしてここまで距離を稼いだので、妹が囚われているだろう建物までいくらか距離はあるが、明日には辿り着けるはずだ。
それと、寝る前に改めて魔力探知をしてみたが、特に変わった様子はない。
……しかし妹は大人しい子なのかな? あんまり移動している様子がないな。
それとも、言うことを聞かないからって拘束でもされてるのかね?
いずれにしても明日だ、必ず助けに行く……それまで辛抱しててくれ。
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