第522話 既に持ってた!!

「アレス殿、今日はとても楽しい朝食でござった! またご一緒いたしましょうぞ!!」

「おう、ティオグとなら、いつでも大歓迎だ! それじゃあ、またな!!」


 こうして、ティオグとの実に有意義な朝食を終えて、いったん自室に戻ることにした。

 それにしても、いやぁ……こんなにもアッサリ俺の思惑どおりに事が進んでくれるとはね、なんともありがたいもんだよ。

 そして、今日の夕食はセテルタと一緒に食べる約束をしている。

 そのとき、セテルタの気持ちをある程度深いところまで掘り起こせたらなって思ったりもする。

 とはいえ、おそらくエトアラ嬢について悪態をつくだろうことは予想できる。

 だが、その中に隠された本音みたいなものの一端でも見つけられたなら最高だ。

 大丈夫だ、お姉さんセンサーはゴーサインを出してくれているんだ、俺はそれを信じて突き進むのみ!

 フフッ……いいぞ! この流れだっ!!


「……おい、魔力操作狂いの奴……何やら怪しい笑みを浮かべているぞ?」

「ホントだ……さらに魔力操作を広める算段でもしているのかなぁ? もしそうなら、勘弁して欲しいなぁ……」

「もしや……今までティオグとかいう王女殿下の取り巻きと一緒だったのも……その企ての打ち合わせだったとか?」

「お前たち……奴をあまり見ないほうがいい……なぜなら、わざわざ自分から危険に飛び込むようなマネをする必要もないだろう?」

「そ、それもそうだな……」

「そういえば、あの人って……割といっつもあんな感じだったもんね……」

「ま、まあ……望むと望まざるとに関わらず、答えはそう遠くないうちに出るかもしれないしな……」

「そういうことだ……我々は事の成り行きを、ただ黙って冷静に見守るだけ……それで良いのだ……」


 なんか、相変わらず男子共がつべこべいってるけど、まあいい。

 それから、ティオグにも平静シリーズをプレゼントしようかと思ったら……なんと! 既に持ってた!!

 これには正直、ビックリしちゃったね。

 ただ、理由を聞けば、なるほどって感じだった。

 というのが、実はつい最近ノーグデンド子爵家から王家に平静シリーズが献上品として贈られていたらしいのだ。

 そして、国王陛下からその一部が王女殿下に与えられ、そこからさらに取り巻きたちに分け与えられたとのことらしい。

 ま、まあね……ノーグデンド家には在庫がたっぷり眠っていたみたいだからね……

 それから、なんで今さらっていうのはさ、フフッ……やっぱそれは、俺と子爵夫人とのこの前の語らいが影響してるんだろうなって気がするね!

 そう思うとさ、いやぁ……ちょっぴり照れちゃうよね!!

 とまあ、そんなうぬぼれ話はともかくとして……王女殿下とその取り巻きたちが平静シリーズの使用を始めたというのは、とてつもなく朗報だといえるだろう。

 使用者が増えるということは、それだけ全体の底上げにつながるのだからね。

 そして「あの王女殿下がご使用になられた!」って感じで、いわゆる王家御用達ともなれば、さらにマネして平静シリーズの使用者も増えることだろう。

 フフッ……これはいいぞ!

 それに、こうやってみんながレベルを上げていってくれれば、それだけマヌケ族や魔王との戦いが有利になっていくのだからね、これ以上歓迎すべき出来事はないだろう。

 ハハッ! ハーッハッハッハッ!! 残念だったなァ! マヌケ族ちゃんたちィ!!

 ……なんて、高笑いをしたいところだ。

 ただ、ここはまだ自室ではなく廊下であり、また男子共にヒソヒソされちゃうかもしれないからね、あまり派手に笑うのは控えておこう。

 とか思っていたら、早速……


「……今日の魔力操作狂い……いつになくゴキゲンみたいだなぁ」

「う~む、なんかいいことでもあったのかねぇ?」

「まあ、今日は闇の日、それはつまり授業がないってことで喜びが溢れ、そんでもってこれから遊びに行く予定にワクワクしてるんじゃないの?」

「……いや、ああ見えて魔力操作狂いは妙に優等生みたいなところがあるからな、お前と違って授業がないことを喜んだりしないと思うぞ?」

「うむ、お前とは違うのだ」

「……ほぁっ!! 急に矛先がボクに向いてきた!?」


 そうだな、今の……いや、この世界の俺は授業がないことを喜べない。

 なぜなら、エリナ先生に会うオフィシャルな理由がなくなってしまうからだ。

 そんなことを思いつつ、勘違い小僧にチラリと視線を向けてみた。


「……ヒャッ!」

「ほら、やっぱり違うってよ」

「うむ、誰だってお前と一緒にされてはかなわんだろうな」

「そ、そんなぁ……どうしてボクだけぇ……」


 とまあ、そんな勘違い小僧のことはいいとして……今日は夕方までどうしよっかなぁ?

 久しぶりに学園都市周辺の森でモンスター狩りなんかもいいな。

 まあ、日々鍛錬を積んでいるし、模擬戦もしているから、体が鈍るってことはないだろうと思う。

 でも、モンスターとの実戦からでしか学べないものもあるだろう。

 そういう意味では、ここ最近ちょっと実戦から遠ざかっているともいえるからね、やはり森に行っておいたほうがよかろう。

 そして学園周辺はきちんと間引きをされていることもあって、あまりモンスターが強くないとはいわれがちだが、その分こちらは平静シリーズのハンデを背負うつもりだからね、それでちょうどよくなるだろう。

 とはいえ、イレギュラーに強い奴なんかが出てきたときに慌てないで済むよう、すぐ外せる物にしておこっと。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る