第521話 心の在り方を捉えることができた
チャンス到来なわけだが、ここで焦ってはいけない。
落ち着いて、クールに……サラッと自然に話を持って行くんだ!
「ああ、エトアラ嬢とのことだろう? フッ……ティオグにまで注目されているとは、俺も少し気恥ずかしくなってきたな……」
「まあ、それこそがこの学園に我々が通っている理由でもありますからな、何も恥ずかしく思う必要などありますまい」
「それもそうか……」
まあ、ティオグのいうとおりだろうね。
そもそも原作ゲームの時点で、恋愛シミュレーションをするのがこの学園に通う目的なのだし、それが現実となったこの世界でも、学園はそういう場所となるのは当然といえば当然かもしれない。
「それにしましても……さすがアレス殿というべきか、あのエトアラ嬢に見初められるとは、拙者も驚きましてござる」
ふむ、さすが侯爵令嬢とでもいえばいいのか、ティオグから見てもエトアラ嬢はなかなかレベルが高いようだ。
だが、俺の理想とするゴールはそこじゃないからな……よし、ここらで仕掛けるとするか!
「そのことなのだが……俺はエトアラ嬢との婚姻に前向きではないのだ……」
「ええ、それも知っておりますとも……セテルタ殿と友誼を結ぼうとされているのでござろう?」
「まあ、それもあるんだが、俺にとってそれは本筋ではなく、ほかの理由があってな……」
「ほほう、それはそれは……」
「その理由というのがな、エトアラ嬢には俺なんかよりも、よっぽどふさわしい相手がいると思っているからなんだ……」
「……なんと!! アレス殿よりも、ですかな!? ……そのような御仁、寡聞にして拙者には見当もつかないでござる……」
「まあ、ティオグの場合、そこまで近くで見ていないからかもしれないが……いるんだ。むしろ俺が思うに、エトアラ嬢にはその男しかあり得ないとすら思っているぐらいだ」
「……そ、そこまでアレス殿がおっしゃられるとは……よほどの御仁のようでござるな」
よし、いい感じでティオグの興味を引きつけられていそうだぞ……さて、そろそろ決めに入るとするか。
「……それで、その男というのがな」
「ま、待ってくだされ! そんな大事な話、拙者などにされてよろしいのでござるか!?」
「ああ、もちろん……俺たちの仲だろ?」
おっと、逃がすものか!
「アレス殿……拙者のことをそうまで思っていただけていたとは……過分なお心遣いにかたじけない気持ちでいっぱいにござる」
ありゃ、割とノリでいった言葉だったのに、思いのほかティオグの心にクリティカルヒットしたっぽい。
まあいいけどね、俺自身ティオグのことは気に入っているのだから。
ほかにも、あの日「アレスの熱血教室」に参加した者たちは、俺の中でなかなか見込みある男たちとして認識している。
「フッ……あの日、魂で語り合った相手のことは、俺にとっても特別なのさ」
「確かに……あの語り合いのおかげで、拙者の運命も変わりましたからな……まごうことなき特別にござる」
「ま! そういうことさ!! ……それで話を戻すと、エトアラ嬢にふさわしいと俺が思っている男っていうのがな……実は、セテルタなんだ」
「……なッ!? そ、それは……アレス殿……お戯れを申されているわけでは……ないのでござるな?」
「ああ、もちろんだ」
信じられないって顔をしているティオグ。
まあ、トキラミテ家とモッツケラス家の確執を知っている者からすれば、当然の反応といえるかもしれないね。
「いやはや……なんとも驚きに満ちたお話にござる……だが、アレス殿がいうのであれば……あながち間違いではないのかもしれませんな……」
「俺の話を『荒唐無稽な話』と切り捨てず、真面目に聞こうとしてくれる辺りも、俺がティオグを語るに値する男だと思っているところだな」
「ハハッ、あまりおだてるのはよしてくだされ、調子に乗ってしまいそうでござる」
「フッ、自分の気持ちを正直にいったまでさ」
「まったく……アレス殿には敵いませんな。まあ、そんなアレス殿だからこそ、誰に対しても一線引いたところのあったセテルタ殿も友誼を結ぼうと思われたのでしょうなぁ……」
えっ? セテルタってそうだったの?
ああ、でもそうか……だから前期からつい最近まであんまり印象に残っていなかったのかもしれないな。
「まあ、それでな、俺も最初はあの2人って凄く仲が悪いなって思ってたんだよ……でも、注意深く見ていると、なんとなく……心の深いところでつながっているように見えたんだ」
「ほほう……にわかには信じ難いことでござるが……おそらく、魔力操作に習熟しているアレス殿だからこそ、そのような微かに魔力が示していた心の在り方を捉えることができたのでしょうなぁ……」
「ああ、そうかもしれん」
「それでアレス殿は、あのお二方をどうにか結びつけられないかと考えておられるわけでござるな?」
「そのとおりだ」
「……なるほど、昨日アレス殿から感じた魔力はそういうことでござったか」
「おや? 気付いていたのか?」
今日は、たまたま声をかけてきたのかと思っていたが、実はそうではなかったようだ。
「ええ、あの日アレス殿から魔力操作を勧められて、拙者なりに頑張っておりますからな……そのおかげか、多少なりとも勘が冴えてきたようでござる」
「おおっ! いいね、いいねぇ!!」
ティオグめ、なかなかやるじゃないの!
やはり、見込みのある男だと思った俺の勘に狂いはなかったようだな!!
「フフッ、アレス殿に少しは認めてもらえたようで嬉しい限りですな……そして、あのお二方のことでござったな……かといって拙者ごときがどうにかできる話でもありませぬゆえ、ここはひとつ、王女殿下にお話ししてみましょう」
「……俺がいうのもなんだが、そんな簡単に王女殿下を煩わせるようなことをいっていいのか?」
「いえいえ、周囲の情報に疎くなることを心配されておられてな、王女殿下がそれをお望みなのでござるよ」
「へぇ、そうなのか」
「それに、あのお二方から始まり、ゆくゆくは両家の関係が修復していくようになれば、王国の将来にとってもよいこと。その第一歩となる可能性があるのであれば、むしろ王女殿下のお耳に入れぬわけにはいきますまい」
よっしゃ、この上ない流れに乗ったぞ!
これで王女殿下方面からのアプローチは完璧なハズ!!
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