第841話 価格を抑えることができてるみたいだぞ?

 ワイズやケインと味付け談義に花を咲かせつつ、料理がくるのを待つ。

 一応この宿屋は、街中でも美味い料理を出してくれると評判のところらしいので楽しみである。

 それから、情報収集の一環として周囲の会話にも耳を傾けてみる。


「へへっ、今日のモンスター狩りは上出来だったなぁ?」

「おうよ! 上手い具合にオークを狩れたのは運がよかったってもんだぜ!!」

「それもこれも、このオレ様がキッチリとオークの気配を察知して後ろを取れたおかげだろう? となれば、だ……今夜はオレ様に感謝しながら飲み食いしてもバチは当たらんと思うがなぁ?」

「まあ、お前さんの働きによって先手を取れたのは間違いでもないだろうよ……」

「そうだろう? ふっふっふ……」

「さすが! パーティー1のビビり君だけはあるねぇ?」

「……なッ、なんだと!? オレ様はビビりなんかじゃないッ!!」

「そうやって声を荒げていると……逆に肯定しているようにしか聞こえんぞい?」

「……ッ!! チッ……オレ様の芸術と言っても過言ではない気配察知能力の凄さを理解できん奴らめ……」

「へっ! 芸術だかなんだか知らんが……実際にオークの野郎をブッた斬ったのは俺だぜ? なら、一番の功労者は俺ってこった、その辺のところをよぉ~く理解してもらいたいもんだねぇ?」

「いやいや、儂だって弓矢でオークの肩を撃ち抜き、腕に力が入らんようにしてやったのだぞ? それがなければ、お前さんのなまくら剣術など返り討ちにあっていたに違いあるまいよ……」

「……んだとぉ!? なまくら剣術とは言ってくれるじゃねぇか!!」

「ほっほ、文句があるなら……ここで白黒つけるとするかの?」

「っしゃあ、決まりだ! あとで泣きながら詫びを入れてきても遅ぇかんな!!」

「あっ! お前ら……!!」

「あ~あ……また始まっちゃったかぁ……」

「今日の主役はオレ様のはずだったのに……なぜ……」


 おやおや、冒険者のオッサンたちがイキり出しちゃったぞ?

 まったく……いくつになっても腕白ボウズ共だねぇ……

 でもまあ、これも冒険者の日常ってやつなのかもなぁ……


「おい、酒だ! 酒を持ってこい!!」

「何度も運ぶのも面倒だろう……樽で持ってきてくれんか?」

「はい、は~い! ただいまお持ちしま~す!!」

「くっそ……せっかくオークを狩っていい収入になったってのに……今回も飲み代で飛んでいくのか……」

「あははは、毎度のことさ……というわけで、僕らも飲むとしようじゃないか」

「ふん! オレ様が一番飲めるってことを、今日こそお前らに理解させてやる!!」


 どうやら「白黒つける」というのは、拳ではなく酒の飲み比べでおこなわれるらしい。

 まあ、冒険者のオッサンたちからさほど殺気は感じられなかったからね……そんなもんなんだろうなって感じだ。

 とはいえ、稼ぎがすぐ飲み代に消えてしまうとか……改めて、これも冒険者の日常ってやつなんだろうねぇ……

 そして、ほかのグループに耳を傾けてみると……


「そういえば……この夏は不作で悩まされた領地がまあまああったみたいだなぁ?」

「ああ、確か中央のほうとかが特に大変だったとか聞いたような気がする……」

「でもまあ、最終的に作物の供給自体はどうにかなったって話じゃなかったか?」

「そうらしいな……ただ、野菜とかは優先的に育てたからよかったみたいだが……そのぶん香辛料とかの作物は後回しになったって聞いたぞ?」

「えっ! そうなのか? だとしたら、こっちにも多少は影響が出てもおかしくなさそうだけど……調味料が値上がりしたとかって話をうちのカミさんからは聞いた記憶がないぞ?」

「だよな? 俺んとこもそうだ……メイルダントは他領より調味料の消費も激しいだろうに……不思議なもんだな?」

「……そこはほら、ここんところ勢いのあるベイフドゥム商会が仕入れとかを上手くやって価格を抑えることができてるみたいだぞ?」


 おやっ? ベイフドゥム商会というのは……確かトードマンのところの商会名だったよな?

 まあ、食品を扱っている商会だって話は既にワイズから聞いていたから、それについてはさほど驚くことでもなかろう。

 とはいえ、こうやって街の人たちの話題に上るほどトードマンのところは本当に勢いがあるってことなんだろうなぁ。

 そうなると……トードマンのところに嫁ぐのも悪くない説が浮上してきてしまいそうだ。

 いやまあ、仮に商会はよかったとしても、トードマン自身がクソ野郎だったら、婚姻に大反対待ったなしだろうけどね。

 はてさて、実際のトードマンはどんな男なのか……おそらく明日には実際に見ることもできるはず……

 ついでだし、このオッサンたちもトードマンについてのウワサ話をしてくれてもいいんだけどねぇ?

 まあ、どうせ明日には分かることだろうから、どうしても聞きたいってわけでもないけどさ……


「お待たせ致しました~! ごゆっくりどうぞ~!!」

「おお、きたか……」


 そんなことを思っているうちに、ようやく俺たちのテーブルに料理が運ばれてきた。


「さぁて、メイルダント風の味付けをアレスコーチは気に入るかどうか! ワイズもドッキドキの瞬間だな!?」

「ま、まあ、我が領の味覚を信じるのみ……といったところか……」

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