第520話 とても名誉なことなのですからな!!

 タイミングを見計らう必要があるなって思ってたのが、ティオグのほうから来てくれたのはとても助かる。

 ま、あまり唐突にエトアラ嬢とセテルタの話を出すのもどうかと思うし、話の流れを上手く見極めて切り出すとしますかね。

 というわけで、まずは軽い挨拶的な会話から……


「ティオグと食事を共にするのは前期以来だし、本当に久しぶりだな!」

「そうでござるな……まあ、お互い、いろいろと忙しい身のようですからなぁ」

「だなぁ……あ、そういえば、聞いたぞ? この夏休み中、王国東部で発生したモンスターの氾濫を王女殿下と共に鎮圧したんだってな?」

「おお! そんなこともありましたなぁ!!」

「実家から学園都市への移動中に立ち寄った南西側の街にまで話が広まってきていてな、そこの市民はその話題で持ち切りだった」

「ほほう、そうでしたか……拙者はそこまで活躍できたわけではござらんが、そのように王女殿下の名声が高まるのは、この上なく嬉しいことでござる」

「それで、そのとき聞こえてきた話の中で『王女様のご学友が、これまたつわものぞろい』とかいわれていてな……謙遜しているが、ティオグも頑張ったんじゃないか?」

「ハハッ……そのようにいわれると、少し気恥ずかしい気もしてくるでござる。しかしながら、その『ご学友』の中心はやはり、ラクルス殿のことでござろうなぁ……いやはや、あのときの拙者は、ラクルス殿の実力も見抜けず、まっこと恥ずかしいことをしでかしたものでござるよ……今にして思えば、王女殿下は早くからラクルス殿の真価を見抜いていたのでござろうなぁ……」


 あのときというのは、主人公君をのちの王女殿下の取り巻きとなる男子諸君が詰めようとしたときのことだね。

 まあ、別名アレスの熱血教室の日ともいえるかもしれない。

 あと、俺が原作ゲームで知る限りにおいては、あの時点での王女殿下は主人公君の実力自体を見抜いていたわけではないと思う。

 ただ単に、身分による壁をあまり作ってこない主人公君が新鮮だっただけな気がするが……それはそれとしておこう。


「まあ、そういう熱意に任せて突っ走ってしまうのも、青春らしいといえば、らしいんじゃないか?」

「フフッ、『熱意』でござるか……そういえば、あのときアレス殿の熱意ある語りかけがあったからこそ、今の我らがあるのでしたなぁ……改めて、感謝申し上げる」

「いやいや、それはあのとき勇気を振り絞ったティオグたち自身がつかんだ栄光さ」

「アレス殿は拙者に『謙遜している』とおっしゃられたが、なんのなんの、アレス殿こそ謙遜されておられる……実際、我らだけではなく、ヴィーン殿たちなど、いろいろな方々に影響を与えておられるのですから。それに、王女殿下もアレス殿の影響力には感心なさっておられましたぞ?」


 ……王女殿下の感心だと?

 ふ~む、マズいフラグじゃないといいんだがな……

 でもまあ、こっちから求愛行動を取らなければ、とりあえず破滅のシナリオが動き出すことはないんじゃないかな?

 というか、今の俺なら王国相手に独りで戦争をするのは無理でも、国外逃亡なら余裕でできちゃうだろうから、既に破滅回避どうこうを心配する段階ではない気もするし。

 そのため、どっちかっていうと、エトアラ嬢みたいに王女殿下との婚姻話が出る危険のほうがあるかもしれないね。

 ……アレス君って、血筋自体は母上のおかげで何気に超優良みたいだからね、全くあり得ない話でもないだろう。

 ただし、その場合は母上の実家であるルクルスント公爵家が横槍を入れてきてくれるハズ!

 なんか、兄である現当主が母上のことをよく思っていなかったらしいからさ!

 それに、変な話ではあるが、俺には「親父殿」という最強の切り札がある!

 きっと親父殿なら、俺が王女殿下と婚姻を結ぶようなことにはならないように上手く立ち回ってくれるハズ!

 だって、俺が王配にでもなったら、ソエラルタウト家が公爵に陞爵という可能性も出てくるだろうからね……親子二代に渡って婚姻による陞爵とか、あの親父殿なら絶対に嫌がるに違いない!

 そんなわけで、王女殿下と……っていう心配はあまりしなくていいんじゃないかと思うわけだ。

 ……あ、でも、むしろそうならないように、俺を破滅させようという新たな陰謀が生まれる可能性のほうがあるかもしれんね。

 そこにマヌケ族も絡んできて……とか?

 ふむ、それはあり得るな……そうなった場合に物理的に対抗できるよう、これからもシッカリ鍛錬を積んでおこっと!

 ちなみに、「それなら、エトアラ嬢との婚姻も親父殿が潰してくれるのでは?」とも一瞬考えなくもなかった。

 ただ、その場合だと婿養子に出して、あとは縁を切ってバイバイって感じで終わりそうな気がするんだよね……だからあんまり期待できそうにないんだ。

 とまあ、それはそれとして、ちょっと考え込み過ぎてしまったかもしれない。


「……すまんね、王女殿下が俺のことを感心なさっておられたと聞いて、つい驚いてしまった」

「ハッハッハッ、それはそうでござろう! とても名誉なことなのですからな!!」

「ああ、恐れ多いことだよ」


 とりあえず、ティオグはそれで納得してくれたみたいだ。


「……それはそうと、アレス殿もまた新たに話題を集めておられるようですな?」


 来た!

 ここで、上手いことエトアラ嬢とセテルタのカップリング話に持っていくぞ!!

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