第5話 俺の悪い癖
自室に戻ってきた。
明日の準備をして、あとはもう寝るだけ。
寝るまで魔力操作の練習をしようと思った。
思ったのだが、アレス君の記憶に微かに残る家庭教師の指導を改めて思い出すと、魔力をぐにゃぐにゃ動かすとかみたいなある程度上級者が行うものより、基礎中の基礎から始めた方が良いっぽい。
なぜならアレス君は今までやってこなかったみたいだからね。
ゲームのアレス君はこれでよく戦ってこれたね、地味に尊敬しちゃうよ。
それはともかく、やることは前世で言うところの瞑想だね。
へへっ、二次元オタク舐めるなよ? 知ってるぞ、丹田だろ?
バトル漫画の中国拳法の達人とか仙人みたいなじっちゃんたちに俺も間接的に教えてもらったからな!
呼吸に意識を集中させるのが大事だって。
吸う息で空気中の気を取り込み、臍の下指三本分のところにある丹田に溜める。
吐く息で気を取り込み終わった残りかすの空気を吐き出す。
この繰り返しの魔力版だな!
この時、吸う息でお腹が膨らみ、吐く息でお腹がしぼむ。
健康に良いとか言われている腹式呼吸もこの要領だ。
ちなみに、座り方や指の組み方は結跏趺坐や胡坐、合掌だったり親指と人差し指を輪っかにして膝に乗せるとか漫画内師匠によっていろいろバリエーションがあった。
中でも、昼はサラリーマンで、真夜中は暗殺拳の使い手師匠は昼間パソコンの前で椅子に座りながら気を練るとかやってたし、その辺はお好み次第といったところか。
そこで俺は、ベッドで胡坐になって手は丹田の前らへんで両掌を重ねて親指の先を合わせるスタイルでやろうと思う。
これを眠る瞬間まで行う、そのまま寝てしまってもいいぐらいのつもりでね。
さて、いざ!
朝の光を浴びてゆっくりと目が覚めていく。
こんな穏やかな目覚めは何年ぶりだろうか。
前世のコンクリートジャングルに覆われた現代人たちにも、この満ち足りた気分をお裾分けできたらと思わずにはいられない。
青臭いひよっこがそんな風に偉そうなことを脳内で口走りながら、朝食へ向かう。
ああ、そういえば瞑想の結果だって?
体感30分ぐらいで足の痺れに耐えられなくなって終わったね。
おそらくアレス君の体重に音を上げてしまったのだろうねまったく、根性なしめ。
今晩からは椅子だな、暗殺拳師匠の教えに従おう。
食堂に着いた。
昨日の夕飯の量から8割……まぁつまりは6割4分にしてやろうと思ったら、脳内暴食アレス君にキレられた。
まぁまぁアレス君成分が残っているのだなと再確認できた瞬間だった。
いや別に、叫びだしたとかこの体の主導権を奪われたとかじゃないから、安心(?)してくれ。
ただ、食べ終わって片付けようと思ったら、これじゃ足りないとばかりにどうしょうもない空腹感に苛まれただけさ。
仕方ないので、ちょっとばかりお代わりをいただいてアレス君をなだめよう。
「あれだけ食って、まだ食うとかどうなってんだアレ」
「見るのはよした方がいいな、食欲が失せるぞ」
「そうだな、アレは朝から見るようなもんじゃない」
「ああいうのが、農民から搾取してるんだろうなぁ」
「全くだ、貴族の誇りはないのか、そう問うてやりたいよ」
「じゃあ、お前言って来いよ」
「えぇっ、そこでまさかの裏切り!?」
「侯爵家に喧嘩を売るとか、お前根性者だな!」
「やめて! ほんとにやめて!!」
とりあえず、脳内っていうか腹内アレス君が落ち着いてくれたので、そろそろ移動しよう。
エリナ先生の授業が楽しみだ。
ルンルン気分でAクラスの教室に着き、エリナ先生の到着を待った。
「みんなおはよう。今日は魔力・体力測定を行うから運動場に集合よ。これは学年全員同時に行うのだけれど、運動場につき次第私の周りに集まってくれればいいわ」
なるほど、魔力と体力測定からスタートってわけだ。
魔力量に関してはその辺の学生と一線を画すレベルで既にあるだろうから余裕だな。
きっと「あ、あいつ、あの歳でなんてレベルの魔法を扱えるんだ……」とか言ってワナワナされちゃうんだろうね。
って思いだした、ゲームでは調子に乗ったアレス君が極大ファイヤーボールを爆発させて、あわや大惨事って事故を起こすんだった。
一応周りの先生が魔法障壁で生徒を守るから重傷者とかはいなかったハズ。
どっちかというとギャグ扱いで黒焦げパンチパーマになったアレス君をプレイヤーに笑ってもらおうって趣旨だったと思う。
ああそうそう、このイベントで爆風に煽られて転倒しそうになったゾフィネというヒロインその2を主人公君が役得感満載で抱き支えることで親交を持つようになるんだった。
あれかな、アレス君は恋のキューピットボーイなのかね?
そしてこのゾフィネという少女、実は人間に化けた魔族であり、学園でスパイ活動を送っているという設定。
そんで、主人公君との交流を重ねていくうちに、人間と魔族の板挟みに悩んでグダグダするという実にしみったれたシナリオなのだ。
この魔族少女ルートを進むと、魔王は復活しない。
魔族たちは「魔王の宝珠」とかいうアイテムに魔力とかその他もろもろのエネルギーをせっせと集めて魔王復活を図る。
そこで、魔族少女が裏切って主人公君とともにこの魔王の宝珠を破壊しておしまい。
あとは二人で辺境で幸せに暮らしましたとさってな具合。
せっかく頑張ってきた魔族の皆さんの苦労を思うと涙を禁じ得ないね。
それは別にいいとして、昨日俺は主人公君に役立たず臭を感じたら原作知識を使って魔王復活を阻止してしまおうと言ったが、コレのことである。
一応、ゲームの知識で魔王の宝珠がある祭壇部屋の場所も覚えているので、俺自身の修行がある程度進んで魔族どもを余裕で蹴散らせるレベルに達したら破壊しに行っちゃおう。
いやぁ、原作知識をひけらかしたくなるのは俺の悪い癖かもしれないな。
ついつい語っちゃう。
まぁ、周りのどうでもいい若造どもと喋る気がないから脳内独り言を繰り広げているだけだけど。
そんなことをつらつらと考えながら運動場へ移動した。
ふふっ、ここから俺の超魔法士伝説の幕開けだ。
栄光と書いてアレスと読む、100年後の歴史書を楽しみにしとけよ!?
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