第3話 俺の在り方
さて、放課後である。
俺にはひとつ確かめたいことがある。
それは、主人公君と王女殿下の出会いの場面である。
ゲーム本編では必須イベントで、今の時代ベタと言うべきか、曲がり角でぶつかる。
その場面を目撃したアレス君が王女殿下のナイト気取りで主人公君を叱責するも、優しい王女殿下は許しを与えるというシーン。
これがきっかけで、アレス君と主人公君の因縁が始まるって感じ。
まぁ、他人事のように語っているが、ゲームの強制力が働いて、今の俺が巻き込まれるかどうかを確認しておきたい。
これに強制的に関わらせられるようなことがなければ、ゲームの強制力を気にしなくていいと考える手掛かりのひとつになりうるからである。
そんなことを考えながら少し早めに現場に移動。
おお、現場を見通せる丁度いい場所にくつろぎスペースがある。
何とはなしに暇を潰している風を装って、二人が来るのを待とう。
そうしてしばらく待ったところ。
「おっと、ごめんよ」
「いえ、わたくしの方こそ、不注意でしたわ」
主人公君にぶつかり、よろけた王女殿下の肩を抱き支える主人公君。
まぁ、役得って感じなのかな。
「オレ、ラクルス・ヴェルサレッドっていうんだ、びっくりさせたお詫びに今度なんか奢るよ!」
「わたくしは、フェイナ・カイラスエントと申しま――」
「カ、カイラスエントといえば……王女殿下!! すいません、オレ、辺境の士爵家出身で、礼儀とかその辺、あんま得意じゃなくて……」
「公式な場ではいけないことですが、ここは学園です。少しずつ学んでいけばよろしいことですわ。それに……個人的な場では、そう肩ひじ張らず、自然に接していただいた方が嬉しいわ」
「え、えっと、じゃあ、礼儀作法を身につけるのも頑張るけど、普段はこのままでお話させてもらうよ!」
「ふふっ、ええ、そうしてくださいな。ああ、それと今度、何かご馳走していただけるのでしたわね。楽しみにしていますわ」
「おっと、こりゃ、俺のセンスで王女殿下に喜んでもらえるか心配になってくるな」
「あらあら、どんなものをご馳走していただけるのかしら、とても楽しみね」
「よっし、しっかり探しとくから、待っててくれよな! あ、そうだ、待ち合わせしてたんだった、ごめん、また今度!」
「ええ、ごきげんよう」
へぇ、王女殿下がチョロ過ぎるのかよくわかんないけど、主人公君のヤツ、あっさり王女殿下とのデートの約束を取り付けたな。
まぁ、それはわりとどうでもいいとして本来なら俺は、あの場で主人公君に怒鳴り込んでいかなければいけなかったわけだ。
だが、行かなかった、というか、行かなくても問題なかった。
もっと言えば、強制的に関わらせられるようなこともなかった。
この様子だとたぶん、ゲームの強制力はあんま気にしなくてもいいかもしれない。
よっしゃ。
ただまぁ、このイベントがさほど大きな影響がないから見逃されただけで、もっとでっかいイベントには首を突っ込まざるを得なくなることもあるかもしれない。
引き続き様子を見つつ、俺の自由に行動させてもらうとしよう。
ゲームの強制力の確認に一段落がついたので、さっそく自由行動に移ろうと思う。
とりあえず、これからのことを考えて意識高めな言い方をすれば、自分磨きが必要になってくる。
そこでまず、アレス君の記憶から読み取れる基礎スペックを俺なりに評価してみよう。
学力:読み書き以外は無理矢理躾けられた基本マナーしか知らないクソバカ
運動能力:たまにいる動けるデブならまだしも、なんもできないただのクソデブ
魔法:魔力量頼りの一発屋
とまぁ、こんな感じだ。
学力に関しては俺の前世チートが火を噴くぜと言いたいところであるが、私立文系で偏差値も普通程度の大学を受験しただけだからなぁ。
しかも一番得意だったのが英語。
この異世界で、その辺の学生にドヤ顔で「ディスイズアペン」とサムライイングリッシュをキメたところでポカンとされるのがオチだろうね。
前世のゲームがベースの世界なのだからワンチャン、詠唱魔法のスペルが英語かもとか思ったけど、そんなこともなく、モンスター名とか単語レベルでそれっぽいのがあるぐらい。
いやスマン、仮にそうだったとしてもそこまで英語ペラペラじゃなかったわ、ついついデキる男風に語っちまった。
っていうか、戦闘中にいちいち詠唱とかしてたら唱え終わる前に殺されて終わりだろとか昔の偉い魔法士が提唱して、今ではイメージ優先の無詠唱魔法が主流らしい。
こうなってくると「なんだと……アイツ……無詠唱で魔法を放ってやがる!!」とか引き立て役君に言ってもらうことすらできない、なんてこった。
おまけに、大学に入ってからは出席を細かく取らない教授の授業ばかり取っていたため、あんまし専門知識もない。
まぁ、何が言いたいかというと、役に立ちそうな現代科学チートとか使えませんってことなのだ。
異世界よ、無能な転生者で済まぬ、お前を発展させてやることのできぬ俺を許してくれ……
いやでもね、理数系が苦手ではあっても、高校は卒業してきているんだ、この世界の学生の算術レベルとかは問題なくできるよ!?
それらがあれば、この国の歴史とか異世界ならではのことはムリだけど、アレス君の足りない知識をある程度補ってやることも出来ちゃうんだぜ?
なんだ、やっぱり前世チートあるんじゃないか、ビビらせんなよ。
そんなわけだ、足りない知識も結構あるから、しばらく図書館通いになるのは仕方なさそうだね。
んで、運動能力……まずダイエットだね……ぜんぜん動けないもん。
今まで敢えて触れないようにしてたけど、ちょっとした行動の度に息が上がってしょうがない。
これが噂の「俺の体力、なさすぎってことだよな?」ってやつだな。
ふふっ、順調に異世界テンプレをこなしている俺に、先輩転生者の諸兄もニッコリだろう。
とまぁ、異世界ファンタジーらしく剣術とかを極めて剣聖とか呼ばれようにも、この体では修行も覚束ないので、まず痩せよう、痩せて体力付けよう。
というわけで、運動能力に関しては、まず有酸素運動を中心に取り組むべきだね。
そういえばアレス君、素はイケメンなのだ、痩せたらきっとモテモテになっちゃうだろうね。
でも俺は言い寄ってくる女の子たちに言ってやるんだ「悪いな……俺はエリナ先生一筋なんだ」ってね!
そういえばさっき、ゲームのヒロインに恋愛感情が湧かないとかスカしたことを言ったような気もするが、あれは若気の至りだった、そう受け止めてくれると嬉しい。
ただし、俺をその辺の恋愛脳の若者と一緒にしてくれるなよ?
俺は結ばれるだけの恋愛が至高だとは思わない。
片想いの美学の体現者でありたい、俺は常々そう思いながら18年と数か月を生きて、その生涯を閉じたのだ。
転生したからといって、その志に少しの変化もあろうはずがない。
それだけは姿形の変わり果てた俺の、たったひとつ変わらず残った真心といえるものなのだ。
おっと、運動能力の話から俺の在り方に話が飛躍してしまったな。
とりあえずダイエット、話はそれからだ。
あとは魔法についてだね。
アレス君の記憶を辿ると、ソエラルタウトの屋敷で暮らしていたときの家庭教師に魔力操作に習熟しろと何度もしつこく言われていたようだ。
もちろんアレス君は完全無視だったけれど。
まぁ、ゲーム時代のアレス君の様子から考えてみても、主人公君には及ばなかったが、その辺の一般学生程度なら威力デカめの一撃で沈めれたみたいだから、仕方ない部分もあるだろうね。
ただやっぱりそれでは、単純に実力が上の者や、戦い方が巧みな者に出くわしたら負けてしまうだろう。
であるからして、こちらも技術を磨かねばなるまい。
というわけで、魔力操作に力を入れてみるとするかね。
よし、これからの基本方針が決まった。
知識習得、有酸素運動、魔力操作、この3つを中心として日々を過ごす、これだ!
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