第519話 予感があればこそ

「フッ……今日も1日、クールにキメるぜ! というわけでキズナ君、おはよう!!」


 まずはキズナ君に挨拶をして今日という日を始める。

 そして今日は闇の日、そこでなんとなく「闇」って「クール」なイメージがあるからさ、そういう意識で過ごせたらイケてるなって思っちゃうよね!

 そんなことを思いつつ準備を済ませて、朝練に向かう。

 そうして向かった先には……いつものようにファティマがいる。

 フッ……相変わらず今日も、きゅるんとしてるじゃないか。


「よう……今日もいい朝だな?」

「……そうね、絶好のランニング日和といったところかしら」

「フッ……違いない」

「では、行きましょうか」

「ああ……」


 とまあ、クールにキメつつ、ファティマと朝の挨拶を交わす。


「……それで、機嫌のよさそうな様子からすると、上手く事が運びそうかしら?」

「まあ、まだまだこれからといったところだが……まず、王女殿下方面で話を持って行く相手は決めたので、あとは彼の様子を見てといった感じかな?」

「そう……でも、秋季交流夜会まで日数が限られているから、あまりのんびりはしないように」

「そうだな、気を付ける」

「……とはいえ、秋季交流夜会がタイミング的にちょうどいいかと思っただけで、それが絶対というわけではないから、変に焦る必要もないわ。ただ、面倒だからといって先延ばしにしないようにだけは注意しておこうかしらね」

「うむ、心得た! ……それと、ロイターたちが協力してくれる方向で話がまとまったって感じかな?」


 まあ、サンズはともかく、ロイターはファティマの名前を出せば一発みたいなところがあるからね。

 たぶん、その辺のところはファティマも想像していたことだろうとは思う……そんな表情で俺の話を聞いているし。


「あら、それはよかったわね」

「はい、これもファティマさんのおかげです!」

「ふふっ……そんなにかしこまらなくてもいいわ」

「いえ! あまり積極的ではなかったロイターを動くつもりにできたのは、ファティマさんのおかげですから!!」

「……そう、まあいいわ。とりあえず、王女殿下の言葉をエトアラ嬢とセテルタもむげにはできないでしょうし、そこに公爵子息のロイターまで加わるというなら、かなり説得力も高まると思うわ」

「おうよ! ……しかしながら、昨日サンズがいっていたのだが、この件に関して王女殿下もそれなりにリスクを負うことになりそうだな?」

「エトアラ嬢とセテルタが強情を張るようであれば、そうなるかもしれないわね」

「やっぱり……」

「とはいえ、その程度のことで王女殿下が王位継承争いに勝てなくなるのなら、そもそも器ではなかったということでしかないわ」

「……なっ!! えっ!?」


 ファティマさん……発言が過激過ぎません?

 というか、俺は原作知識として王女殿下が王位を継承する流れになっていくんだろうなぁと思ってるから、そういう前提で物を考えてるみたいなところがあるけど、ファティマは違うだろ?

 いや、ファティマも既に王女殿下が王位を継承するという想定なのだろうか?

 だから、そんな物言いもできてしまう……のか?


「ふふっ……そう心配しなくても、きっと上手くいくから心配いらないわ」

「そ、そうかぁ……?」


 ファティマさんのこの自信、一体どこからくるのだろうか?

 ま、まあ、俺も自分自身のお姉さんセンサーを信じてるから、大丈夫だとは思っているけどね……

 ……ハッ!? もしや、ファティマさん……俺と同様のセンサーをお持ちで?


「……また変なことを考えているわね?」

「え、いや……ははは……」

「昨日もいったけれど、エトアラ嬢とセテルタは私から見てもお似合いだから、きっと大丈夫……本当に、変な強情さえ張らなければ……ね」

「……そう何度もいわれると、その『変な強情』っていうのが怖くなってきたぞ……?」

「まあ、そこをどうにかするのが、あなたの仕事かしらねぇ?」

「えぇっ!! そこなのォ!?」

「まあ、頑張ってちょうだい」

「マジかぁ……」

「ええ、マジよ……というより、本気でセテルタと友人のつもりなら、頑張らないわけにはいかないでしょう?」

「う、うむ……それもそうだな……」


 まあね、俺がエトアラ嬢に応えることができないっていうのがそもそもの出発点ではあるのだけど、かといって、嫌なことをセテルタに押し付けたいわけではないからね。

 エトアラ嬢と結ばれれば、セテルタは幸せになれるだろうという予感があればこそなんだ。

 よし! 改めてその意識を持って、あの2人が上手くいくように頑張ろう!!

 そんなこんなで約1時間の朝練を終え、それぞれ自室に戻る。

 そしてシャワーを浴びたら、朝食だ!

 ちなみに、珍しく今回は女子と食事の約束をしていない。

 いやぁ、久しぶりにのんびりおひとりさまライフを満喫できちゃうかなぁ?

 そんなことを思いつつ男子寮の食堂へ向かい、適当な席に着く。

 のんびりタイムよ……いざ!


「やあ、アレス殿、ここに座ってもよろしいでござるか?」

「……お! おう、もちろんだ!!」


 まさかの、未来の近衛殿ことティオグのほうから来てくれたのだった!

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