第4話 将来の進むべき道

 というわけでやって来ました図書館。

 前世知識で対応できることはやらなくていいと考えると、まず必要そうなのはこの国の歴史だろうね。

 まずは、サルでもわかりそうな初心者用の本でも探しましょうか。

 おお、この辺がよさそう……そういえば、本を見てみた感じ普通に紙も開発されてるんだね。

 まぁ、小学校の理科かなんかで和紙を作る実験とかやったような気がしなくもないが、あんましよく覚えてないから、こっちで日本の紙を再現しなさいとか言われずに済んで助かった。

 とりあえず、貸出を行っているみたいなので、まずは一冊借りてみた。

 

 お次は有酸素運動。

 おそらくこの体で走るのはムリだろうから歩く。

 まぁ、仮に膝を壊したりしても、侯爵家の財力に物を言わせてポーションを飲めばどうとでもなるのでそこは大した問題じゃない。

 ただ、単純に体力がない、下手したら気を失って倒れるかもしれないのでそこは気を付けたいところなのだ。

 というわけで、歩きましょうってこと。

 ここで俺は効率を考えて、歴史書を読みながら歩くことにした。

 前世で薪を背負いながら本を読んでいた偉人の逸話に倣おうというわけだね。

 ふふっ、前世の知識はムダにならんね。

 そういえば、前世で歩きスマホが危険ということで問題になっていたと思う。

 だが、こっちでは自動車とか走ってないし、そもそもここは散策等もできるように整備された庭園である、馬車なんかに轢かれる心配もない。

 前方から向かってくる相手との接触事故の心配についても、俺は侯爵子息様だぞとばかりに、ぶつかった相手に傲慢かませばどうとでもなろう。


「おい、あれ見ろよ、本を読みながら歩くとか、あれは何の真似だ?」

「何のつもりかは知らんが……お前もある侯爵家の子息の噂を耳にしたことがあるだろう?」

「もしや、あれが?」

「そうだ。だからというべきか、無理に理解しようとしても無駄だろう」

「僕も噂を聞いたことはありましたが、実物は初めて見ました……」


 マズいのは王女殿下や公爵子女ぐらいのものだが、さっき見た感じ王女殿下はメシを奢れば許してくれそう感があったので、そういう対応でたぶんなんとかなるだろう。

 とはいえ、それは最終手段だ。

 視線は文字に集中しながらも、視界は広く保つことで周囲も認識の範囲に収める。

 確か八方目とか言ったかな、バトル漫画の武術の達人とかがやってたようなやつを真似すれば、前方から迫ってきた人間程度気付けるはずだ。

 ふっ、これで一石三鳥だ。


「おーい、お待たせ。みんな喜べ、今度の休みに令嬢たちとお茶会が決まったぞ!」

「おおっ、でかした! これで上手いこと婚約者が決まれば、後継ぎ候補に一歩前進できるぜ!」

「僕のところは兄上が優秀だからなぁ~なんとかいい所の婿養子先があればいいんだけど……」

「俺も似たようなものだ、ともに頑張ろう」

「ですね!」


 正直に言えば、ついでに魔力操作も同時に行いたかったが、さすがに意識が分散し過ぎてどれも中途半端に終わりそうなので、やめておいた。

 まぁ、アレス君が今日に至るまで魔力操作の練習もしていれば、一緒に出来たかもしれないが、一切興味を持たず、やってこなかったからね……

 ある程度慣れるまで魔力操作は別に時間を取って行うしかないな。


 周囲が暗くなってきて、文字が読みづらくなった。

 体力ない系男子のアレス君は、途中で休憩を何度も挟みながら、読書ウォーキングを3時間ほど行った。

 時間だけ見れば結構頑張ったように感じるかもしれないが、圧倒的に休憩時間の方が長かったのだ。

 とはいえ、まだ初日だ、これからの努力次第といったところだろう。


 学生寮に戻ってきてすぐ、部屋に備え付けのシャワーを浴びた、地味にハイテクである。

 それはともかく、前世では激しい運動後や夏の暑い日ぐらいしか気にならなかったのだが、この体になって尋常じゃない汗の量に驚いている。

 その辺を散歩したレベルの運動量でしかないのだから、前世ならたぶんシャワーを浴びずに食堂に行っても何の問題もなかったであろうが、今はだめだ。

 男しかいないのだから気にするなという猛者もおられることだろうが、問題はそこじゃない。

 その辺の野郎どもがどう思おうと関係ないのだ、こう見えて俺も紳士の端くれ、理想の俺の追及、それが男の嗜みというものだ。


 そんなわけで、湯上り卵肌のアレス君が食堂に登場ですよ!

 それにしてもコイツ、無駄に肌が奇麗なのだ。

 もし俺がナルシスト全開なら、一日中鏡を眺めてた可能性すらあるね、痩せてからだけど。

 そんなことを考えながら、食堂でビュッフェ形式の食べ物を眺める。

 やべぇ、どれも美味そう。

 俺自身、前世では食費をケチって一日一食で余裕で暮らせるレベルの食に対する執着のなさだった。

 そして今日一日過ごしてみて、この体のアレス君成分が俺に全て塗り替えられたのだと思っていたが、残っていたのだ。

 食への執着が。

 まぁ、運動後の空腹感ってやつももちろんあるだろうさ、でも目に入るメニューのどれもこれもが輝いて見えちまう。

 ああ、やっとわかった、これが食のジュエルランドってやつなんだな。

 あの時は、何言ってんだコイツとか思って申し訳なかった、あなたが正しかった。

 あと、この時点で……まぁアレス君の記憶を辿ればわかることだけど、料理チートもないことが確定した。

 とはいえ、マヨネーズの作り方とか先輩転生者たちの描写をなんとなくでしか覚えてないから、たぶん俺がやっても、ヘドロみたいなクソマズイものしか作れず、おっかない料理人のおっさんにげんこつをくらって終わりだと思うけどね。

 それはまぁいい、問題はこの飢餓感と形容してもいいぐらいの食欲だ。

 今もこうして下らないことを考えながら、飢えを誤魔化しているぐらいなのだ。

 いきなり極端に減らすのは危険だ、少しずつ食べる量を減らしていこう。

 とりあえず、記憶にある一回の食事量の8割を目指そう。

 耐えてくれよ、俺の体!!


「うわぁ、見ろよあの量、盛り過ぎじゃね?」

「見てるだけで気分悪くなってくるな」

「早く食って、部屋に戻ろうぜ」

「「そうだな」」


 アレス君……君って奴は暴食の権化だったのだね。

 一応これでもいつもの8割に抑えているんだよ……

 あ~あ、思ったよりダイエットに時間がかかるかもしれないな。

 前途多難とはまさにこのことを言うのかね……

 そうして若干の物足りなさを感じつつ、食堂を後にすることにした。


「あれが噂の……」

「凄まじい食べっぷりだったね」

「ああいうのがいるから、王国の下流層にまで食材が行き渡らないのだろうねぇ」

「あぁ、今も飢えに苦しむ貧民が数多くいるというのに……!」

「俺が爵位を継いだ暁には、領民に食料が行き渡るよう善政を敷きたいものだ」

「私は王都の文官として、食料問題に携わっていこうと将来の進むべき道が見えた気がしますね」

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