第2話 これが噂の知識チート
入学式というものは異世界においても退屈なものらしい。
偉い人の話を、真剣そうな顔をしながら聞き流し続けるだけの時間。
それと、当然といえば当然かもしれないが、新入生代表挨拶は王女殿下がご披露なさった。
もしかするとゲームの強制力で本人を目にしたら、狂おしいほどの恋愛感情が込み上げてくるかもしれないと危惧していたが、そんなこともなかったので一安心。
ただ、アレス君って貴族主義っていうのかな、選民思想バリバリな設定の男の子だったからさ、王女殿下自身に好意を寄せていたのではなく、王女殿下の地位に執着があっただけっていう可能性もあるからなぁ。
その辺の記憶とか特に残ってなくて、実際のところどうなのかわからないけれど、とりあえずゲームの強制力に関してはもう少し様子見といったところかな。
そうして入学式が終わり、割り当てられた教室に移動。
1年生の前期のクラス分けは、貴族家は無試験で入学できるため、ほぼ親の爵位によって決まるみたい。
内訳としてはこんな感じ。
Aクラス:王族、公爵家、侯爵家、辺境伯爵家
Bクラス:大半の伯爵家、一部の強い子爵家
Cクラス:一部の弱い伯爵家、大半の子爵家、一部の強い男爵家
Dクラス:大半の男爵家
Eクラス:強い順に上半分の士爵家
Fクラス:強い順に下半分の士爵家
Gクラス:試験に合格するか、有力者の推薦を得た平民
特別クラス:エルフ、ドワーフ、獣人族等の異種族、各異種族と親交のある貴族家
この強いとか弱いというのは、領地の規模とか軍事力とか経済力……その他いろいろを王国上層部が総合的に勘案して決めるみたい。
なので、来年我が子が入学、クラス分け当落線上ギリギリって感じの貴族家は、その後のマウントのため、あれこれと頑張るみたい。
貴族も楽じゃないね……我がソエラルタウト家は口利き料を貰う側なので、むしろ儲かってるみたいだけどさ。
そしてGクラスに平民が集められているのは、金銭的な余裕等で魔法等の練度が劣ると予想されることや貴族と接する上でのマナーに不備がないように、それらをまず集中的に学ばせるためとして平民のみが集められるようだ。
また、平民にも門戸を開いている理由としては、才能の取りこぼしを防ぐためらしい。
特別クラスに関しては、文化などが異なる異種族に、まず人間族の文化を学んでもらうことを優先してのことらしい。
そこで、各異種族のサポート役を担うため、親交のある貴族家が特別クラスに入ることもあるようだ。
こうして、前期の成績を受けて、後期にクラス替えが行われる。
以後、期別に成績の結果を受けてクラス替えが行われる。
異種族の学生は基本スペックが高い場合が多く、人間族の文化に馴染めるかどうかが主な問題であるのに対して、人間族の学生は成績で容赦なくクラスが入れ替わる。
極端な話、理論上は王族でGクラスに転落する者もいるし、平民からAクラスに上がれる者もいる。
ただ、王族やその他上位貴族は選別を繰り返して代を重ねているため先天的に能力が高水準、なおかつ英才教育を施されているため、まずそんなことは起こらない。
平民の場合は、3年の後期にやっと1人Aクラス入りできたら物凄い快挙ぐらいの扱いに留まるみたいだ。
ちなみに、アレス君の原作でのクラスは、2年の後期から追放されるまでBクラスだった。
怠けていたため、武術と学科は壊滅的ではあったが、豊富な魔力量に物を言わせ、魔法実技である程度の点数を取っていたため、魔法の成績でBクラスまではキープできていたという設定。
ただ、本人としては当然Aクラスにいるべきとの思いから、不満を募らせていく。
しかも、主人公君が貴族家最下層のFクラスからAクラスに駆け上がっていったから余計に不満が溜まっていったというわけだね。
そうしたあれこれを考えながら移動しているとAクラスに到着した。
ふむ、ざっと見渡したところ、ゲームのヒロインは王女殿下だけだね。
単なるクラスメイトの域を出ることなく、当り障りなく接していくこととしよう。
大丈夫、密接な距離感を築かないことに関してはプロ級の自負がある、上手くやれるさ。
そんなふうに考えながら、指定されている席に着いた。
ほどなくして先生が教室に入ってきた。
「みんな席について。私がAクラスを担当することになったエリナ・レントクァイアよ。誰一人欠けることなく1年間過ごせるよう、頑張って行きましょうね」
そういえば、エリナ先生25歳はAクラスの担任だったな。
ゲーム上で彼女は、1周目では攻略できない、いわゆる隠しヒロインってやつだ。
16歳で成人を迎えることや、この魔法学園は貴族子女の婚活の場という意味合いもあり、卒業後比較的速やかに結婚する学生が多い。
何がいいたいかと言うと、エリナ先生……俺たちプレイヤーからの扱いとしては年増もしくは行き遅れ担当なのだ。
いや、気立てもよく美人でスタイル抜群、実家も伯爵家だ、別に男にモテないわけじゃないんだ。
ただ、本人は魔法の研究が第一なだけなんだ、そこは間違えないであげてほしい。
かくいう俺も正直にいえば、ゲームプレイ時は全ヒロイン中エリナ先生が一番のお気に入りだった。
……あ、主人公のクソガキがエリナ先生に手を出そうとしやがったら、殺そう。
……待てよ、殺してしまうと後々面倒の種になりかねんな……半殺しで勘弁してやるか。
ふむ、レベル上げの必要性がより一層増したな。
潰してやるから待ってろよ、クソガキ。
……あれ、今気づいたけど、ひょっとするとエリナ先生が今まで独身だったのは、魔法の研究とか関係なしに、寄ってくる男を俺みたいな見守り隊が蹴散らしていたからなのかもしれない。
……図らずもゲームの裏設定に気付いてしまったようだ。
前世に戻れたなら、エリナ先生推しの同志達にこの事実を知らせてあげたいものだな。
そう思いながら俺は、エリナ先生にクールでありつつも熱い視線を送り続けるのであった。
「では自己紹介を一列目の右から始めてもらおうかしら」
自己紹介か、クラスの連中のことなどどうでもいい、適当に聞き流してしまおう。
などと思いながら顔だけ真面目に聞いているふりをしていたら、遂に俺の番が来た。
ふぅ、俺はナイスなクールガイだ、奇を衒った余計な小細工はしない、直球で行くぞ。
「私はソエラルタウト侯爵家次男、アレス・ソエラルタウトと申します。魔法士として高名なエリナ・レントクァイア先生にご指導いただける機会に恵まれ、恐悦至極の極みに御座います。これからの学生生活、良き魔法士となれるよう全力で取り組む所存でありますので、ご指導ご鞭撻の程、宜しくお願い致します!」
この体型ではやや優雅さには欠けるかもしれないが、今できる精いっぱいの華麗なお辞儀を披露して着席した。
ふむ、静まり返った教室、どうやら皆、俺の紳士的かつ知的な自己紹介に圧倒されてしまったみたいだな。
ああ、これが噂の知識チートってやつなのか……先輩転生者の皆様「私、何かやっちゃいましたかね?」俺も乗り遅れることなく、この世界で一発かましてやりましたよ!
「……はい、よろしくね。じゃあ、次は隣の君ね」
自己紹介が上手くいった満足感に浸りながら、残りの学生の自己紹介も適当に聞き流して終了。
「今日はここまで。それではみんな、また明日ね」
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