悪役転生者は自由人~原作ゲームのシナリオを無視して行動したいと思います~

天宮ゆきと

第1章 俺が俺であるために

第1話 目覚め

 目が覚めたとき、そこは異世界だった。

 とまぁ、カッコつけてみたのだけれど、マジで見たことない部屋に俺はいた。


「あがぁぁぁ!!」


 強烈な頭痛……この痛みから逃れるかのように二度寝の旅に出た、俺の意思とは関係なくね。


 二度寝の旅から帰ってきた。

 スッキリとした目覚めに気分爽快である。

 そして眠っている間に記憶や魂の整理整頓が済んだのであろう、この体の持ち主と俺の情報が出揃った。

 ……異世界転生しちゃったね。

 まず、おそらく前世の俺の最期の記憶が、日本の大学生で夏休みにゲームに熱中し過ぎて死んだ、たぶん熱中症だね。

 いやぁ、北海道出身の俺は、東京の夏を舐めてたわ。

 それに、寝不足とか運動不足、おまけに一人暮らしで電気代とか食事代とかをケチったのも大きかったかもしれない。

 両親には申し訳ないことをしたとは思うが、こうなってしまっては仕方ない。

 優秀な兄と弟、可愛い妹に後は託した、みんな頼んだぞ!!

 とはいえ、俺としては今回の転生にあたって、ひとつ誇りたいことがある。

 それは、転生トラックの世話にならなかったことだ。

 俺も、ゲームのし過ぎで死ぬ程度には二次元オタクなだけに、異世界ファンタジー小説も大好物である。

 それらの主人公たちの多くが子供を助けたり、別に特別な理由がなかったりしながらトラックに轢かれて異世界転生を果たしているのだが、その際俺は、名もなきトラックドライバーたちのその後に思いを馳せて、いつも心を痛めていた。

 だって、主人公はそっからほぼ確定的に幸せの絶頂を勝ち取るのに対し、ドライバーは大半の読者に気にかけてすらもらうことなく、転生装置としての役割を終え、罪だけを残して物語から退場していくのだ、こんなに悲しいことはないだろう?

 そんな中で、俺は自分の不注意での死亡、そして転生だ。

 俺を転生させるためだけに罪を背負うことになってしまうトラックドライバーがいなかった、その事実が俺の心に安寧をもたらしてくれる。

 よかった、本当によかった……

 あとは、あの日晩御飯をご馳走してくれる約束をしていた兄が、俺の死体をなるはやで発見してくれることを祈るのみだね。

 頼む! マジで頼んだ!!


 まぁ、それはともかくとして、問題はこの体の持ち主のことである。

 前世を思い出したのか、憑依してこの体を乗っ取ったのか、はたまた融合の結果、精神年齢等の高さから意識のベースが俺になったのか、その辺は正直わからない。

 もし他人の人生を奪うことになってしまったのなら、心苦しい限りである。

 だからといって返すことができるかといえば、それはできない、というかやり方がわからない。

 そのため申し訳ないが、このまま俺の意思のままに行動させてもらおうと思う。

 ただまぁ実際のところ、この体の持ち主、近い将来破滅します、してしまいます。

 なんでそんなことがわかるかというと、この体の持ち主の記憶から察するに、ここは俺が死ぬ直前までプレイしていたゲームの世界だからであり、さらにいえば、全てを失う悪役だからである。

 今年13歳になったこの体の持ち主であるアレス・ソエラルタウトが王立カイラスエント魔法学園に入学する。

 そこで、ゲームのヒロインその1であるフェイナ王女殿下を巡って、主人公のラクルスと対立し、悪役だけにいろいろ悪事を働き、最終的に追放処分を受ける。

 それで終わればまだ良いのだが、無駄に魔力に優れたアレス君は魔王復活を目論む魔族どもに、復活のいいエネルギー源として利用されて、魔力を筆頭に肉体に宿るあらゆる力を吸い尽くされて死亡してしまうのだ。

 ゲームのシナリオ上、プレイヤーのヘイトを溜めなければならなかったこともあり、かなりの嫌われ者だった。

 ご丁寧に最期のシーンはムービー付きだ、まぁ制作陣としては悲惨さも見せたかったのだろうけれど、どちらかと言うと笑いにしかなっていなかった。

 なぜなら、アレス君太っているのだ。

 そのため、エネルギーが吸い尽くされ、痩せ細っていくのを見たプレイヤーに「魔王式ダイエットw」とか、素は良かったのだろう、ほどよくほっそりした後半の3秒で「アレスの3秒天下w」とか言ってネット掲示板や動画投稿サイトで馬鹿にされていたのをよく覚えている。

 そんな感じで、ゲーム通りであれば、アレス少年に待っているのは、絶望の未来だけである。

 この体の主導権を得た俺としては、そんな未来はノーサンキューである、変えるしかない。

 いざ、破滅の未来を打ち壊せ!! である。

 とまぁ、威勢よく決めてみたものの、別にそんなに頑張んなくても行ける気はしている。

 俺個人の感覚では、王女、というかゲームのヒロイン全員に対して、人のものという意識でもあるのか、そこまで恋愛感情が湧かない。

 そのため、おそらく主人公君とぶつからないと思う。

 また、寄ってくる魔族どももガン無視を決め込めばたぶん大丈夫だろう。

 あまりに鬱陶しければ、レベルを上げて始末すれば良い。

 あ、そうだ。


「ステータス! メニュー! ウィンドウ! 能力値! レベル! スキル! ジョブ! クラス! 鑑定!」


 ……出ないね。

 思いつく限りいろいろな単語を唱えたり、念じてみたりしたけれど、反応なし。

 うん、そういう便利なシステムはないってことね、承知した。

 いやまぁ、アレス君の記憶になかったから、そうだろうなとは薄々感じていたんだ。

 でも「もしかしたら」それに賭けてみたいっていう気持ちに嘘はつきたくなかった。

 っていうか、経験値とかわかれば超楽でしょ? めちゃくちゃモチベーション上がるよね? そういうことだよ!

 ただ、アレス君の記憶によれば、数値的にはわからないけれど、感覚的に保有魔力量はだいたいわかるみたいだね。

 とりあえず、これから先は自分の魔力量を目安に努力の成果を認識してモチベーションにして行くとするかな。

 ちょっと脱線してしまったけれど、魔王復活のエネルギーは別にアレス君からしか吸収できないわけではない。

 あっちこっちで力のある人間から魔族どもは少しずつかき集めてたみたいだし、こっちは隙を見せなきゃ良い。

 主人公君も、本当に英雄となるような器なら、自分でなんとかするでしょ。

 それにぶっちゃけ、主人公じゃなきゃ魔王を倒せないというわけでもなく、ゲームで主人公敗北エンドの場合、エピローグで王国が総力戦で魔王を倒す。

 ただ、その戦争で数多くの戦死者を出し、弱ったところに周辺国の侵略を受けて領土をガリガリ削り取られて衰退しました、残念だったねって感じで終わる程度。

 他のゲームなら世界が滅ぶとかスケールのデカいこといってるのに、わりとこぢんまりしたバッドエンドなので、正直めんどくさくなりそうなら国外逃亡を視野に入れても良い。

 まぁ、そんな感じで完全に放っておいて失敗したら国が傾いて、それまで俺が築いていくつもりの生活基盤が崩れたら勿体ない気もするので、一応学園で様子だけは時々見ておこうかな。

 そして、どう考えても主人公君に期待できなさそうなら、俺が原作知識を使って魔王復活を阻止してしまうのもアリっちゃアリ、そういうシナリオもあったからたぶん再現できるでしょ。

 とまぁ、そんなこんなを考えていたら、いい時間である。

 何がいい時間かと言うと、実は今日、学園の入学式なのである。

 一昨日から既に学生寮にも入寮済のようである。

 ……正直なことをいえば、赤子からスタートダッシュを決めたくなかったかといえば嘘になる。

 だってアレス君、幼少期に天才だと持て囃されたのが悪かったのか、傲慢になった上に剣も魔法も、ついでに勉強もサボり尽くして、結果身につけたのは暴食による脂肪だけという有り様。

 ゲーム的にいえばレベル1からのスタートなのだ。

 それでも、幼少期のごく僅かな期間天才と言われただけあってか、生まれつき魔力量は並外れてあったみたいだから、クソ劣等種ではなかっただけマシとは言えるのかもしれない。

 そうだ、アレス君はポテンシャルだけはあるんだ。

 一応常にボコられるだけだけど、原作においても怠け者であったにも関わらず、終盤まで主人公一行に食い下がれる程度には強かったのだ。

 なら、今から俺が頑張って修行すれば、最強はムリだったとしても、かなりの所まで行けるハズ!

 よっしゃ、ヤル気が漲ってきましたよ!!

 そんなことを考えながら、入学式出席に向けて準備をしていくのである。

 ちなみに、侯爵家子息の俺は豪華な一人部屋だ。

 ゴージャス感を無視すれば前世を思い出すね、体感的にほぼ昨日のことだけど。

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