第261話 弾速

「そろったわね、では森へ行きましょう」


 昼食を済ませて学園の正門前に集合した俺たちは、今日もいつもどおりファティマの号令の下、森へ向かう。

 ちなみに、食堂でも幾人かの小僧どもが「なんとなく、今日は調子がいい!」とかいっており、俺たち男子4人は顔を見合わせことだけは忘れずに述べておきたいと思う。

 加えて、昨日俺がソイルにお姉さん論を語って聞かせた効果が早速あったのか、食堂で料理を盛り付けてくれたお姉さんに少しはにかみながらお礼を述べていた。

 うむ、いい傾向だ。

 そのときは思わずソイルの肩に手を置き、こちらを振り向いたところで、ゆっくりと頷いて見せてやった。

 するとソイルは、照れた笑みを浮かべていた。

 そんなことを頭の片隅で思いつつ、森に到着。


「さて、それでは今日も走りましょうか……そして、昨日話したとおり今日は、モンスターとの戦闘の度に先頭が変わるから注意すること、以上よ」


 というわけで、森の中ランニングがスタート。

 まあ、学園都市周辺で日帰りできる範囲にはオークレベルしか出ないので、みんな特に問題もなく走りながら魔法を撃ち込んでモンスターを討伐できている。

 そして次々と先頭が変わるのも、これといった混乱はない。

 また、俺が先頭を担当するとき以外は、どのようにオークが討伐されようといちいち悲鳴をあげないよう腹内アレス君に了解を得ておいた。

 とはいっても、みんなある程度俺への配慮があるのか、極端にヤベェ魔法は使っていない。

 ……それだけ、軽く仕留められる自信があるともいえるが。

 そんなわけで、ソイルの魔法もなかなかにコントロールが行き渡るようになってきており、少し前までのソイルとはまるで別人といえそうな気がしてくる。

 こんな感じで夕方まで走って撃ってという時間を過ごし、学園に戻る。

 そこで、今日の夕食も焼き肉にしてもよかったのだが、さすがに二日続けてというのもね……という感じで食堂で食べることとなった。

 ああ、そうそう、モンスターの素材は森の中を走り始めてから今に至るまで、まだギルドに売却をしていない。

 その時間があったら、走ろうぜってことである。

 そのため、試験が終わったあと時間があるときにみんなで売りに行くことになる。

 フッ、大量の納品……ギルドのみんなも楽しみにしていてくれよな!

 とか思っているうちに夕食が終わり、お次は魔法練習場にて魔法の模試だ。


「よ、よろしくお願いします!」

「あら、今日のボウヤは元気がいいねぇ……それと部屋は63号室を使うんだよ、それじゃあ、頑張っといで!」

「は、はいっ! ありがとうございます!!」

「いつも、お世話になっております、それではいってきます!」

「はいよ、アンタも頑張っといで!」


 なんとなく、魔法練習場の使用手続をソイルに任せてみたところ、多少のたどたどしさはあったもののいい感じだった。

 うんうん、その調子だ!

 そして、俺も一声挨拶しておくことは忘れない。

 こうしてソイルがお姉さん教に入信しつつあるのを見て、ロイターとサンズは苦笑いを浮かべている。

 フッ……そんな顔をしていられるのも今のうちだぞ?

 そのうちお前たちもお姉さん教に宗旨替えさせてやろうじゃないか!


「……お前の趣味に巻き込もうとするのはヤメロ」

「まあ、僕はその辺のところ、あまりこだわりはないんですけどね」


 こいつら、俺の心を読みやがった!


「そこの3人……ノロノロしていると、置いていくわよ?」

「早くおいでよぉ!」

「すまない、今行く! ほら、冗談はこれぐらいにしてさっさと行くぞ!」

「ですねぇ」

「まあ、ファティマを怒らせるわけにもいかんからな」


 そうして63号室へ入室し、早速魔法の模試を開始する。

 みんなそれぞれ、弾速の速い魔法のうち得意なものを選んで挑戦。

 それでとりあえず一巡してみた結果、好成績な順にファティマ、俺、ロイター、サンズ、パルフェナ、ソイルとなった。

 ただし、ファティマと俺とロイターはかなり近い成績で、そのときのちょっとしたコンディションの差で簡単に順位が入れ替わってしまうだろう。

 また、サンズとパルフェナもそこまで差はないし、ソイルも今回は威力を確認しながらという感じだったので、まだまだ点数を伸ばせるだろう。


「……う~ん、あのすぐ消える障壁魔法がなぁ」

「そうね、確かにあれは少し厄介ね」

「そんなこといって、ファティマちゃんは何回か当ててたでしょ? じゅうぶん凄いよ!」

「でも、当てただけなのよねぇ……」

「ふむ、当てただけ……そうだな、ライトバレットでも試してみるか……だが、威力を出そうと思えば、私は光属性より火属性のほうが得意なのだがな……」

「……なるほど、光属性か!」


 今回も俺は使い慣れていたためもあって、なんとなくつららでやってみた。

 だが、ロイターがいうように光属性の魔法という選択肢はなかなかいいセンいってる気がする。

 しかも、なんといっても俺には前世のアニメなどで見たビーム兵器の記憶があるからな!

 イメージもバッチリさ!!


「よし! 早速俺が光属性の魔法で挑戦してみるとしよう!!」

「ほう?」

「お手並み拝見ですね!」

「期待しているわよ?」

「アレス君の攻撃魔法は氷系統が多かったからね、ちょっと楽しみ!」

「アレスさん、頑張ってください!!」


 みんなの声援を受け、ギュンギュンにやる気が漲ってきた!

 やってやるぜぇ!

 そうだ、どうせなら光属性本気モードの雰囲気を出すために魔纏を光属性に切り替えて、さらにスケルトンダンジョンの廃教会にいたスケルトンにもらった首飾りも装備してみるか!

 あれならきっと、俺の光属性の魔力を増幅させてくれることだろう!

 なんて思ったのだが……


『……いや、むしろ神の使者と認定されてしまうかもしれんな……そうなると、お前の求める自由がなくなるぞ?』


 ふと、昼間のロイターの言葉が俺の脳裏をよぎった。

 うん、なんかマズい気がするね……やっぱ、光属性本気モードは自重しておいたほうがいいかな……

 たぶん、しっかりと魔力を込めてビーム兵器をイメージした光属性の魔法を撃てれば、それだけで速度も威力も事足りるだろう。

 そうして、俺の心に潜んで暴れたがっていたイキリ虫もきっちりと抑え込んだ。

 ……ふぅ、これで大丈夫。

 そして、あのスケルトンにもらった首飾りは、手に負えなさそうな闇属性のヤバい奴と出くわしたときの切り札としよう、きっとそのほうがいいはず。


「おっと、少々待たせてしまったな……それじゃあ、やってみっか!」


 こうして、俺の光属性の魔法による模擬試験が始まるのだった。

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