第523話 ナイスタイミング

「……ふぅ、やはり実戦から学ばせてもらうことっていうのは少なからずあるねぇ」


 なんて呟きつつ、倒したてホヤホヤのオークをマジックバッグに収納する。

 まあ、当然のことなんだろうけど、同じオークという種族でも、個体によって性格っていうのか、行動に差があったりするんだよね。

 こちらが平静シリーズを着用していることによって魔力操作に難があるってことを感じ取っているのか、個体によっては侮った態度の奴がいるんだ。

 まあね、こういう奴は、一言でザコ。

 その反対に、違和感もしくは、じんわりとした威圧感みたいなものを感じ取れるのか、逃げだそうとする奴もいるんだ……まあ、逃がさないけどね。

 それで、そういう奴と実際に戦ってみると、なかなかしぶとい。

 なんというか、こう、戦い方が丁寧というか、致命傷となる一撃を見極めようとでもするかのように、巧みな身のこなしを見せてくれるんだ。

 そういう奴と出会えたらアタリだね……あんまりいないけどさ。

 まあ、だからこそアタリというんだけどね。

 とまあ、そんな感じで久しぶりの実戦によって経験値を積んだってわけ。

 といいつつ、残念ながらこの世界にステータスオープンっていう機能は用意されていないので、単に気分でいってるだけだね。

 ……転生神のお姉さん! 今からでもステータスを実装してくれたりなんかしちゃったり……は無理ですよねぇ……

 転生神のお姉さんに心の中でお伺いを立ててみようとしたのだが、即行で苦笑いを返されて終わった。

 まあね、転生神のお姉さんがああいう苦笑いをするときはだいたい「ノー」のサインだってことぐらい、そろそろ俺にも理解できてきているのさ……あはは……はは……はぁ……

 そんなこんなで日も暮れてきたので、男子寮の自室に戻り、シャワーを浴びる。

 そうしてサッパリとしたところで、食堂へ向かう。

 フフッ……今回はセテルタと一緒だ。

 さて、俺の鮮やかなトークテクで、素顔の心を引き出してやろうじゃないの!

 そんな意気込みを持ちながら、空いている席に着く。

 そしてさほど間を置くこともなく、セテルタがやってきた。


「やあ、アレス、待たせたかい?」

「いや、俺も今来たところさ」

「そうか、それならよかった」

「ああ、それでたぶんロイターとサンズも来るとは思うんだけど、ちょっと遅れて来るかもしれないな。あと、ヴィーンたちもたまに一緒になるけど、今日はどうか分かんないな」

「フフッ、なかなか賑やかで楽しそうだねぇ」

「まあ、それなりにな」


 ティオグの話では、「誰に対しても一線引いたところのあった」ってことらしいけど、このセテルタがねぇ……

 ああ、でも……今思い出してみると、派閥の取り巻き相手に表情が微かに色褪せたようにも見えたことがあったし、その辺も多少は関係しているのかもしれない。

 ……あれ? そういや、取り巻きたちがいないな?


「そういえば、周りの連中は一緒じゃなかったのか?」

「うん、彼らには遠慮してもらったんだ……アレスたちとは、そういうのを抜きにして友人関係を築きたいなって思ったからね……」


 そう話すセテルタの表情は穏やかなものだったが……どことなく、固い意思のようなものが宿っているように見えた気がした。

 もしかしたら、俺とつるむことについて取り巻き共から何かいわれたりしているのかもしれんね……「やめとけ!」とか、はたまた「トキラミテの娘から奪い取って悔しがらせたれ!」なんてのもあり得るかな?

 ま! とにかくセテルタは、そういったなんのしがらみもなく、ピュアな気持ちで友達になりたいってことなんだろうなぁ。


「それはそうと……アレスにもらった平静シリーズを本格的に試してみたんだけど……コレ、凄いね!」

「お、早速か! だろっ!?」

「一応、段階を踏みながらのほうがいいかと思って、まずは3つだけで訓練してみたんだ。とはいえ、正直なことをいえば、最初はある程度慣れたら早めに4つに入ろうかなって思ってたんだ……でも、たった3つと甘く見てはいけないね……着用して時間の経過とともになんというか、いつもより丁寧に魔力操作をしなくちゃいけないっていうことがより実感できてきてさ……自分は今までどれだけ適当に魔力操作をしていたのかって思い知らされたよ」

「そうか……まあ、使い始めで体がビックリしてしまったってこともあるだろうさ。でも、そのことに早く気付けて、むしろよかったじゃないか!」

「うん、そうだね。というか、もしこのことに気付かずそのままずっと過ごしていたら……そう思うと、恐ろしくもなってくるね……」

「だなぁ……とはいえ、最近の風潮として武系から文系に移行し始めている貴族も多いみたいだから、意外と関係なかったりするかもしれないけどな……」

「……でも、アレスはそれをよしとしないんだろう?」

「フッ、まあな……俺は『魔力操作こそが人生を切り拓く鍵』だと、そう強く思っているからな」


 というか、マヌケ族……そして最悪の場合、魔王との戦争が待ち構えているのだしさ。


「……まあ、最近は何やら不穏な動きをする輩もいるぐらいだし?」


 一応、俺たちの会話は周囲から認識を阻害するようにはしているが、それでもセテルタは声を潜めていった。


「ほう、セテルタも知っていたのか……」

「夏休み中に実家で少しだけどね……そしてたぶん、あの人も実家で聞いたんだろうね……だからこそ、実力のあるアレスに目を付けたのかもしれない……」


 あの人っていうのはもちろん、エトアラ嬢のことだね……そして、ナイスタイミング。

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