第260話 認定されてしまうかもしれんな

「ついに来週は前期試験ね……そこで、既に試験範囲も終わっていることだし、今週は自習時間とします。何か分からないことがあったら、私に聞いてくれてもいいし、あまり大声でなければ周りと教え合ってもいいわ」


 それはつまり、1週間まるまる午前中は学科の試験勉強をしていいってことですよね!?

 これはありがたい!!

 よっしゃ、頑張っちゃうぞ!!

 こうして、俺たちは各自の裁量で自習を始める。

 ちなみに、Aクラスの生徒はみんな優秀、かつ真面目なようでガヤガヤと無駄話をせずに自習している。

 まあ、エリナ先生が見ている前で騒ぐわけにもいかないだろうし、もし仮にそんな奴がいたら俺がゲンコツを食らわせていただろう。

 そんな感じで時間が過ぎ、本日地の日の授業時間を終えた。

 そして、クラスが同じロイターと共に食堂へ移動を開始する。

 その移動中に聞こえてくる小娘どもの声……どうせ「今日もロイター様ったら、ステキよねぇ!」とかそんな感じだろうなぁ、と思っていたら……


「ねぇ、なんか今日……お肌が妙にツヤツヤな男子が多くない?」

「男子全員ってわけじゃないけど、確かに結構いるわね……」

「ロイター様は常に美しく輝いていらっしゃるから比較にならないけれど……隣のアレもツヤツヤしているし……」

「あら、奇行子様も身嗜みだけは意外といつも整えられていらっしゃるわよ?」

「えぇ~!? うっそだぁ~!!」

「本当よ、ウソだと思うのだったら、しばらく観察してみるといいわ……あの方、地味に制服もそのときの場面ごとに着替えていらっしゃるようだし」

「えぇ……それはやり過ぎじゃない?」

「さすが、アンタのファッションチェックはいつも行き届いているわね……」

「ふふっ、全ての殿方がもっと身嗜みに気を使うようになっていただきたいものね」


 俺は知らんうちに、ファッションチェックを受けていたらしい……

 だがまあ、「意外」という単語に多少の引っ掛かりはあるものの、ある程度好印象ではあるようなので一安心。

 さらにいえば、頻繁に風呂やシャワーを浴びていた俺の生活も間違いではなかったと認められたような気分である。

 ふむ……俺の中であの小娘は少女に格上げかな?


「アレス、お前も同じことを考えていただろうが……昨日の風呂が原因だろうな」


 昨日の風呂?

 はて……ああ! 男子のお肌ツルツルってやつか!!


「……光属性の魔力か?」

「そうだ……少し、やらかしてしまったかもしれんな」

「そうか? 別に害があったわけでもないし、構わんだろ……なんだったら、これからはそのとき大浴場にいる男子どもを集めて、毎日魔力への感謝を捧げてもいいぐらいだ」

「お前……あまり儀式めいたことをすると、下手したら教会を敵に回すことにもなりかねんぞ? ……いや、むしろ神の使者と認定されてしまうかもしれんな……そうなると、お前の求める自由がなくなるぞ?」

「ああ、その可能性があるのか……めんどくせぇ」


 何気にロイターの「神の使者」という指摘が、まったくの的外れではないかもしれないのが恐ろしいところだ。

 とはいえ、前世からこっちの世界に来るあいだ、転生神のお姉さんに逢ってここに送られてきたって記憶はない。

 だが、それは俺が忘れているだけってこともあり得るし、異世界あるあるを考えれば、何かしらの使命があってもおかしくはない。

 ……転生神のお姉さん!! 俺ってこの世界で何かをしなきゃいけないんですか!?

 そんなふうに問いかけてみたところ、俺の想像上の転生神のお姉さんは、ただ優し気な微笑みを浮かべているだけ……

 あっ、鈍い俺にも分かっちゃった……あの微笑みは自分で考えろってことだ……

 それじゃあ……転生神のお姉さんをお祀りして、「お姉さん教」の創始者にならんきゃかな?

 あっ、転生神のお姉さんが苦笑いしてる……さすがに違ったか……


「すまん、少し大げさだったな……そこまで深刻にならなくていい」

「お? おお、そうだな……」

「だがまあ、本格的に魔力へ感謝の祈りを捧げるのは、周りに人がいないときにしたほうがいいだろうな」

「かもしれんなぁ……とはいえ、魔力操作の時点でそういう想いもこもっているがな」

「まあ、だからこそ、気を付けたいところだ」

「まったく、難しいものだな」

「うむ、違いない」


 そんなことを話し合いながらの移動。


「意外と、ロイター様とあの方の組み合わせも悪くないのよね」

「……いい」

「そこは自分じゃなくていいのねぇ……」

「でも、あの2人とついでにサンズ、さらにオマケでソイルに囲まれてるファティマってズルいと思わない!?」

「一応パルフェナもでしょ?」

「一応ね……でも、あの2人が取り合ったのはファティマなわけだから、やっぱりファティマよ!」

「まあねぇ、とりあえず、うらやましいのは確かよねぇ……でもあの子って妙に雰囲気が強いから面と向かって文句をいう勇気は出ないわねぇ……」

「そう! そこなのよ!!」

「その辺、私たちみたいに、イケてる男子を眺めてるだけで幸せ系の女子は楽でいいわよね?」

「……いい」

「アンタ、そればっか!」

「……私も、そっち側に回ろうかなぁ?」


 なんか、不穏なことをいってる小娘もチラホラと目につくんだよなぁ。

 そして風除けのファティマさんは、マジ風除けだったみたいだね……

 でも、きゅるんとしつつ雰囲気が強いって……ホントにアイツは器用な奴だよなぁ。

 それはそれとして、男子寮の食堂に着いた。

 ソイルとサンズも既に到着済みのようだ。

 さあ、お昼もいっぱい食うぞぉ!! と腹内アレス君が気合を入れている。

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