第840話 味が濃いめになりがち
「……さて、そろそろ夕食を食べに行くとしようか」
「ええ、そうしましょう」
「う~ん、思いのほか話に夢中だったみたいで、メシのことを忘れてたみたいだ」
「まあ、それだけ楽しく会話ができたということだな」
「はい、アレス殿のおっしゃるとおりでしょう」
「こんな感じで学園都市に戻るまでのあいだ、たくさん面白い話をしていきまっしょい! まっ、これから先はワイズをイジる話題が多くなりそうっすけどね!?」
「うむ、それに対抗してというのもなんだが……ワイズも存分に惚気てくれていいからな?」
「な、何をおっしゃいますやら……」
「そうそう! 普段なら『ウゼェ!』ってビンタしたくなるところだろうけど、今回は特別に思いっきり全力でラブラブ自慢をするといい! 何時間だって俺たちは微笑ましく聞いてやる! そんでもって魔力交流なんかも同時におこなうと、ワイズのテンションの上がり具合が感じ取れてより面白いだろうな!!」
「うむうむ、それは実にいい! きっと、そのときは光属性の魔力をこの上なく滑らかに扱えるだろう!!」
「ふ、2人とも……既にイジりモード全開のご様子……はぁ……困ったものですね……」
「いやいや、勝負のときは近いんだから、今からテンションを上げてかなきゃだろ?」
「まあ、テンションが上がり過ぎて冷静さを失うのも問題だが……それでも、テンションは低いより高いほうがいいだろうな」
「テンションは高いほうがいい……確かに、おっしゃるとおりではあるでしょうね……」
「とにかく! 基本ワイズは自分を抑えがちなんだから、どんどんアゲてけって! それはほかでもない、お前の大好きなミカルって子のためなんだからな!!」
「フッ……大丈夫だ、表面的には落ち着いているように振舞っているが、ワイズの心の中は燃え上がっている……体から発せられている魔力がそう語っているからな」
「……なるほど……アレス殿には魔力で読まれてしまうわけですね……」
「おおっ、そっかぁ~! う~ん、俺もそのうち魔力で心を読むってワザを身に付けたいもんだぜ!!」
「まあ、感じ方の問題で、完璧に読めるというわけでもないがな……それに上級者ともなると、魔力の表情を隠したり偽ったりすることもできるだろうし……だがまあ、それはそれとして魔力操作を熱心におこなっていれば、そのうち魔力がいろいろと語りかけてくれるようになるだろうからな、そのときを楽しみに練習を続けてくれればと思う」
「ここ数日アレス殿と一緒に行動していて、魔力操作の大事さをこの上なく実感させてもらったので、これからはより一層練習に励みたいと思います」
「ハハッ! どんな話題で話していても、結局最後はそこに着地しちゃうって感じっすねぇ」
「ああ、それはそうかもしれんなぁ」
といいつつ、だからこそ俺はみんなから「魔力操作狂い」と呼ばれているのだろう。
こうして宿屋の部屋でのんびり会話を楽しみながら過ごしたあと、夕食をいただきに食堂へ向かった。
まあ、腹内アレス君からも催促がきているからねぇ。
そんなこんなで食堂の席に着いた。
「ああ、そういえば……アレス殿はメイルダント領にいらっしゃったのは初めてでしたかな?」
「……ん? えぇと……そうだな、言われてみれば初めてだったかもしれん」
とっさに原作アレス君の記憶を探ってみたが、特にそれらしきものはなかった。
というか、わざわざそんなことをせずとも、腹内アレス君に聞いたほうが早かったよね……
ご飯を食べるときだけあって、今は起きてるわけだし……
そうして腹内アレス君に尋ねてみたところ……やはり初めてだったようだ。
「おっ、そっか! ということは……アレスコーチはメイルダント風の味付けも初めてって感じですかね?」
「……メイルダント風の味付け?」
「まあ、殊更強調するほどのことでもありませんが……メイルダント領はカイラスエント王国の中でも北側に位置することもあってか、味付けが中央に比べて濃いめなのですよ」
「そうそう! だから薄味に慣れてる人からすると、『この料理……味が濃過ぎだけど、調味料の分量間違えてねぇか?』ってなっちゃうんですよねぇ」
まあ、前世でも寒い地域は味が濃いめになりがちとかって聞いたような気もするしなぁ。
というか道民の俺からすると、正直あんまり頓着なかったんだけど……実際に関西から引っ越して来た転校生が「北海道は味付けが濃い」って言ってたから、たぶん本当にそうだったんだろうね。
でもまあ、そんな感じで濃い味付けと言われる料理に慣れてた俺からすると、メイルダント領の味付けはむしろウェルカムかもしれない。
いや、それ以前に原作アレス君はさ……味にこだわりがあまりなく、なんでも食べるってタイプだったからねぇ?
それで味に注目するようになってきたのだって、ダイエットが進んでからだったし……
そう考えるとさ、メイルダント領がどんな味付けだろうと、ぶっちゃけ余裕だと思うんだよね。
「ふむ……まあ、お前らも知ってのことと思うが、俺は好き嫌いなくなんでも食べるタイプの男だからな……多少味が濃かったとしても、なんら問題なく食べることができるだろうよ」
「そうですか……とにもかくにも、アレス殿のお口に合うことを願っております」
「まっ! 心配しなくても、普通に美味しいってなると思うけどな!!」
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